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大学のこれからを考える

Policy Seminar

講演録開催大学からみた科学技術政策

2014年8月 1日(金)【講演録開催】
開催日時
  • 第7回科学技術政策セミナー
  • 2014年7月25日15:00-17:00
  • 大阪大学テクノアライアンス棟1F 交流サロン
  • 開催概要

    大学には、文部科学省から出向されてきた方、省庁へ出向経験のある教職員や省庁を経験して別の道に移った方など様々な経歴の方が集まっています。そのようなキャリアを経験している大阪大学教職員に話題提供いただき、大学という現場から考える科学技術政策について参加者と共に議論をしました。

    Hiroaki Hanaoka
    花岡宏亮

    大阪大学大型教育研究プロジェクト支援事務室 専門職員

    関西学院大学法学部卒業。2003年大阪大学採用後、研究協力部、産業科学研究所、PMO準備室、総長秘書室PMTを経て、文部科学省研究振興局情報課へ出向。情報科学技術委員会やアカデミッククラウドに関する検討会の運営、内局事業(未来社会実現のためのICT基盤技術の研究開発)の概算要求や戦略目標「ビッグデータ」、「知的情報処理技術」等の企画立案等に従事。2014年4月より現職。

    職員、文部科学省へ出向する
    まず大学職員が文部科学省(以下、文科省)へ出向・長期研修を行う仕組みについて簡単に説明したいと思います。大きく2つのパターンがあります。1つ目は若手職員が大阪大学職員の身分を持ったまま、文科省研修生というかたちで1年間文科省の複数の部署を経験して、文科省の業務を学ぶものです。2つ目は中堅職員が大学職員から文科省職員に所属を変更し、2年程度特定の部署に配属されて文科省職員として文科省の業務を学ぶものです。

    私が出向しようと思った理由ですが、私は採用から約8年間、研究協力関係の業務、例えば科学研究費補助金(以下、科研費)等の競争的資金業務に携わり、ある程度の事務業務はできるようになったのですが、より研究者にとって役に立つ、あるいは気の利くような職員になりたいと思い、プラスアルファのスキルを磨くため、出向させていただくことにしました。

    大学職員としての勤務では予算配分額が確定してからの、交付申請書、執行、実績 報告書等の業務は担当することができますが、それ以前の予算折衝についてはよく分かっていませんでした。なので、文科省に出向するのであれば、概算要求、財務省折衝、公募・選定という大学ではできない業務プロセスを経験し、競争的資金について理解を深めようという思いを持ち、業務に臨みました。

    文科省職員として業務を行い、感じたことは、文科省職員に対して効果的に研究者や研究内容を紹介できる大学職員やURAが必要だということです。実際、文科省職員は科学技術政策の立案において研究者からの御意見を参考にしながら進めていることが分かりました。政策立案は文科省職員と研究者の協同作業ともいえると思います。文科省への出向経験を持つ大学職員やURAが研究者と同じく政策立案過程に関わり、貢献することが求められていると感じました。なお、科学官 や(独)科学技術振興機構研究開発戦略センター(JST/CRDS)といった大学側からは見えづらい人や組織も政策立案に関わっていることを知りました。

    大学職員やURAが文科省職員と研究者の間に立つに当たっては、文科省がどういう情報を求めているのかをある程度把握できるようにしておくことも大切で、文科省のニーズを踏まえて短期間で情報を収集する必要があります。また、得られた情報を文科省の人に短時間で効果的に説明することも求められます。さらに、これらの取組を通じて、文科省職員や研究者とどれだけ信頼関係が築けるかも大事になってきます。他方で、文科省では頻繁に人事異動がありますので、人間関係の継続的なフォローアップも重要です。

    Tatsuhiro Kamisato
    神里達博

    大阪大学コミュニケーションデザイン・センター 特任准教授

    東京大学工学部卒(化学工学,1992)。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得満期退学(科学史・科学哲学,2002)。博士(工学)。コミュニケーションデザイン・センター科学技術部門・公共圏における科学技術・教育研究拠点プロジェクト所属。旧科学技術庁、旧三菱化学生命科学研究所、JST社会技術研究開発センター、東京大学大学院工学系研究科GCOEを経て現職。これまでは、主に食や健康問題におけるリスクと社会の関係を扱ってきたが、最近はエネルギー問題にも関わる。

    科学技術庁(現、文部科学省)を経験して、研究の道に進む
    私自身のこれまでの経歴を振返るとNomadicともいえるかと思います。朝日新聞社の客員論説委員も(2014年)4月からやっていますし、文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の客員研究官もしています。朝日新聞と役所の仕事を兼ねるひとはあまりいないでしょうし、珍しいだろうなと思っています。

    私のような人がもうすこしいると便利になるだろうと思っています。例えば、メディアでの議論と役所関係での議論は意外と似た話をしています。もちろん立場は異なりますが、アジェンダや論点もさほど違いはないし、結局いまの日本社会の抱えている問題という点で共通します。が、コミュニケーションの回路があまりありません。このように、「媒介になる人」がいろいろなところにいると、きっと無駄な対立も減ると思います。一方で、本当に利益相反が問題となるところは見えなくなっています。つまり、本当の意味での不正などは、みんなが知らないうちに盲点になっていて、知らないうちに誰かをすごく苦しめているとか、そういうことが見えなくなりやすい、ということがあります。ですから、そういう意味でも、主流とは立場が異なる「変わった人」というのは、もう少しいたほうがよいと思っています。

    では、そういう人をどうやって育てたらよいかというと、自分でもよくわからないし、自分のような人生を若い人が進みたいと言っていたら「いやぁ、やめた方がいいよ。苦労するから」とつい言ってしまうと思います。アメリカでは、よく言われるように「回転ドア」みたいにいろいろなところへ行くわけですね。役所に行ったり、大学に行ったり、メディアに行ったり、企業の経営者になったりという人がいます。私自身は、ひとりで回転ドアをやっているようにも感じています。役所を辞めてから「まぁ死なない程度に生きていけばいいよな」と思ってやってきました。当時は、役所を辞めるということは、ある種「出世街道」みたいなものから早々に降りるということを意味したので、そこから先は言ってみれば「余生」のように感じ、半分引退したような気分がありました。その後は、仕事がなくなりそうになると、社会で大きな事件があり、なぜか自分はそのことにちょっと詳しいということで、突然多忙になる、というようなことを繰り返しながら、なんとか食いつないで来たように思います。

    その結果、いつの間にか、ほんとうに何重もの意味で私は「境界」にいました。理系と文系の境界にもいますし、推進と反対の境界にもいますし、アカデミズムとジャーナリズムの境界にもいます。左派と右派の間でもあるかも。今は若手とベテランの中間みたいなところにもいるかもしれません。ただ、やはり境界的なところにいる人は、日本ではあまり評価されないようなので、いろいろな意味で損をしてい るかもしれませんが、そういう人がいてもいいのかなと思ったりもします。

    いつも気分は仲間外れですね。「コアな人たち」というのは必ずある組織にいて、そこには自分は入れないという気持ちをずっと持っています。ただ、あまり辛くはないです。「コアな人」はいろいろと責任が重くて大変そうですし。こういうちょっとおかしい人も少しはいた方が、おそらく変動期の社会にはいいのではないでしょうか。特に、科学技術政策みたいな境界領域的なところには。ある程度ヘンな人がいないとうまく回らないかもしれないので、そういう自分の役割を日々探しつつ暮しているという感じです。

    Yasuo Kitaoka
    北岡康夫

    大阪大学工学研究科附属高度人材育成センター 教授

    プロフィール:大阪大学大学院工学研究科修士課程を経て、1991年松下電器産業(株)(現パナソニック株式会社)に入社。1999年大阪大学大学院工学研究科にて博士(工学)取得。次世代光ディスクの開発に従事しながら、人材育成業務や企画業務にも従事。2006年大阪大学大学院工学研究科附属フロンティア研究センター教授。GaN結晶成長関連の研究を進めながら、社会人基礎力育成プログラムを全学的に推進。2010年10月経済産業省製造産業局ファインセラミック・ナノテクノロジー・材料戦略室産業戦略官。レアメタルの価格高騰や東日本大震災に関わる産業政策や国家プロジェクト(SIP、ImPACTなど)の仕組みづくりに従事。2014年4月より現職。

    研究者、経済産業省へ出向する

    科学技術とは何かという問いかけに私自身いつも関心を持っています。産業の目的や世の中・社会が求めているものを開発すべきだろうと思います。私自身も実際、松下電器に就職しDVDの開発をしましたが、自分が欲しいものを開発しているときはほんとうに楽しく研究ができると思います。自分たちの研究がどの予算を使い、誰に貢献しているのかということを、研究者は考えていかないといけないと思います。例えばアメリカを見ると、DoD(United States Department of Defense:アメリカ合衆国国防総省)であれば軍事ですし、DoE(United States Department of Energy:アメリカ合衆国エネルギー省)であればエネルギーですし、NIH(National Institutes of Health:アメリカ国立衛生研究所)であれば健康医療になります。

    一方、日本の科学技術予算を見ると文部科学省(以下、文科省)がたくさん持って いるように見えますが、実際に社会ニーズを汲んでいるのは、経済産業省(以下、経産省)・厚生労働省(以下、厚労省)・総務省・国土交通省(以下、国交省)・農林水産省(以下、農水省)になると思います。実際には文科省だけが研究開発行政を実施しているのではなく、文科省が実施する科学技術政策が、各省庁の産業政策にどう関係するかという視点が非常に重要です。そういった意味では、「大学も、各省庁の政策動向を見ながら文科省とのつきあいをやっていかなければならない」と私は思います。大学自身も、研究資金だけでなくファンドや寄付を集めるために、ある程度ポートフォリオを組んで戦略的に研究開発を進めていかないといけないと感じています。

    社会に役立つということで、経産省・厚労省・総務省・国交省・農水省・文科省等、それぞれ社会のためにどう役立つかを考えるために各省庁があるのだと思います。社会に役立つというのは、人のため、人がほしいものや自分がほしいものを提供するということです。実際に社会に役立つことを考えるならば、法律や規制や外交等いろいろな意味で考えないと当然科学技術だけではものは作れません。そういった意味では、総合大学は科学技術だけではなくて様々なことを教育しながら、国に対して提案していく時期が来ていると思います。

    関東圏の大学は様々な提言を国に対してしています。間違った提言もあるかもしれませんが、やはり提言をしてその話題提供がトリガとなり、審議会や研究会等で議論がなされ、それが政策に取り上げられ予算要求となっていきます。そういった意味で、大阪や京都の大学も社会課題を分析して、こういうことを国としてやるべきじゃないですかという提言をする仕組みを作っていかなければならないと思います。自分たちが、日本のため、世界のためにどういうプロジェクトをやらなければならないかということを提案することが必要と思います。

    会場の様子 会場の様子
    会場の様子
    フロアとの意見交換

    参加者A:自分の持っている専門以外に更に勉強をして企業に行ったり、文科省等に出向したり、他の仕事に転職したりという様々な人材が大学の中で活かされるにはどうしたらよいのでしょうか。また、東京の大学に比べて地理的なハンディを持った大阪では、そのハンディを超えるためのアイデアはなにかありますか。

    北岡:3年半、経済産業省にいてよかったと思うのは、「官僚側のつらさ」がわかると、大学側の要求の仕方もかわってくる面もあります。大学の教員の方はよく「文科省に裏切られた」「経産省に裏切られた」といいますが、裏切ったのはその官僚ではなく、その後ろにいる人で、時にはまたさらにその後ろにいる人だったり、マスコミだったり...官僚は複雑な状況の中にいる中で、彼らなりに本当になにを考えているのかということはなかなか話せません。もう一つ重要なことは、同級生の間のネットワークでしょう。学内の講義の中で学生に、「官僚も一つの道だよ」と話をしたら去年(2013年)も5人ほど工学部から官僚になった学生がいました。人が混ざっていくためには5年、10年かかっていくと思いますが、混ざってくるとお互いの考えが分かってきて国も大学に頼りたいことは頼ってきてそれを返せば、またなにかあったときにお願いを聞いてくれる。近所づきあいや同級生やお友達とつきあっている感覚になるまで時間はかかりますが、継続性が大切だと思っています。

    花岡:文科省職員は色々な仕事があり、1日中忙しく、短時間で研究開発のタネを探したいという気持ちがあります。このため、大学職員やURAが研究者と共に文科省職員と打ち合わせる場合は、研究者の研究の内容だけではなく、文科省職員の知りたいポイント(研究開発の必要性・緊急性、研究開発の実社会への波及効果、国が施策として行う必要性等)をうまく理解した上で、端的に説明できれば、双方にとってWin-Winの関係を作れると思います。

    神里:私は、東京大学では学生として10年、また教員として4年ほど働きましたが、東京大学自身が、一つの官庁みたいなものだよな、というのが実感です。役人になる学生も多いですし、そもそも公務員試験そのものが、東京大学に入るような学生にとっては、受かりやすいように作られていると思います。そういう意味で、せっかく東京と離れているのですから、大阪大学は絶対に東京大学を目指してはいけないと思います。東大出身の役人でも、セカンドオピニオンがほしいようです。私たちは離れたところにあるので、全然違う角度から話をするということにして、多少権威を持つべきでしょう。ニッチなところを探るのであれば、「行政へのセカンドオピニオンを提供してくれる学校はどこだっけ?」、と役人が思い出そうとすると、「あ ぁそういえば阪大があったね、聞いてみよう!」となる、というのは、十分にあり得る道とおもいます。 司会:今日の参加者には、大学の研究者で経産省に出向されていた方がいらっしゃるのでコメントをお願いします。

    参加者B:中央を向いていても違うことはできるはずだと思います。中央から背を向けてしまうといつまでたっても言葉が通じないので、中央の方をきちんと見て、タイミングを見てなにを欲しがっているかを知った上で違う意見を述べるということは、距離があるからこそだと思います。先ほどの「東京だけの情報では偏っているな」という変色に中央が気づきだしたというのもタイミングだと思います。大学に戻ってきてURAという職業がひとつのキーになると感じます。研究支援ということが研究費を獲得してくるというだけではなく、大学の研究者が考えてみる未来図や社会図をきちんと国の政策として、日本の向く方向につなげていくことが大事だと思います。そういうアドミニストレーションができると、たぶん教員もハッピーだし、職員もハッピーでしょう。官にとってもハッピーだと思いますので、うまくURAを通じて東京以外の地域から大学からの情報をもっと役所に届ける機会が増えれば、こういう話はフランクにできると思います。

    参加者C:内局事業に関して教えてください。例えば、文科省には管轄の研究助成機関があるにもかかわらず、なぜ内局事業を行う必要があるのでしょうか。

    神里:もちろんできる分は全部外に出したらよいと思うのですが、やはりJSTなどにいってしまうとなかなか文科省も手をつけられません。文科省はやはり、各課でそれなりに予算を持っておきたいということがあって、内局の予算をつくろうとしているのではないかと想像します。一方、経産省はエネルギー対策特別会計を持っているので、自分たちの予算で自分たちの政策を作ってしまいます。特別会計の予算だから、来年度はこういうことをやりたいな、そうするとそれは、「エネルギー戦略」としてこの文書のこの文言で読めるから、こういうプロジェクトを作りましょう...と新しいプロジェクトを作ることも可能でしょう。  

    2018年3月24日(土) 更新
    ページ担当者:福島