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グラント・ライティング(競争的資金の申請書作成支援)を考える--SRA International「グラント・ライティングワークショップ」の事例から

皆さんご存知の通り、リサーチ・アドミニストレーションの業務は、大きく分けるとプレ・アワード(競争的資金獲得のための支援)、ポスト・アワード(競争的資金獲得後の支援)、研究戦略推進支援の3種類がありますが、近年の米国では、プレ・アワード業務の中でも、「グラント・ライティング」が一つのジャンルとして確立されつつあります。「グラント・ライティング」という名前は耳新しいかもしれませんが、実は我々URAの主な仕事の一つとして、日常でよく携わっている申請書作成支援のことです。例えば大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室では、大型プロジェクトから日本学術振興会特別研究員まで、その申請書への助言等を通じて、年間多くの競争的資金の獲得を支援しています。

米国の大学のリサーチ・アドミニストレーション部門の中で、他の研究支援業務と区別を付けて、グラント・ライティングに特化した専門職員(Grant WriterまたはProposal Development Expert、Graph Designer等)を雇用することが多くなっています。私費で学外のグラント・ライティング支援機関に頼る研究者も少なからずいます。米国での競争的資金の獲得率は平均20%前後で、孤軍奮闘ではなかなか取れないのです。最近ではグラント・ライティングを大学院課程に取り込む動きもあるそうです。


文部科学省がURAを育成・確保するシステムの整備に着手してから約4年、URAは日本では新しい職種であり、グラント・ライティングにおいて経験も知識もまだ充分ではありません。そこで、それらの高度化を目的に、SRA International(註1)からグラント・ライティングの専門家を大阪大学に招いて、3月10日、11日の2日間、少人数で密度の高いトレーニングができる「グラント・ライティング(申請書作成支援)ワークショップ」を開催しました。参加者は、大型教育研究プロジェクト支援室、免疫学フロンティア研究センター、国際公共政策研究科、医学系研究科のURA・研究支援者計13名でした。


grantwriting_ws.JPG 講師のDr. Marjorie Piechowski先生

1日目のワークショップでは、主にLogic Modelの基本、構成要素、応用例等について学びました。Logic Modelというのは、教育研究プロジェクトの企画立案や申請書・報告書の作成において、米国を中心に有効な方法論として用いられています。このモデルの二十数年の歴史の中、最初は主にプログラムのマネージャーや評価者がプログラムの有効性を示すために使われていました。ある特定の問題に関連する資源、行動または取組み、対象、短・中・長期成果等の関係性を論理的に説明することにより、プログラムのパフォーマンスを批判的に測ることもできると言われています(註2)。近年では、論理的思考を重視し、柔軟性もあるこのモデルが申請書の作成にも応用されるようになりました。プログラムやグラントによって、実際の構成要素もそれぞれ異なりますが、一つよく使われている例示図(註3)を参考までにご紹介します。


logicmodel.jpg

まだ新しい方法論ですが、米国はもちろん、日本でもファンディング機関によって、最初からこのモデルを使って申請書を作成しなければならない例が増えています。単なる個人の経験に頼りすぎず(URAとしての経験も大事なのですが)、グラントごとのガイドラインに沿って、申請書に求められている要素を順番に論理的に書くというLogic Modelの本質はとても合理的かつ効率的です。日本の競争的資金事情に合わせてカスタマイズすることも可能なので、一つの便利なツールとして今後の申請書作成支援に活用できるのではないかと思います。


2日目は、URAが自分の専門以外の分野の申請書をレビューし、研究者に助言する際、何を、どのような視点で、どう客観的に説得力のあるコメントをしたらよいかについて、講師の三十数年の心得を教わりました。単に「経験上では」や「なんとなく」で説明するのではなく、4段階の申請書レビュー法等整理された方法を駆使し、より俯瞰的な視点で研究者に助言することの大切さが分かりました。その後はこの2日間で学んだ理論に基づき、全体討論とグループワークを通じて、実際の申請書を見ながらコメントをしたり、URAが審査員となって模擬審査をしたりといった内容の実技演習が行われました。参加者からは、
・申請書の論旨に関する違和感をどう論理的にブレークダウンして申請者に伝えるのかについて、今まで自分が説明できなかった部分を説明してもらえて頭が整理できた
・海外の会議等はテンポが速すぎてついていくのが大変なので、今回のように海外から経験豊富なURAを招いて、我々のニーズに応じカスタマイズされたワークショップを行ってもらう方が効果的

等の感想も寄せられました。


嬉しいことに、2014年5月に大阪大学で実施したオーフス大学のリサーチ・アドミニストレーションの先進例を全体的に学ぶ研修会(詳しくはこちら参照)と、今回のような一つのテーマに特化したトレーニングに参加することにより、URAとして少しずつパワーアップしていることを実感しています。大型教育研究プロジェクト支援室が3月から5月にかけて取り組んでいる日本学術振興会特別研究員の申請支援も、こうした研鑽で培った専門スキルを活かし、充実を図っています。それはまた次号以降でご紹介します。



(姚 馨/大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室 URAチーム)

註1 SRA Internationalについて:1967年に米国で創立され、現在は世界40以上の国からの約4500名の会員を擁するリサーチ・アドミニストレーターの国際組織。SRA internationalの主たる事業はリサーチ・アドミニストレーター向け教育プログラムの提供であり、情報交換の場やキャリア情報を提供するほか、ジャーナル(Journal of Research Administration)も発行している。
註2 McLaughlin, J.A. and G.B. Jordan. 1999. Logic models: a tool for telling your program's performance story. Evaluation and Planning 22:65-72
註3 Enhancing Program Performance with Logic Models, University of Wisconsin-Extension, Feb. 2003


大阪大学URAメールマガジンvol.18掲載記事)
2018年3月24日(土) 更新
ページ担当者:URA ヤウ