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大学のこれからを考える

Policy Seminar

講演録公開研究助成機関における戦略と大学における研究・実務とのつながり

2014年11月21日(金)【講演録公開】
開催日時
  • 第8回科学技術政策セミナー
  • 2014年11月14日(17:30-19:30)
  • 大阪大学テクノアライアンス棟1F 交流サロン
開催概要

第8回科学技術セミナーは、研究助成機関と大学との関係について着目をしました。コメンテーターとしてお招きした細野光章氏(東京工業大学研究戦略推進センター)に「研究助成機関における戦略と大学における研究・実務とのつながり」を考える上で公的研究機関の役割についてお話いただき、その上で、研究助成機関において戦略を練る部署にいらっしゃる中山智弘氏(科学技術振興機構研究開発戦略センター)と白川展之氏(新エネルギー・産業技術総合開発機構技術戦略研究センター)にお話していただきました。

Mitsuaki Hosono
細野 光章

東京工業大学研究戦略推進センター 特任准教授

プロフィール:1968年生まれ。修士(農学:名古屋大学)、MSc(Environmental Technology:Imperial CollegeLondon)、修士(経営学:筑波大学)。民間企業、NPO勤務後、(独)科学技術振興機構にてプログラムオフィサーとして4年間勤務、東京工業大学産学連携推進本部にて特任准教授として6年間勤務、NISTEPにて 上席研究官として4年間勤務、2014年から東京工業大学研究戦略推進センターにてURA(特任准教授)として研究戦略の立案支援に従事。専門は、科学技術イノベーション政策及び公的研究開発マネジメント。

公的研究助成機関の役割

そもそも、公的研究開発はなんのためにあるのか、というところから話をしたいと思います。おそらく、公的研究開発の理由は様々にあると思いますが、はじまりは第二次世界大戦中に米国の科学研究開発局(Office of Scientific Research and Development)の長官であり、マサチューセッツ工科大学の学長を務めたヴァネヴァー・ブッシュ氏が科学者を集結させて、ご存知のマンハッタン計画を主導し、軍事計画に多くの科学者が従事したことがあるのではないでしょうか。戦後そこに従事した方たちは失業してしまいます。なんとか生き残り、その存在価値をつくるために基礎研究から応用研究、さらに商品化という形で科学技術というは重要なことですという報告書「科学-その果てしなきフロンティア」(原題:Science, The Endless Frontier) を大統領に出しました。これをもとに最終的にアメリカ国立科学財団 (National Science Foundation, NSF)というファンディングエージェンシーができあがります。基礎研究から応用研究をつないでいくのが公的な研究開発投資の役割であると個人的に思います。

日本モデルだと、研究は基礎・応用・開発という段階に進んでいくという図をよくご覧になると思います。日本学術振興会(以下、JSP)はどちらかというと基礎的なところを押さえ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)がどちらかというと開発、科学技術振興機構(以下、JST)がその間になると言えるでしょう。特に近年、経済的な難局を打破するために、イノベーションへの期待が高まっていますが、そのイノベーション創出の源泉としてファンディングエージェンシーと大学の研究支援者の方々に対する期待も高まっているのではないでしょうか。

公的研究開発投資として大学の研究者に研究資金がまわってきて、研究者と公的研究助成機関との社会契約でイノベーションを創出せよという図式が最近特に注目を浴びているのではないかと思います。このようなかたちで具体的な問題解決の方向性を指し示すというのがこれからお話いただくJSTとNEDOの研究開発戦略組織の役割だと考えています。

 
Tomohiro Nakayama
中山 智弘

(独)科学技術振興機構研究開発戦略センター 企画運営室長

プロフィール:1997年千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。博士(工学)。民間企業の研究員から2002年に科学技術振興事業団へ。(独)科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)フェロー、内閣府政策統括官(科学技術政策・イノベーション担当)付、内閣官房国家戦略室政策参与、JST科学技術イノベーション企画推進室参事役等を経て現職。文部科学省元素戦略プロジェクト・プログラムオフィサー等を兼務。

我が国の科学技術をとりまく現状と研究開発戦略

「科学技術は大事だよね」と多くの人はいいます。ただ、科学技術がなぜ大事なのか理路整然と説明できる人はいません。「政府レベルでみるとなぜ科学技術にお金を落とすのか。例えば国土交通省の所管するなにかと太陽電池に関する研究開発とどっちが重要なんだ」という比較になってしまう。科学技術の関係者に語らせると科学技術のことしか語らないので圧倒的に説得力が弱いという状況です。科学技術者はその技術のよいところばかり話してしまうという課題があります。

アメリカの場合、政府組織に対して議会の位置づけがはっきりしています。単発の政策を立案して、それを議会と政府と役所が対決もしくは議論し固めていく。政府と議会のまわりには、政策のシンクタンクが幾つもあり、政権が交代するとその人たちが政権に入ることもある。外と中のオルタナティブがあるし、議会と役所の間の政策のオルタナティブがある。いわゆる多様性が担保されています。めでたく政策が出ていくプロセスの中を見てもしっかり経験を積んだ人が隣や脇に控えているという文化や構造が根付いています。日本ではそもそも人材流動性が見えませんし、構造が見えにくい。日本はそれぞれの省庁や独法にシンクタンク的なものもありますが、どうしてもデマケの中で生きているので、なんとなく弱さも見え隠れしています。そういう中で、JSTの研究開発戦略センター(以下、CRDS)はどういう立ちどころにいたらいいかということを日々考えています。

日本の現状を見ると、GDPも2008年頃から下がり気味で、食料自給率・エネルギー自給率も低い状況です。家計貯蓄率もOECD諸国の中で最低の部類です。あたらしく貯金をしている人は、実はほんとうに少なくなっています。外貨獲得をし続けられるかというと、そう簡単ではありません。最近では、「サービス産業で食べればいいじゃないか」という声もありますが、サービス産業は収支が赤字ですし実際にとても小さい。とてもこの国を支えられる大きさではない。

輸出入の状況では、輸入品はほとんど燃料です。日本は足元をみられ燃料費はあがっています。では、なにを輸出しているかというと、輸送用機器や機械、多少の化学製品です。極論を言うと、我が国の科学技術予算の5割-6割がライフサイエンスですが、このライフサイエンスでどの程度稼いでいるかというとほとんどありません。そういうことを考えると、これも極論ですが少子化と高齢化を一緒にしている場合ではない気がします。少子化対策で未来を拓く戦略が鍵と思います。それと将来の産業競争力を支える科学技術でしょう。そのような戦略の立て方が我が国にとって何より重要だと思います。

大学について話をすると、「大学が大事だ」とみなさん言います。しかし費用は国のお金です。税金です。大学の存続のために出しているわけではありません。そのためには、いろいろな大学が手を組んだり、やり方を競い合ってもらいたいです。いかにハードルを越えて、競争力を上にあげるにはどうしたらよいのかというやり方を模索してもらいたいです。

結局、プラットフォームを作った人が勝ちだと思います。例えば、複数の大学関係でプラットフォームをつくり、国際競争力をあげていくことが、マーケティングとしては考えられます。日本の生きる道はいいものをつくって売っていくということだと思います。そのためには、科学技術は不可欠で、優秀な研究者ももちろん不可欠です。日本は、これまでずっと部素材とそれらで構成される製品で食べてきました。中国は資源。韓国は製品化。その中間が、そろって部素材の部分を自分のものにしようとしています。日本は中国と韓国の挟撃にあっています。その我が国の重要な部分を守るためにも、研究開発は極めて重要です。

最近では、国を挙げて出口病のような感じになっていて、「出口を見据えて」や、「出口に近いところ」という表現ばかりです。全体としてのポートフォリオを考えないといけないと思います。基礎的なところをしっかり育てることが、全体の戦略として必要だと思います。JSTは出口を見据えた研究を推進しており、そのようなプロジェクトが多いのは確かです。しかし、しっかり次の種を養ってくださいということは捨てていないつもりです。文科省になんと言われようと「基礎や基盤が重要だ」ということは明確にしたいと思います。ただ、基礎だけをやっていて基礎だけでとどまって無限ループに入ってしまっても仕方がありません。基礎は大事だけれど、研究者の生活のための科学技術のようなものには投資をしません。やはり、将来でもいいから日本を支える可能性のあるものに対して投資をしたいのです。

細野:最近のJSTはわかりませんが、前理事長である北澤宏一氏は「遺伝子を見ながら基礎をやれ」と明確に言われていましたよね。それは非常によいメッセージだったと思いますが、今の理事長はいかがですか?

中山:研究者が不得意なことをやって、お金を浪費しないでほしい。だから基礎をきっちりやってほしいと言っています。ただ、産業界出身の方でもあるので、産業に近いところも含め、ポートフォリオ化をしっかりしてもらいたいとも言っています。

参加者A:大学は国の一機関として結果を出すべきであるというようなことをおっしゃっていましたが、なぜ大学は法人化したとお考えですか。

中山:大学を法人化することによって、大学が独自性を発揮して、この国の多様性を支え、強さの源になってくれればよいという考えだと思います。国の一機関としてある種の護送船団であるというそれまでの構造を変えないといけないという問題意識だったのでしょう。ただ、財務省としては、それで予算が切りやすくなりましたし、実際切られていますね。逆に言うと、各大学の努力があれば、競争的資金を獲得できるのでその分基盤的経費を減らしていくよという構造になっています。現状の議論では、「大学が生きるためには運営費交付金や研究費が減ってしまって困る」になってしまっています。大学や研究者が何をできるかを社会に示さないと、たぶん増える議論にはならないと思います。今策定中の第五期科学技術基本計画の議論等でも、そのようなことが話されると思います。

参加者B:世の中、閉塞感を感じますが、例えば海を題材としてこんなことができればよいなというイメージをつくって研究をするということがあってもいいのではないかと感じますがいかがお考えでしょう。

中山:一般的に、今はなかなか大きな絵を描くところがないので、そのような絵を描くところがあってもよいと思います。全体を見る感覚は非常に大事だと思います。昔のアポロ計画のようなものでしょうか。細かい話ですが、JSTのCRDSでは閉塞感を打破するような提言やポートフォリオの描き方はできないかなと思って模索中です。文科省も経産省も縦割りがあるのでそれを打破するようなコンセプトができないかと考えています。

Noriyuki Shirakawa
白川 展之

(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構技術戦略研究センター研究員

プロフィール: 1973年生まれ。広島県職員として、農林水産業から保健福祉・医療に及ぶ幅広い分野の地域科学技術振興に従事(文部科学省科学技術・学術政策局、(公)県立広島大学への派遣等)。2008年文部科学省科学技術政策研究所科学技術動向研究センター上席研究官に転職。第9回科学技術予測調査等に従事。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構総務企画部企画業務課課長代理を経て、2014年4月より現職。文部科学省科学技術・学術政策研究所客員研究官等を兼務。東京理科大学卒、広島大学大学院社会科学研究科修了(修士(マネジメント))。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在学中(Ph.D.Candidate)。専門は、公共経営・評価、イノベーション論。

NEDOにおける 技術開発マネジメントと技術戦略立案の試み

NEDOの対象とする技術分野というのは、省エネルギー、再生可能エネルギー、蓄電池分野、エネルギー・環境というようなエネルギー分野と、あとは産業技術の技術開発というように、大きく区分けされます。これら技術分野の研究開発を基本的にはナショナル・プロジェクトをコンソーシアムを組み実施していく、「技術開発マネジメント」がNEDOのミッションになっています。この点、NEDOのファンドが大学の人から見えにくいということがあるかもしれません。我々としても問題意識もあるのですが、資金を獲得するという意味であれば、こういう事業の座組ができるかどうかというところがけっこう重要になります。先ほど中山さんが大学の中で閉じていてはいけないと指摘されていましたが、こういう座組ができないとNEDOのファンドに入っていけない面があります。別に研究ステージで基礎研究でも、実はNEDOは基盤技術開発につながるものとして採択・ファンドしています。ネット ワークの中にいないとファンディング・スキームに入ってこないということは、資金獲得を目指す関係者の皆様には知っておかれたほうがよいということです。

NEDOの役割は、産業のエコシステムの中で実用化の後押し・橋渡しをするという説明がいちばんわかりやすいと思います。そういう中で、役所用語で言う仕事の分担関係を示す「デマケ」は、基礎から応用研究にいくにしたがってそれぞれファインディングエージェンシーがありますよね。NEDOは、座組を見ても「企業中心」にファンディングをしていますという説明が一般的です。こうした言い方は、文科省系の方にも好まれると思います。

世界の中で研究資金を助成するファンディングエージェンシーとは何なのかという話なのですけど、「お金を出す機関」と、「研究をする機関」と、両方を行う機関と、その3種類ハイブリッドとそれぞれの国・機関の歴史によって決まっています。例えばNIH(National Institutes of Health:アメリカ国立衛生研究所)は、直営の研究所がありますし、DoE(United States Department of Energy:アメリカ合衆国エネルギー省)も直営の研究所があります。その直営の研究所でも国が直営(GOGO)でやっているものと、政府が所有はしているけれども指定管理者のように民間にマネジメントを委ねている(GOCO)機関もあります。あとは完全に行政機関としてお金だけを配る機関もあります。NEDOはファンディング機能のみの機関としては世界の中では予算・人員ともに中堅レベルの規模の機関です。

NEDOの技術戦略研究センターは、新たな技術戦略を描くシンクタンク機能を担う組織として(2014年)4月に設立されました。霞ヶ関の政策プロセスでは、ある政策文書が出てくる背景には、絵を描く仕掛け人がいて結果として審議会と言うプロセスを経て正当化するという政策過程の一部として実行していくわけです。

そこから立案されたプロジェクトという単位で現在は、日本では予算化されていきます。その際のプロジェクトのアイデアを出すことを担うことが期待されています。わかりやすくいうと、科学技術の産業への橋渡し機能を担ううえで、これはなんだと財務省に文句を言われないように考える力とデータを出す力をもって具体的なプロジェクトを提案すると言うことです。JSTさんでもCRDSが設立10年以上たって、かなり実際に政策につながる分析・データを出すようになりました。この種のシンクタンク機能の必要性は、経産省でも5年以上前から内部議論があったのです。経産省の人がCRDSの資料を引用してパワーポイントをつくっているという状況が多くなり、さらに震災後の行政環境の変化が、この組織の設立に至ったものと思っています。

NEDOの戦略センターは経済産業省における研究開発政策の参謀役という位置づけになっています。当面やっているのは、NEDO全体でのプロジェクトマネジメントの強化とその根幹となる必要な事業を立案することです。北岡先生 など外部の専門家のフェローの方と一緒に作業を進めています。もちろん、フェローだけでは足りないと思っており、様々な人材の話と知見・技術情報をネットワークとして集約していくことを考えておきたいと思って努力しているところです。

ただ、大学との関係では、かつて、NEDOには先導的産業技術創出事業(若手研究グラント)という制度があり、様々なシーズが出ていましたが行政刷新会議による事業仕分け重複ということで「廃止」になり、事業期間の終了に伴いいまどんどん減っています。実は、これはNEDOの論文アウトプットのかなりを占めていました。ただでさえ、NEDOは大学とのつながりが弱いにもかかわらず、更に弱くなってもいけないということから間口を広げたいと思っていますので、技術情報で「こんなテーマがあるよ」ということをぜひ知らせてもらえるようにしたいと考えています。

また、研究開発のプロジェクト管理では、研究者、行政官かわからない中間の橋渡し人材の層を厚くすることで、研究者が仕事をしやすいようにする環境を実現するために、研究関連のプロジェクトマネジメント人材育成もセンターの重要なミッションだと考えています。URAや事務職員でも、URAのような業務、マネージャー、政策担当者としてシナリオをかける業務、プロデューサーなどそれぞれのフェーズで少しずつ仕事をすることによって全体の風通しがよくなっていく社会をつくれたらと思っています。

参加者C:ドイツの大学院では、もちろん研究もするけれどソフトスキルとしてプロジェクトを立案し、運営をすることで実践を通して学ぶ機会があるようです。日本の大学ではそのようなプログラムがかけていると思いますが、経済産業省では、そういったところをマネージャー人材の育成の一環としてお考えですか。

白川:研究マネジメントのキャリアパスの一環として、NEDOのこのセンターにおける職務経験なども、その一歩のプロセスになればよいと思っています。渡り鳥みたいにいろいろな機関を渡りあるくことによってキャリアを積んでいければと思っています。折衝したスキルは1回身につけると忘れないものですので、複数の機関を渡り歩き一定の軸がぶれないキャリアを持っている人材が出てくれば、かわってくるのではないかと思っています。

細野:JSTやNEDOが国家のための戦略を立てているということなので、これを受けて大学がなにを考えるのかということが、まず大学研究者、大学研究支援者への課題だと思います。更に、大学は正しく一枚岩ではないので、ファンディングエージェンシーの戦略を受けてまともに対できるのかといころが大きな課題と思いますが、今回のお話を参考にしていただき今後の職務に活かしていただければと思います。

会場の様子
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2018年3月24日(土) 更新
ページ担当者:福島URA