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Policy Seminar

講演録公開民間助成財団とはなにか、研究者はどのように活用すればよいのか

2013年8月 7日(水)【講演録公開】
開催日時
  • 第3回科学技術政策セミナー
  • 2013年7月31日(15:00-17:00)
  • 大阪大学銀杏会館3階 大会議室
  • 開催概要

    民間助成団体の助成金は奨学金を含め総額600億を超えます。国が科学研究費への投資を強め科学研究費補助金等の競争的資金が増大する一方で、民間助成財団は各々の定款に基づきながら対象とする分野を含めたプログラムの設計を独自に行っています。民間助成財団の概略と現状やその性格、競争的資金との違いについてお話しをしていただきながら、それぞれの研究者や研究支援に関わる方が、有効に競争的資金と民間財団を活用する戦略を練るきっかけとして開催しました

    Gen Watanabe
    渡辺元

    公益財団法人助成財団センター プログラムディレクター

    プロフィール:1976年(財)トヨタ財団へ入職。プログラム・オフィサーとして、研究および市民活動等に関する助成事業の開発・運営に長年携わり、その後は、プログラム部長として後進の指導・育成等に当たってきた。この間、都留文科大学非常勤講師(2001-09年)、立教大学大学院特任教授(2007-12年)を務めたほか、NPO法人市民社会創造ファンド・運営委員(2002年~、現在 副運営委員長)等も務める。本年1月より、公益財団法人 助成財団センター プログラム・ディレクター。 。

      
    日本における民間助成財団の概要

    民間助成財団について、トヨタ財団の最初の年次報告書に書かれたものではありますが、財団関係者が持つべき普遍的な問題意識であろうと思っているものがあります。これは、研究者あるいは研究に臨むときのスタンスとも関係あると言えるのではないでしょうか。

    民間助成財団は、大規模な政府系資金に比べれば出せる資金には限りがありますが、その中で特徴的にやれることは、リスクや失敗を恐れずに助成を行えるということでしょう。私自身も、日本で最初の市民活動助成プログラムを策定したときには覚悟して取り組んだ覚えがあります。

    では、民間助成財団とはなにかというと、先ずは、民間に属する組織や個人が出捐(しゅつえん)した財産(基本財産)を中心に設立された、財団法人の一種です。財団は財産の集合体ですから、それを法人化したものが財団法人です。そして、出捐者が定めた公益性の高い目標を助成という行為を通して達成することを、設立の目的としています。出捐者とは、英語で言うスポンサーに相当します。「出捐者が定めた公益性の高い目標」とありますが、これ自体は普遍的なつくりになっているため抽象的なものが多く、実際に助成プログラムを設定するときや財団のビジョンを策定する際には、その目標を踏まえながらも、より現実的な検討・対応をしていく必要があります。

    それから2番目として、出捐された財産を運用することによって利益(利子、配当益、不動産収入など)をあげ、それを助成金の原資とする、ということが挙げられます。さらに3番目として、その助成金を、助成対象者に提供することによって、その企画(研究、学業、市民活動、教育活動等)などの実行を促し、最終的に、出捐者が定めた公益性の高い目標の実現に向けて近づくことを目指すことになります。

    なお、財団法人という言葉は制度に即した用語ですが、助成財団とはその財団法人の中の一形態を示している言葉にすぎず、したがって「制度用語」ではない(一種の業界用語)という点を注として申し上げておきたいと思います。実は、そのことが助成財団に関する明確な統計が日本に無い、ということのひとつの背景にもなっています。そこで、助成財団センター(以下、JFC)としては、これまで独自のデータ収集とその分析を行ってきましたが、新公益法人制度となった現在、改めて、日本全国の民間助成財団の数と実態について調査を始めています。

    さて、次に日本の民間財団の現状はどうなっているのか、JFCが2012年度に行った 調査結果をもとに見てみましょう。年間設立数は、これまで歴史的に明治以降からいくつかピークがあります。直近のピークとしては、やはり高度経済成長の1970年代、1980年代前半ぐらいまでが一つの大きなピークになります。私 の出身母体であるトヨタ財団も1974年に設立されました。ところが、"バブル崩壊"後、企業の収益悪化に伴い、年間設立数はそれまでとは異なり、顕著に減少していきました。現在、JFCが把握している日本の財団は、3000程になりますが統計母体に出てくるものは1500程度になります。その中で、統計分析に寄与できるような年間助成額が500万円以上である財団は771財団程度と半分しかありません。その771財団の助成事業費の合計は約715億円です。(独)日本学術振興会が行っている科学研究費補助金(以下、科研費)が約2500億円であるのに対して715億円です。そういう意味では、民間助成金の総額は科研費に比べると圧倒的に少ないだけではなく、この715億円の中には奨学金、市民活動、教育活動も含まれるので、研究費そのものへの助成は、科研費と見比べた時、金額としては小さいものであるということになります。

    更に、年間助成額が5000万円未満の財団は全体の74%であり、助成金が5億円以上の財団はわずか2%しかありません。つまり、全体としては、小規模財団、小規模助成が多いということがわかります。

    日本の民間助成財団の現状
    民間助成財団の事業形態別プログラム数

    財団の事業形態別プログラムの比率をみると、「研究関連助成」と、ボランティア活動や市民活動への支援をはじめとする「事業プロジェクト助成」と、「育英奨学金」があります。それらの比率をみると、「研究関連助成」がこの中の半分、その他が1対1という比率になっています。金額は少ないながらも、日本の民間助成財団の助成領域として多いのは、研究関連の助成であるということになります。さらに言えば、医学・理学・工学を中心する自然科学系への助成が、この中でもかなり多くなっています。

    一方、人文・社会科学系への助成は、依然として少ないです。政府資金も同様ですが、これについては、歴史的背景もあります。各財団は明治以降、様々な助成活動を行っていますが、1987年度(昭和62年度)までは医学・工学・理学を対象としていた試験研究法人という制度があり、そこでは税の優遇措置がありました。その後、これが特定公益増進法人(特増)制度に引き継がれ、現在に至っているわけです。

    制度にかかわる問題では、最近、公益法人制度改革が行われました。これは、2006年3月に「公益法人制度改革関連3法案」が閣議決定され、5月の通常国会において法案が成立したものです。2008年12月から施行され、新制度に移行しています。今は公益法人も一般社団・財団法人と公益認定を受けた公益社団・財団法人の2種類に分かれました。分野にかかわらず助成財団の多くは、「特増」と同様の免税措置を得られる公益財団法人に移行しています。新たな制度に移行する措置期限は、2013年11月30日までとなっており、この期間までに移行しないと解散したものとみなされます。かつては、財団法人と社団法人しかありませんでしたが、公益法人制度改革が行われたことで、一般財団法人・一般社団法人および公益財団法人・公益社団法人となりました。一般法人は、原則として免税措置がありません。これに対して、公益(財団・社団)法人は優遇措置があります。したがって、公益法人になるか・ならないかで状況は大きく異なってきます。

    前置きが長くなりましたが、そのような背景もあって、自然科学系への助成が多く、人文・社会科学系の助成はまだまだ少ないというのが現状です。また、ここでは教育分野への助成が突出していますが、このうちの三分の二以上は奨学金です。研究助成を行っている財団のビックセブンは表に示した通りです。一見してお分かりになるように、医学・薬学系の助成金の多さが目立ちます。

    研究助成ビッグセブン
    助成を通じて「社会的な目的」を達成する

    民間助成財団が行う助成事業とは、「民間助成財団が、その社会的な目的を達成するために、助成金を体系的に助成対象者に供給すること」と言えます。助成する内容は「社会的な目的」があり、助成という行為を通じて、財団のミッション、目的を果たしていくといことです。そして「社会的な目的」を達成するための「体系的」な仕組み(助成プログラム)を策定し、有効な助成事業に取り組んでいきます。各財団はまず、達成しようとする「社会的な目的」を設定する。そして、これに適う企画を募り、その内容等を踏まえて助成対象者を選考し、助成金を提供します。ここまでが助成団体の仕事になります。そして、助成を受けた助成対象者が、(応募した)企画を実施する。その結果として、プロセスや成果が助成財団の設定した「社会的な目的」を達成していくことになります。ですから、助成対象者が「社会的な目的」を達成すると同時に、助成という行為を通じて、間接的に助成団体自体も「社会的な目的」を達成することに なるということになります。その意味でも、助成する側と助成を受ける側は「パートナー」であるということが言えるわけです。

    助成事業の仕組みと内容を簡単に言えば、一般的には、公募をして、選考を行い、その後フォローアップして、また次の公募につなげていく、というサイクルになります。公募の事業だけを行っていると、財団側は受け身に終始するため、人はもちろん、組織としても成長は限られるでしょう。財団の担当者が自ら案件を発掘していくという、非公募の仕組みもあります。むしろ、そうした社会的に重要 な課題やニーズを、自ら財団の目的や社会的な目的とあわせて拾い出し、逆に研究者等、助成を受ける側に「こういうことをやってみないか」というふうに投げかけ、財団側と研究者等とで一緒に企画を練りながらプロジェクトとして成立させていく、ということができれば、財団側の担当者も、ひいては組織としても育つ機会は格段に増すと思います。しかしながら、日本ではそのような取り組みを行っている財団はまだ少数といっていいでしょう。アメリカの財団では、むしろ、そうしたやり方をとっている方が多いです。今後、日本の財団でもそうしたやり方も含め、助成事業を担う専門性を持った人材をどれだけ育てていけるか、ということが課題になってくると思います。この点にも関連して、JFCでは、人材育成の意味も兼ねた研修を定期的に行っています。

    フロアとの意見交換

    参加者:民間助成財団の資金を獲得するための企画の肝は「社会との関係性」ということだと思いますが、最近国の様々な公募でも社会との関係性を第一に問うものが増えています。しかし、そのような公募要項を読んでも「どういう意味か分からない」という人もたくさんいらっしゃいます。これまで渡辺さんが受け取った申請書は、「社会との関係性」という趣旨にあって提案されていますか?或いは、自身のシーズやネタをもとに、「うまく当たったったらいいんじゃないか」みたいなものが多いですか?

    渡辺:一概にどちらが多いとは言いにくいですが、後者のケースは常に散見されますし、その方が多い場合もあるかもしれません。いずれにせよ、望ましいことではありません。私自身一つの要因として感じているのは、きちんと応募要項を読んでいないと見受けられる方が多いという印象です。たかが応募要項ですが、されど応募要項です。やはり、それぞれの財団の趣旨というのは応募要項に明示されているわけですから、先ずは熟読された上で応募していただきたいというのが、多くの財団関係者に共通する考えだと思います。

    *助成財団センター「日本の助成財団の現状」:http://www.jfc.or.jp/wp-content/uploads/2014/03/research2014.pd(HPに掲載されている資料は2014年のものである)

    *試験法人については、こちらのサイトを参照ください

    2018年3月24日(土) 更新
    ページ担当者:福島