大阪大学 経営企画オフィス URA部門

大学のこれからを考える

Policy Seminar

これからの大学運営 -URAはなにができるのか-

2015年11月13日(金)【講演録公開】
開催概要

URAの実務者が情報交換と相互研鑽を行う場として開催されたRA協議会第1回年次大会(http://www.rman.jp/meetings2015/)において大阪大学では「これからの大学運営-URAはなにができるのか-」というセッションを企画・運営をしました。登壇いただいた方々のお話の概要と当日行われた全体討論に関する記録を下記にまとめました。

開催日時:2015年9月2日(水)
場所:信州大学長野(工学)キャンパス

なお、本資料はRA協議会第1回年次大会のサイトに開催報告としてまとめたPDFを、RA協議会の許可を得て転載しております。

池田雅夫(大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室 統括マネージャー)
昨日の文部科学省科学技術・学術政策局川上伸昭局長からのお話や大学執行部特別セッション「大学経営におけるURAの活用」でも話題があったように、大学経営へのURAの関与について議論がなされています。この点について3月14日に開催されたURAシンポジウム「大学の研究経営システムの改革に向けて-URAへの期待とURAシステムの課題-」で柘植綾夫氏が講演をされた内容が示唆に富んでいました。しかし残念ながら、その会場に来られていた方は大学の上層部の方々が多かったため、現場でURAとして日々業務をされている方々は聞くことができませんでした。今回は、URAのみなさんに直接聞いていただく機会と考え、ご発表をお願いしました。

URAシンポジウム「大学の研究経営システムの改革に向けて-URAへの期待とURAシステムの課題-」関連資料
http://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/ura/detail/1356518.htm

Ayao Tsuge
柘植綾夫氏

公益社団法人科学技術国際交流センター 会長

プロフィール:1973年東京大学工学系大学院博士課程修了。三菱重工業株式会社代表取締役常務・技術本部長、内閣府総合科学技術会議議員、芝浦工業大学学長、日本工学会会長、日本学術会議会員・連携会員、文部科学省科学技術・学術審議会委員(産学連携委員会、人材委員会他)等を歴任、現在公益社団法人科学技術国際交流センター会長。

本日の話のポイントは下記3点になります。 (1)沈みゆく日本の再生と持続可能な発展には科学技術・学術力とイノベーション力と教育力との三位一体推進が必須。 なんのためのURAかというと「日本の再生」と言えるでしょう。「持続可能な発展」に必要な科学技術と学術力、それからイノベーション力を教育と一体に推進することが必要でしょう。それを「次代を担う人」たちが支えていかなければならないということがURAのミッションと言えるでしょう。 (2)この視座に立った学長のリーダーシップが要。URAはその発揮へ向けたクロス・ファンクショナル機能の発揮に挑戦すべき。 学長はリーダーシップを発揮し、URAはその発揮にむけたクロス・ファンクショナル機能の発揮に挑戦するべきだということになります。クロス・ファンクショナルとは、組織が活き活きとするためにトップマネジメントがやるべき最大のマネジメントの課題です。「なんでもできるぞ!」ということがクロス・ファンクショナル機能です。ですので、今回のこのセッションの「なにができるのか」という意識で組織が動くと組織はだんだん衰退していくと考えています。 (3)限られた財政下、「教育・研究・イノベーションに向けた一石三鳥的投資」ができる大学は生き残る...URAは「一石三頂」の実践を! 国家財政はますます小さくなっていきます。一時は40兆円程度まで落ちた国の収入が今年は少し良くなったということで54兆円程度まで回復しました。一方で来年度の予算は100兆円の予算を組もうとしています。限られた財政の中で、どのように教育と研究とイノベーションを振興するのでしょうか。わたくしは、最近「一石三鳥の投資」というものを許す行政、支える大学という構造をつくることが「大学が生き残る」と考えています。

大学が担う教育・研究・社会貢献活動全体の実践にむけた重要経営課題があります。一つは、大学を取り巻く社会的環境(バウンダリ―・コンディション)の変化に対応する能力がまだ大学には非常に弱いので、これを強化する必要があります。学長と共に全部局、研究者・教育者、現場を支えている事務組織の全員が認識して行動できるかが大学の挑戦です。また、この危機感の中で全学的なIR(Institutional Research)活動が行われることが肝要です。大学が置かれている社会的環境条件(バウンダリー・コンディション)のパラダイム変化については、本日は時間がないのでプレゼン資料の付録2につけておきました。1点申し上げたいことは、外から言われることではなく、科学技術・学術・教育政策を実際に実行していく自分たちの課題だという意識が大切です。

文部科学省の資料では、URAについて「大学等において、研究者と共に、研究企画立案、研究資金の調達・管理・知財の管理・活用等を行う人材群」と書かれています。わたくし自身は、この枠は破らないといけないと考えています。真のURAの使命は、研究者の学術研究のプレ&ポスト・アワードを支援するだけでは不十分でしょう。URAは大学の学術研究力と教育力と社会貢献力とを三位一体的に発揮する大学力の強化に必須であり、高度なアクティング・マネージャーの人材群だと考えています。

しかし、大学人はどれだけこれを自覚しているのでしょうか。いまの学術力の強化面だけの対処療法になっているのではないでしょうか。研究資金集めの補強力だけの視野ではないでしょうか。学術力・教育力・社会貢献力の強化を、一石三鳥に活かす視点を持っているのでしょうか...。持っていないのではないかと思います。確かに、制度上の障害がいくつかありますが障害で引き下がってはいけない時代になっているということをわたくしは言いたいと思います。

ある大学の体制図

これはある大学を訪ねたときに感じたことです。そこの体制図は図1のようになっていますが、これではダメだと思いました。連携・支援という言葉を使っていましたが、支援程無責任な言葉はないと思います。URAは研究支援要員だけであってはならない。新たな価値創造のプロデューサーであり、マネージャーだと思います。「リサーチ・アドミニストレーター(URA)を育成・確保するシステムの整備事業」等で整備されたURA組織以外に、以前から機能していた大学事務部、各部局、産学連携組織等をあわせた全学的視点に立ったURA人材・組織の「見える化」と共有化、そしてそれをどういうふうに能力を最大に発揮するかという視点が欠けていると感じました。なぜその視点が欠けているのか。ひと言でいうと「学長の危機感がまだない」ということでしょう。大学本部と各部局が協働で実践せねばならない「全学的URA職の充実と定着化にむけた設計と具体的案改革」への障害になる恐れがあると思います。先ほどの体制図を描くマネジメントは、既存の組織縦割りを超えた全学的視野に立った、現状の「見える化」と、改革への活用が必要でしょう。もちろん、それを阻む制度上の障害があるので、打破する必要があります。

理想とする体制図

左の図が理想とする形です。全学的クロス・ファンクショナル機能のリーダーにURAはなってもらいたいということです。左側に大学の使命が書いてあります。そして、既存の大学執行部・部局があり、事務職員がいて実際の現場を支えている教育・研究者がいますが、この相互をすべて結んでいくということがURAコーディネーターの「価値創造」と言えるのではないでしょうか。研究だけではないということです。

これからの大学経営の要は、公的資金・産学連携資金・人財でしょう。あえて財産の「財」を書きました。大学の中にいる人たちは、学生を含めてすべて財産です。この「人財」の有効活用が大学経営の要になると考えます。

いま、高等教育を含め教育政策に関する議論がなされていますし、第五期科学技術基本計画の策定にむけた動きがあります。また、一昨年から閣議決定を行い「科学技術イノベーション総合戦力」を立てています。日本再興のための要としてそれぞれの柱は揺るがせてはなりません。しかし、大学に投資される資金と(URAも含めた)人財の一石三鳥的投資効果をねらった施策が無いと感じます。教育振興、科学技術・学術振興、イノベーション振興への投資金額はこれから減ることはあっても増えることはありません。したがって、あるときにこれらの振興への投資を減らさざるを得ない時がくるか、一石三鳥の投資効果をねらった施策をとるかどちらかになります。わたくし自身は、もちろん後者をする必要があると考えています。これは、公の場で公言するのは初めてです。

学長は「如何に優秀なURAを確保できるかで、大学の生き残りが決まる」と真剣に考える日が来たということです。大学存続の危機感のもと、各部局の論理を超えて価値観の共有と大学改革に貢献をしてください。学長は、教員・職員・研究者の全員参加を得て領空侵犯をおそれるな、違法行為だけはしてくれるなという心構えが大切です。そういう「恐れない」という優秀なURAの育成キャリアパス構築にもっと注力する必要があります。

進行:福島杏子(大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室 リサーチ・アドミニストレーター)

さて、ここからは3人の若手の方から話題提供を行っていただきます。URAに近いお仕事をされている方や、URA的な業務をご自身の取組を研究と言う視点で昇華させている方などにお話をしていただきます。まず、問題意識として「URAは研究費獲得だけをミッションとしてよいのか?」「所属している部局/大学の中だけを見ていればよいのか?」という点を挙げておきます。その上で、「URAはどのような価値を創造するのか?」ということをそれぞれの話題提供の共通のテーマとして聞いていただければと思います。また、3名の方の位置づけは下記の図に示した通りです。

本日の話題提供の位置づけ















「大学と連携する「SFCフォーラム」という仕組み
Naoko Watanuki
綿貫直子氏

一般財団法人SFCフォーラム事務局

プロフィール:2002年、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)で立ち上げられた産学連携によるベンチャーインキュベーション研究プロジェクトに事務局として参加、研究活動体制および交流イベントやビジネスプランコンテストなどの各種活動の立ち上げから運営支援に携わる。2005年より、SFCの事務組織である研究支援部門にて、産学連携プロジェクトや多数研究者が参加する研究プロジェクトの運営支援、利益相反マネジメント体制の立ち上げなどに従事。2012年、SFCの研究活動や対外発信、産学連携やベンチャーインキュベーションなどのサポートグループである一般財団法人SFCフォーラムに立ち上げから参加し、URA的活動を続ける。

慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)を対象としてサービスを展開している組織がSFCフォーラムになります。慶應義塾大学SFCには、大学事務組織としての研究支援組織として、湘南藤沢学術支援担当があります。 これとは別に1990年当時のSFC執行部の肝煎りで一般財団法人SFCフォーラムをつくり、SFCの研究活動、産学連携活動を活性化していきましょうという仕組みを作りました。SFCとは出資関係はありません。協定で連携をしているというスタイルになるので、独立採算性で運営をしています。

湘南藤沢学術支援担当では、大学機関としてやらなければならない機関管理の事務処理を担っています。それとは別の業務をSFCフォーラムが担っています。教員ではカバーしきれない、職員でもカバーしきれないものを拾って支援していくということをテーマとしています。

SFCフォーラムのコアな活動が、SFCサポーターのコミュニティ形成になります。具体的には、産業界でSFCの活動を支援したいという方 を募り、メンバーシップで年会費を取り、メンバーになっていただき、その対価として年間10回くらいの勉強会をつうじて、SFCにおいて旬なテーマや話題になっている研究者を紹介したりしています。その会合に、必ず学部長執行部が参加するということと、これから伸びそうな若手研究者を呼ぶことで、産業界のみなさんと太いネットワークをつくってもらうことを意識しています。この活動の中から、大きな研究プロジェクトが生まれたり、会員企業の方から寄付講座をSFCにいただいたり、会員の方と学部長の人脈ができたことで奨学金がいつの間にか大学の方に立ちあがったりということが起きました。

先ほども申し上げましたように、SFCフォーラムは独立採算性で運営をしていかなければならないので、付加価値のあるアドミニストレーション・サービスを提供して研究者の方々を助ける活動をしています。具体的には、外部資金を獲得したときに、大学の研究支援部門ではひとつの研究に肩入れをして中身まで支援することは人数的にも厳しいので、わたくし共で受託という形を取り請け負ってワンストップ・サービスをしています。

これからの活動としては、SFCの研究成果を社会に対してアピールをすることで、社会がそこに資金を出してくれるようなスキームを作りたいと考えています。

大学マネジメントの組織行動論
Naoko Watanuki
平井 啓氏

大阪大学 未来戦略機構次世代研究型総合大学研究室 准教授

プロフィール:博士(人間科学)。専門分野は健康心理学・行動医学。 2011年より、大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室において、博士課程教育リーディングプログラムの企画・申請書作成・ヒアリング対応ならびに採択後のプログラムの運営・管理業務・開発業務に従事しながら、研究戦略ツールの導入ならびに同ツールを用いた学内情報の収集と解析を行なうInstitutional Research(IR)の体制構築業務に従事した。スーパーグローバル大学創成支援事業への申請においても、企画ワーキングの調整役、コンセプト開発・申請書類作成・ヒアリング対応などの業務に従事した。2015年8月より、未来戦略機構「未来戦略機構次世代型総合大学研究室」に異動し、研究型大学のあるべき姿に関するシナリオ作成などを行なう学内シンクタンクとしての研究室を目指し、活動を行っている。

もともと、人間の心理・行動に関する科学的な理解をするということを研究してきました。特にわたくしの専門分野は行動変容と意思決定というところを研究しています。この学術的な専門性を大学の実務で活かすことで、いろいろなプロジェクトに関らせてもらうことになりました。特に、博士課程教育リーディングプログラムのオールラウンド型の企画、プログラム設計や採択後にはプロジェクト・マネジメントで実際に企画して授業を行ったり、仕組みをつくったりしました。

専門性を英語で表現をすると"specialty"と"expertise"という二つがあります。"specialty"というと、わたくしは心理学の知識をほかの人に比べて持っています。しかし、"expertise"としては、その知識を実際にスキルに落とすことができるということで申請書の作成や企画業務の仕事をできるようになったということです。この専門性とスキルという観点で、URAを含めた全学の実務を担う人ができた方がよい力をまとめました。

やはり、1番目にリサーチ力です。情報を得る、調べるということです。また2番目に企画力で、ここはおそらくいちばんポイントになってくるところだと思います。3番目、4番目は働くポジションによってかわってくるでしょう。リーディング大学院にかかわっているときは、マネジメント力を使って実際にモノと人とお金をうごかしてプロジェクトを進めていました。しかし、ここ数年の仕事はどちらかというとコンサルテーションの方で、特に事務方が困っている問題を定義しそれに対する解決策をだして渡すということをやっています。それも含めて5番目に挙げているコラボレーション力ということで他職種(事務・教員・執行部等)の人々と一緒に仕事をするということでしょう。特に、最近は「事務系職員の方々にうまく使ってもらう」というポジションで仕事をした方がいいのかもしれないと考えて仕事をしています。また、組織行動学に関する書籍(『【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ』)を見ると、組織行動論という観点から、自分自身のやってきたことは組織行動論という観点からまとめられるかなということで、国立大学でおきていることを分析・考察しています。

教員・事務職員・URAというのがどんな人たちか、ということを行動科学的に考えたのがこの図4です。自分自身の経験も含めてですが、教員は企業の社員というよりも自治会の構成員であって、自分の利益を考えるのはたぶん得意ですが、組織の利益を考えるのは苦手です。特に自分の給料が「身分に対してお金が与えられている」感覚です。働き方でお金をもらっているという感覚でない人が多いという印象です。

一方で事務職員の方々は非常に優秀な方が多いのですけれども、彼らの問題の一番大きいことは「責任を取りたくても取れない」制度の中で仕事をしているということです。周りをみているとできる事務の方は、こっそり責任を取って仕事をしています。そういう方がいると、とても仕事がやりやすいと感じます。

さて、URAですが、多くの方が自らの学術活動・経験で身につけた専門性・汎用的スキルを用いて研究者の支援をやることが自分たちの専門性と感じて仕事をしているのではないでしょうか。一方で、専門職として組織からなんとなくうまく使われていないと感じているのではないでしょうか。

大学という組織風土は、まだ企業というよりも藩と言えるのではないでしょうか。特に幕末の藩に近いと思います。現実的には、そういう中で求められる人材というのは、個別的問題解決、例えば台風が来た時に田んぼのことをちゃんと面倒を見てくれそうな人になります。いわゆるフィクサー的な人でしょう。もしくは、対外的な脅威、例えばペリーが浦和に来ましたという外国の脅威に対してなんらかの解決策を示してくれる人が求められています。

先ほど柘植さんのお話の中でも社会的環境(バウンダリ―・コンディション)への変化に触れていましたが、そのような状況で、藩がそのまま海外と並んで仕事ができる状況は難しい。でもそこから変わろうとすると、ポンチ絵を描くところまではできるのですが、実行段階になると構成員からいろいろ反対されてうまくいかないと行き来している現状と感じます。URAもこの中でどう物事を考えるかということで働き方がかわってくるとでしょう。

基本的に教員と言うのは「やりたいことをやる人たち」だと思います。一方で、やりたいことをやるためには義務を果たしてもらわなければならないので、教育もしてもらわなければいけないし、社会に対しても説明していかなければなりません。事務職員の方々は、執行部、部局の教員、学生など様々な人々がやりたいことをやれるようにする人たちだろうと思います。ただ、もう少し「大学」という組織を考えて働けるように、権限を拡大するべきではないかと思います。最後に、URAですが、やはり事務職員の方々との違いを考えると、「ひとりの人を支援する」というよりも「大学のやりたいことをやれる」ようにする人たちになる必要があります。これはだいがくの「やるべきこと」ではなく、あえて「やりたいこと」と表現をしています。大学もひとつの人格を持った法人です。法人として「やりたいこと」を明確にしていかなければならない。「組織としての大学」を理解して、その「やりたいこと」を描くということを今後やって行かなければならないと考えます。

組織の生み出す価値をどのように可視化し、共有し、計画に落とし込むか。その仕事を誰が担うのかということ、また、働き方も多様だと思います。そういった複合的なことをどう考えるかだと思います。企業のように「売上げ」というお金に換算できる価値があれば、大学の構成員の焦点を合わすことができます。しかし、それが難しい中で、どう多様な価値を捉え、最大化していくのかを考えなければならないと思います。

ナッシュ均衡をこえて:URAによる組織間連携の可能性
Naoko Watanuki
前波晴彦氏

鳥取大学 産学・地域連携推進機構 講師(兼任:COC推進室)

プロフィール:栃木県生まれ。東北大学国際文化研究科科学技術交流論講座博士後期課程修了。博士(学術)。(独)科学技術振興機構等を経て現職。関心対象はSTI政策、地域科学技術政策、産学連携施策、Community-Based Researchの体系化など。産学連携の実務経験をもとに、実務にもとづいた「良質な」研究・政策提言を模索中。

URAを保有している組織間で様々な連携を行うという動機があり、そのためにRA協議会が存在しているのでしょう。では、なにを目指しているのかというと、きっと業務改善だったり、課題共有だったり、事例共有だったりを想定されていると思います。一般的に連携とか協業ということは、否定しづらいのでRA協議会もそういう目的のもとに発展を考えていると思います。そのようなときに少し、頭の片隅に置いていただけるようなコンセプトをお話できればと思います。

組織間で連携をするという一方、当然ながら大学組織はライバル同士でもあります。いちばん最初に想起されるのは「競争的資金」という有限のリソースを取り合う、という意味での競争関係もあるでしょう。もちろん、それ以外にも人材の取り合いなどもあるでしょうし、よりわかりにくいことで言えば、なんらかの社会的要請に対応するという意味でも競争的関係にあると思います。つまり、協調する一方で、なんらかのライバル関係にある、という状況にあります。

そういう状況の中で、何を話したいかと言うと、競争関係は維持しつつも、やはり「全体的な最適」というものを、考えておく必要があるのではないかということです。大学組織は、他の大学に勝つために存在しているわけではありません。「社会的な価値を生み出す」とか、もしくは「社会的な福祉に寄与する」とか、そういった大きな目的があるはずです。

競争自体を否定するつもりはありません。大学間の競争はこれからも維持されるべきだと思いますが、その競争の仕組み自体が、大学組織の向上や、社会全体の福祉・価値の向上に寄与するシステムにならなければなりません。そもそもなんのために組織間で連携する意義があるだろうと考えています。

わたくし自身のフィールドが産学連携なので、そこから発想すると、研究シーズを組織間で共有化したり、パッケージ化したりするというコンセプトは以前から提案されていますが、うまくいった例は少ないという現状です。研究シーズをどう定義するかにもよりますが、各大学が持っている研究成果を各大学組織の中だけで保有し続けることにどれほど価値があるのかということは真剣に考えた方がよいと思います。特に、地方の国立大学や単科大学の場合、個別のシーズをそれぞれの組織が社会に対して問うていくということの効率を少し考えた方がよいのではないかということを思っています。そういうものを組織間で共有したり、パッケージ化したりすることには、組織間連携が果たす役割もあるでしょうし、社会的な意義もあると思います。

このようなことを考えるときの一つのコンセプトとしてご紹介するのが「ナッシュ均衡」という考え方です。ゲーム理論の中でも有名なコンセプトなので、ご存知の方はたくさんいらっしゃるでしょう。ことし(2015年)5月、提唱者のジョン・フォーブス・ナッシュ・ジュニア博士は亡くなりましたので、お耳にされた方も多いかもしれません。

ナッシュ均衡というのは、「競争相手と協調せずに、その相手だけを見て、お互いの最適な戦略を決めている」という状況です。それ自体はいいのですが、そのようにしていると、実際にはお互いもっと多くの利得を得られるかもしれないのに、お互いの利得が下がっている状況で均衡してしまう、ということが起こり得ます。これがナッシュ均衡の中でも「囚人のジレンマ」と一般的に言われるものです。

ナッシュ均衡下では、競争相手の行動を基本的に見ていますので、そこで均衡している場合、自分だけが「その均衡を外して、ほかの行動をする動機」は基本的にありません。いま、この競争関係とは違う価値がどこかにあるのだということを理解した上で、更にお互いの信頼関係に基づき協調がないと均衡は破れないということになります。なぜなら、一人で勝手に破ってしまうと出し抜かれる可能性があるからです。ある種のビジョンや理想を競争している間で共有している状態で、組織をまたいだ方々が集まる協議会みたいなものが果たす役割があるのかもしれないと考えています。

短期的には自組織なり自部署の利得を減少させる可能性があるので、戦略的にビジョンへ向けて一時的に利得が下がっているということをメンバーの中で共有しないと前に進めなくなります。URAを含むような実務者とその支援を受けた大学経営陣や行政官とが組織間連携によって、より良い環境整備と研究成果の社会への還元を実現できる可能性があると思っています。

全体討論

池田:議論の前にコメントをします。国立大学は法人化をしてもう11年経ちます。大学の置かれた環境は変ったけれど、大学人のマインドが変わっていないと感じています。そのため、このセッションの冒頭で柘植綾夫氏が指摘された理想像へ進まないと思います。ただ、よい兆しが少しあって、法人化前に大学へ入った人と、法人化後に入った人で、意識が少し異なっているということに最近気がつきました。事務職員の方を見ていても、法人化後に入った人は、わりあい発想が豊かで、提案をする方が増えてきたと感じています。だんだん変わってくるのではないかと少し期待しています。

Q:大学の中の組織であれば「対価に対して」なにかを産み出すということを考えることを忘れがちですが、綿貫さんのいらっしゃるSFCフォーラムは、直接対価に対して価値を創造しないと生き残ることができない組織になると思います。この点についてどのように意識をされて活動をされていますか?

綿貫:提供するサービスに研究者が発注してくれるかどうか。限りある研究資金の中からわざわざサービスを買うかどうかということがあげられます。黙って座っているだけだとなかなか難しいので、企業的な言葉でいうと、プロモーションをして、より価値のあるサービスを展開したことで、教員のパフォーマンスを発揮できればと考えています。教員のプロフィールなどwebではわからない研究者の生態を知るために「研究者インタビュー」をしています。1時間の時間で、どうして研究者になったのか、テーマはなにがきっかけで見つけたのか、或いは、SFCの外と中でどういう研究者とつながっているかなど聞きます。可視化はできていませんが、誰と誰がつながっている、どういうことが起きているということを知る機会にもなります。

Q:競争関係にある大学の関係者同士がオープンな情報交換は大事だと思うのだけれど、実際どうすればよいのでしょうか? 前波:一般的に「自分たちがいまいる状態は、利得の低い均衡状態に陥っている」ということを理解することが必要です。競争相手と一緒に、より良い状態であがっていけるその道があるのに、それを取らずに眼の前の競争に勝てばいいのかというとそこは価値の問題です。 平井:柘植さんの「領空侵犯を恐れず」とはまさにそこかなと思いました。大学の中にいると、大学は基本的に「部分最適の集合体」というところで、ある大きな部局は「巨大な部分最適」をやっている傾向があると思います。結局「大学組織としての全体最適」ということはなかなか考えられないのかなと感じます。

前波:個々のアクター全員の利得が、その最終の段階ではあがっているということが前提です。ただ、その上がり幅は異なるので、結果として向こうの大学の方がすごく伸びたねということはありうるかもしれません。一応、「全員がいまの状況よりよくなる」というパレート改善されるということを前提にした全体最適になります。

議論の様子02 議論の様子03

Q:各大学がさらによい状況になるために、競争相手でもある大学同士が共有するポイントはなにになりますか? 前波:「なにをもって、この社会をよしとするか」という価値観の問題だと思っています。大学が「社会と対話する」ということを漠然と言われますが、われわれの社会がどういうところに向かっていきたいのか、というビジョンをつくるために対話をすると思っています。結局、価値を共有してないと、部分最適に陥る可能性が常にあると思っています。「社会を見る」ということは、われわれがどういう社会で生きていきたいのかということを考えるという意味を含んでいると考えています。 平井:「価値とはなにか」を考えると、大学の価値というのは「多くの人を集められること」だと思います。人があつまる、学生があつまる、世界から優秀な研究者があつまることが大学の価値だと考えます。そこに、自分がどう貢献するのか、ということを大学に勤めている人間の考えるべきことだとシンプルに考えています。

綿貫:ある教員の方が、結局大学は人だなという意見をおっしゃっていた方がいます。どれだけよい研究者を捕まえられるか、その大学にとどめておけるかということが大事だとおっしゃっていました。ただ、部局としてどうつなぎとめる策があるのかというと現実には難しいですが、そこをどう実現していくかが大切なことと感じています。

Q:厳しい状況におかれている大学において、URAはなにを見ていけばいいのでしょうか?

綿貫:現場において組織や研究者がやりたいことを支えるために、URA的な業務がどこまで浸透できるのか。また、それぞれの教員に対してどのように価値の提供を行っていけばいいのかを考えたい。

平井:執行部がなんと思っているかということが出てくれば当然そこにあわせればよいのですが、出てこないからといって何もしないのではなく、先をもって「こういうものがいいのではないか」と自分なりに考えてそれに基づいて行動することだと思います。

前波:わたくしも含めて毎日の実務があります。そういう実務に対して、組織間連携だとか社会の価値だとか言われるとギャップがあるように感じられる場合もあると思います。上層にあるビジョンから日々の実務まで、いくつかのレイヤーに分けてブレークダウンするのはよいのではないかと感じます。いまの実務がどういうふうな社会的価値を生み出すのか、どういう経路をたどって価値を生みだしているのかということはいしきするひつようがあると思います。

柘植:特に国立大学において、やはり、大学が変わっていないという実態があると思います。10年後に振返られても言えると思いますが、「組織は生存の危機がなかったら進化しない」と。私立大学では、教職員も学長と共に「つぶれるかもしれない」というその危機意識を共有できる立場に置かれてしまいました。国立大学にはまだその意識が薄いので、URA協議会の中で言い続けていただきたいと思います。

池田:最後に一言。URAという概念が、URAを考えていた当初とは異なりつつあるという状況を柘植綾夫氏からも指摘がありました。最初は「支援」ということでしたが、いまはもう少し大学の企画・経営というところを期待されているということです。ただ、文部科学省や様々な審議会では期待になっていますが、現場の各大学でそこまでの期待になっているのかどうかは非常に難しいと感じます。そのように行動をするべきであるとわたくし自身思いますが、執行部がもしそうでなかったら、「おまえはなにをしているんだ、もうすこしおとなしくしていろ!」となります。そこは、上に理解をしてもらいながら活動をしていただければより活動も広がると思います。

福島:本日の議論のまとめを下図のようにまとめました。教育基本法に書かれたように、大学の役割として教育・研究・社会貢献が挙げられます。そして、教育基本法に基づき各大学が自らに課した使命をその構成員と共に果たしていくのかを、それぞれの立場から考える必要性がきょういろいろな視点から話にでました。また、競争相手でもある大学の他に、行政やファンディング機関といったステークホルダーとの組織間連携に関する言及もありました。日々の実務でURAができることと少し俯瞰的に見てURAという組織体ができることを考えるきっかけになればと思います。本日はありがとうございました。
















*開催報告(PDF 1.11MB)
*講演者プレゼン資料一式(PDF 5.70MB)

2017年5月26日(金) 更新(担当:福島 )