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Policy Seminar

今後の科学技術イノベーション政策の方向性と『夢ビジョン2020』 一行政官が考える科学技術政策立案のトレンド

2014年5月19日(月) 公開【講演録】
開催日時
  • 第6回科学技術政策セミナー
  • 2014年5月12日16:00-18:00
  • 大阪大学テクノアライアンス棟1F 交流サロン
  • 開催概要

    国の予算が減少する中において、文部科学省における政策決定プロセスの見直しにも少しずつ変化が起きています。その現状についてお話をいただいた上で、参加者のみなさんと議論を行いました。

    開催日時
    ・第4回科学技術政策セミナー
    ・2013年10月25日15:30-17:30
    ・大阪大学テクノアライアンス棟1F 交流サロン
    開催概要

    EUでは、1984年から研究や技術開発を推進するために「研究枠組み計画(Framework Programme)」が設定され、その下で大きな研究資金が動いています。本年は2007年から始まったFP7が最終年を迎えており、来年からは新たな枠組みとしてHORIZON2020がはじまります。今回のセミナーではこのようなEUの科学技術戦略がどのような経緯で設立されてきたかや、何に焦点に当て戦略が練られているのかについて

    Toshiyasu Ichioka
    斉藤卓也

    文部科学省大臣官房 政策課 評価室長/科学技術改革タスクフォース戦略室長

    プロフィール:平成7年に科学技術庁入庁以降、高速増殖炉もんじゅのナトリウム漏えい事故対応、大型放射光施設SPring-8の共用開始、JST基礎研究事業等を経て平成16年文部科学省研究振興局ライフサイエンス課長補佐、平成18年外務省在オーストラリア日本大使館一等書記官(科学技術、医療、環境担当)、平成21年文部科学省科学技術・学術政策局政策課長補佐、平成23年文部科学省科学技術・学術政策局政策科学推進室長、文部科学省大臣官房会計課予算企画調整官等を歴任。現在、科学技術改革タスクフォース戦略室長、科学技術・学術政策局 政策科学推進室次長を兼任。科学技術政策を専門に活躍。研究現場の声を政策に反映するためのさまざまな活動やネットワーク作りのために幅広く活動。日本分子生物学会が企画した「生命科学研究を考えるガチ議論」などにも関与。

    科学技術予算の置かれている状況

    文部科学省(以下、文科省)主導で、大学への運営費交付金が減り、そのぶん科学研究費補助金(以下、科研費)等の競争的資金の割合が増えていますが、科学技術システム定点調査の中で「2001年頃と比べて研究の中身がどのように変化しているか」と聞いている項目があります。2001年に比べて長時間かけて実施する研究や基盤的な研究、新しい研究領域を生み出すような挑戦的な研究は減っていて、一方流行を追った研究、短期的に成果が生み出せる研究は増えていると思っていまる人が多いようです。全体としての基礎研究の自由度が下がり、多様性の確保が難しくなっていることが調査結果で明らかに出てきています。

    基盤的な経費を削減して競争的資金を増やすと、ある程度、こういう傾向になることはあると思います。そもそも、以前は活躍されている方もそうでない方も一律に一人あたりいくらという配分になっており、あまり競争的ではありませんでした。 少しずつ一律の配分を削り、競争をして勝ち残った人にできるだけ研究費がいくという仕組みに変えているので、起きるべくしておきた変化ではありますが、これが本当に妥当なレベルなのか、行き過ぎてしまっているのか、もう少し行くべきなのかについて、当然議論があってよいと思います。

    基盤研究の多様性の縮小

    また、同様の話ですが、イギリスやドイツといった最近元気のあるヨーロッパと比較して日本は、既存の分野ではがんばっているものの、例えば臨床医学は弱いということや学際的・分野融合的領域では圧倒的に差をつけられているということが科学技術政策研究所(NISTEP)の調査でもわかっています。「分野が固定している」ということとつながっているのだと思いますが、既存の領域ではがんばっているけれど、新しく生まれている学際的な領域や分野融合の領域では参加もしていないということが見られます。

    サイエンスマップにおける日独英の参画領域数の比較

    また、「優れた研究者を確保しなければいけない」、とよく言いますが、日本の大学は、私立大学・公立大学・国立大学どこを取っても「そういう人を確保をするための取組をしていますか」と聞くと、「特に取組はしていない」、と答えたところが大多数です。一方、海外の機関では特に取組をしていないというところはなく、なにかしらみんな競争するように、いい人を採ってくる努力をしています。

    このような話を踏まえた上で、この状況をどう変えていったらいいのだろうか、という話をこれからしたいと思います。日本の研究開発投資の中で、8割は民間投資で政府投資は2割しかありません。その2割の投資をどのように最適に配分して、それによって残りの8割の民間投資がうまく流れて、全体として国の競争力強化につながるかという観点になるのだと思います。少なくとも、その2割の部分の政策をどう変えるかという話になります。

    政策策定プロセスの見直し

    合理的な政策形成というと、今でも思い出すのは行政刷新会議による事業仕分けです。みなさんは直接影響を受けた方はいらっしゃらないと思いますが、「1番でなければだめなのですか?2番ではだめなのでしょうか」とう話もありました。この発言をした女性議員に対して、「短時間議論をしただけで予算を半分にするということでいいのか。歴史という法廷に立つ覚悟ができているのか。」と声を上げた著名な研究者もいました。役所も一緒に座っていた研究者の方も合理的に回答することができなくて苦労したという記憶があります。

    合理的に回答ができないのはなぜかというと、もともと科学技術予算の成立には、研究者の方は文科省或いは関係省庁に説明すれば事足りて、我々も財務省や関連する政治家に説明すれば事足りていたことがあると思います。そのような過去の経緯とは関係なく事業仕分けでは、基礎研究のような長期的な成果も見えにくいものに対して、通常我々が受け答えしている資料では、まったく説明できないようなことになってしまいました。

    事業仕分けで行われていたことを、簡単にデフォルメして話をすると、家庭の収入が減ってしまい、家庭の支出をどこか減らさなければならないときに「子どもの塾を辞めさせる」「今まで家の食事は国産和牛だったけれど安い輸入肉に変える」「夏休み行く旅行を海外旅行から国内の近場の温泉に変える」という3つを並べたときに、その3つに対して「すぐ効果は出るんですか」と問われるわけです。塾については、「成績が半年後にあがるかもしれません。20年後にその成果が見えるかもしれません」という説明しかできないと、「その投資効果はなんだ?」という話になります。長期的な投資に対して十分な説明ができていなかった点は身にしみています。

    官僚から見た事業仕分け

    一般論として、大学の中で話をすると「研究開発投資は要らないから資金を削減するべきだ」という人はほとんどいません。財務省レベルでも政治家レベルでもたぶん同じでしょう。しかし、非常に厳しい国家財政の中で効率的にやってくださいということを常に言われる立場に置かれているということだと思います。事業仕分けの動きを受けて一つおもしろいと思ったのは、若手研究者が「政策がこうすべきだ」とか「現状こんなところに矛盾がある」といった政策提言のようなものを出してくれることが増えたことです。藤田保健衛生大学の宮川剛氏が行った最前線の現場研究者へのアンケートがあります。「現在の研究者のキャリアパスは、これから研究者を目指す人にとって魅力は十分だと思いますか?」と聞いたところ、「まったく魅力が足りません」という人が65%ぐらいいて、「あまり十分とは言えない」という人が30%ぐらいいます。この二つを足すと「十分じゃない」と思っている人が95%になります。そして、「十分である」という人はわずか3%です。日本は科学技術立国だと言って、いい人材がいい研究をして成り立っていると言いながら、その最前線の95%の人が「このキャリアパスは魅力がないんですよ」と思っている仕事って本当に長続きするのだろうかと思います。

    一方で、学者の国会とも言われ、国の科学技術政策にも影響力がある日本学術会議という組織がありますが、構成員の年代は高くなります。確かに、ひと昔前に最前線で研究をしていて、いまはマネジメントをされている方のご意見が多くなりますが、これだけ変化が激しい中で、その最前線にいる世代のご意見なり現状なりをどのように吸い上げて、政策立案に活かしていくかを真剣に考えないと、先ほどのように95%の人が「魅力を感じない」というポストになってしまうのではないかと感じています。

    事業仕分けを受けた動きとして、同じ民主党の時代に、今までの考え方ではない新 しい考え方で政策をつくるべきだということで改革がスタートしました。「文科省はなぜそんなに近視眼的で木を見て森をみない政策作りばかりやっているんだ」と時の大臣からのコメントもあり、30年後に日本がどうなるのかというアプローチから、一度時間をかけて検討してみろという話がありました。従来だと大臣がそういうふうに言うと「わかりました」と事務次官や局長などが一生懸命頭をつきあわせるのでしょうが、この時は大臣から「2030年には少なくても今の上層部はもう現役じゃないだろうから、少し中堅とか若手で議論をしてみろ」というご指示頂き、私やもう少し若い世代の人があつまって一から政策全体を見直すということをしました。

    その時に分析してつくったのがこの図で、大臣にご説明した際に使用したものです。高等教育政策も含まれますが、主に科学技術について、どのように文科省等で政策がつくられていて、つくられた政策をもとにどういうふうに大学の研究現場に浸透していっているのか、ということを書いたものです。

    科学技術政策の全プロセスにおける様々な課題の相互関係表現シナリオ

    左側が役所の中ですが、政策ができあがるまでに文科省の中でも全体的な戦略や実施体制が不在であることがわかります。そのために、各部署の裁量でバラバラに予算要求して細かい予算制度が乱立していて、例えば融合研究は進まないだろうし、 効率も悪いと。更に責任の体制が不明確であるとか書いてあります。図の下の方にいくと無駄な仕事が多くてそれに忙殺され業務が非効率になってしまっていて、現場を見に行くことも研究者に会うこともできなくなっていて、より現場感覚とは乖離した近視眼的な政策ができてしまうなど。大臣のご指摘の通り、惨々たる状況でした。これがすべてではないですが、こういう点もあるのではないかということで分析をしたものです。

    本来は、どんな社会を目指したいのかを共有した上で、それに基づいて今やるべきことを考えるというバックキャストの発想に転換をしなければいけないのではないかと提案をしています。また、意思決定の速度を上げる必要があるのですが、変化が激しいので正直なところ、今の役所の政策づくりの中では限界があります。そこで、「戦略室というものをつくらせてください」と提案をしていました。結果として、事務次官決定で「科学技術改革タスクフォース戦略室」をつくってもらいました。文科省という組織は、ひと昔前は毎年予算も増えるし、人も増えるという構造の中で、毎年増える部分のリソースをどこに配分するかを考えることに最適化されていると思います。

    例えば、文科省の中でもがんばって成果がでているところも、歴史的使命を終えてしまったところも一律何%カットというところから予算を考えています。そもそも、霞が関の中の予算のつくり方もすべての省庁一律、何%カットと未だに毎年やっています。厳しい財政状況で右肩上がりに資源が増えるのは想定しがたいですので、本来は、「こういうことがやりたい」という提案があった上で、どれを実際に行うのかを決めることと並行して、今やっていることの中でうまくいっていない点をどれだけ削るかを考え、その削った資源でやりたいことを行う仕組みが必要だと思います。

    今の政策立案の仕組に構造的な問題があるのではないかということで上記のような取り組みをしてきました。旧文部省・旧科学技術庁の縦割りを超えるため、高等教育側も研究側も両方、そして省全体を取りまとめる立場の人にも入ってもらっています。残念ながら「すごく進んでいます!」というような状況ではありませんが、少しずつ意識改革ということで行っています。

    この後「夢ビジョン2020」の話題がつづきました。どのようなお話があったかは、 大阪大学URAメールマガジンvol.8「阪大の点と線」特集(2014年5月発行)を ご覧ください。
    http://www.ura.osaka-u.ac.jp/uramagazine/vol_008.html#02

    フロアとの意見交換

    参加者A:欧米諸国では、リーダーと中堅たちで、同じように議論をしながら取組む姿勢があると思いますが、日本にそういう文化があるのかどうかはどうお感じですか?また、いま課題に感じていることや可能性を教えてください。

    斉藤:企業や他の組織で、改革がうまくいっている事例をみると、トップの鶴の一声で「こういうことをやるぞ!」と言ってシステムや仕組みが初めにできて、それをもとにどうやって中身を変えていくかという順番になっているという気がします。そういう場合、まず役員を集めた合宿からはじまり、次は管理職、課長ぐらいがあつまって少しずつ組織に浸透して変わっていくという話は聞きました。大学も同じかもしれませんが、必ずしも役所の組織もトップダウンで変える状況になっていません。特に役所の場合、頻繁にトップである大臣が政治任用で代わるので、トップダウンで時間をかけて進めるのはやりにくいと思います。

    参加者B:大学も文科省と同じように執行部は数年で交代をします。そういう中で持続できる仕組みづくりは難しい点があると思いますが、このあたりはどうお考えですか。

    斉藤:今回は、中堅メンバーが集まって将来のことを議論しようという仕組みの他に、科学技術担当の政務三役という政務官や副大臣や高等教育局や研究三局 など文科省の研究開発・高等教育系幹部の枠組みをつくっています。中堅メンバーがいろいろ議論をして、その幹部に提案をしていければと思います。

    司会:このタスクフォースは横断的なチームということですが、文部系、科技庁系といった人たちの議論の難しさや苦労はありますか。

    斉藤:幹部は省全体の会合などで、みんなで会う機会があります。役所だと平成12年採用以降は文部科学省になってから採用されているのでそれより若い世代は横のつながりがありますが、問題はその間です。まさに私も含まれる年代ではもとの役所の意識のままという人もいますし、敵だと思っている人もあります。議論すらしないという悪い面もあります。今回のメンバーには絶対に高等局に入ってもらわないとダメだということでメンバーも構成しています。縦割りの壁を越えて議論できる人間も少しずつ増えてきていると思います。

    *研究三局:科学技術・学術政策局、研究振興局、研究開発局を示す。

    2017年5月15日(月) 更新(担当:福島 )