大阪大学 経営企画オフィス URA×IR大阪大学 経営企画オフィス URA×IR

RA協議会第7回年次大会の大阪大学セッション「若手研究者支援の塩梅を考える」実施報告・講演録公開

◎以下のセッションの実施概要記事は、大阪大学URAメールマガジンvol.74より転載しました。

RA協議会第7回年次大会セッション「若手研究者支援の塩梅を考える」実施報告

坂口愛沙/大阪大学大学院理学研究科 企画推進本部 助教

2021年9月15日、RA(リサーチ・アドミニストレーション)協議会第7回年次大会にて「若手研究者支援の塩梅を考える」というタイトルでオンラインによるセッションを行いました。セッションの前半では、文部科学省でJST創発的研究支援事業の設計に携われた池田宗太郎さん、シンガポール国立大学でテニュアトラック制度によりテニュア研究者になられた遠山祐典さん、北海道大学で産学連携の支援をされている城野理佳子さんから、それぞれ国レベル、大学レベル、個人レベルでの若手・中堅研究者支援についてご講演いただきました。後半のパネルディスカッションでは、ご参加いただいた約80名の方々からの質問やコメントを交えながら、若手・中堅研究者支援の塩梅をどう整えていくかなどについて議論しました。セッションの内容の詳細については、講演録をご覧下さい(講演録全文PDFはこちら(約4MB))。

vol74_ambai00.jpeg

本セッションは、大阪大学大学院理学研究科でリサーチ・アドミニストレーション業務を行っている筆者が感じてきた研究環境の改善の必要性から生まれた提案がきっかけとなり、若手や中堅の研究者の支援に対して課題意識をもつ経営企画オフィスURAの谷、川人、佐藤と筆者の計4名のメンバーで企画しました。若手研究者支援の施策については、研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ(総合科学技術・イノベーション会議)でも掲げられていますが、キャリアステージや年齢の移行による研究資金や制度等の「支援の切れ目」が生じることや、研究費の財源や支援人材が限られていることが課題として挙げられ、必要な人・場所に必要な量の支援が届くよう常に検討を続けていくことが重要と考えられます。また、若手ばかりに支援が偏ることで中堅研究者への支援が不足してしまうと、中長期的な視野をもつ研究者が研究を続けられなくなる、日本の研究の中核を担う人材が不足する、次世代を担う学生の教育も行き届かなくなる、といった事態も起こる可能性があり、支援対象についてもバランスが必要と考えられます。私たち企画メンバーは、このバランスのとれた研究者支援について、国のレベルでの研究費制度や人事制度、大学レベルでの学内助成やポスト確保、研究支援人材による個人レベルでの研究費申請・論文投稿支援や異分野・異業種・海外連携支援など、それぞれのレベルで関係者が互いに情報共有し、共通の場で議論を深めていくことが必要ではないかと考えました。そこで、本セッションでは、各レベルで研究者支援の塩梅について議論できるよう登壇者を調整しました。なお、研究者の必要とする支援については、研究分野や研究手法によっても大きく異なると考えられますが、本セッションでは理工系(特に実験系)の若手研究者支援に焦点を当てて考えることにしました。

まず、セッションに先立ち、現場の声を聴いて現状を把握するため、理学研究科の研究者を対象に研究者支援に関するアンケート調査を行いました。理学系の研究分野では、シニア研究者が若手研究者の活躍を後押しする文化がありますが、近年さまざまな事情により研究時間や研究費の確保が難しくなり、若手を育てる余裕がなくなってきているという状況を目にするようになってきました。アンケートでは、1.大学やURA等による研究者支援について:研究者が必要としている支援は何か、2.若手・中堅研究者向け研究者支援について:研究者が困っていることは何か、3.公的研究費制度や国の施策等について:JST創発的研究支援事業は当事者からはどう見られているか、若手のキャリア形成に必要だと思われている制度は何か、などについて意見を聴きました。その結果、若手・中堅研究者を中心に、理学研究科に所属する研究者の2割から回答を得ました。まず、研究者が困っていることとして、研究時間・資金の不足、先の見通しが立てにくいという声が最も多いことがわかりました。若手・中堅研究者の中期的な支援を目的として設計された創発的研究資金事業については、支援内容(原則7年間で総額上限 5,000万円)は概ね好評でしたが、採択率(約10%)は低すぎるという声が過半数でした。創発的研究支援事業は、若手の独立を後押しするものですが、若手や中堅の研究者がキャリアを形成するために有効と考えられる制度については、「講座制」、「独立」、「講座制とテニュアトラック制度の併用」で意見がわかれました。また、大学やURAによる支援については、研究費申請、研究成果発表(論文投稿等)/発信(プレスリリース等)に対する支援のニーズが高いことがわかりました。結果の詳細は、講演録(約4MB)をご覧ください。

vol74_ambai01.jpeg

本セッションでは、上記アンケートの報告後、まず、国レベルでの研究者支援の取組について、文部科学省の池田さんから、創発的研究支援事業を例に研究者が安心してチャレンジできる研究費制度の話題を提供していただきました。具体的には、1.長期的・安定的な研究費の支援、2.研究資金の柔軟な用途・運用、3.所属機関の取組と連動した研究時間、独立した研究環境の確保、4.短期的な成果を求めず、研究者の熱意や創意工夫に基づく進捗評価などについて取り上げ、それぞれ支援期間・支援額・独立性(ポスト)・評価の観点から若手支援施策の現状や課題、今後の取組についてお話しいただきました。

大学レベルでの検討については、シンガポール国立大学の遠山さんからテニュアトラック制度におけるキャリア形成支援の話題を提供していただきました。腰を据えた中期的な支援の重要性や、マイルストーンの明示、若手が研究に専念するための任期無し教員の協力(研究以外の業務負担軽減)、若手の評価などについて、遠山さんの経験に基づいてお話しいただきました。

個人レベルでの検討については、北海道大学の城野さんから産学連携支援を例に、産学連携に関する勉強会やトラブル対応などの話題を提供していただきました。個別の支援の背景として、1.組織としての課題(大講座制のメリット・デメリット、教員と事務組織の乖離)、2.研究者側の課題(契約や知財についての基礎知識不足、自身の研究を多角的・多面的に捉えることの重要性)などが挙げられました。

vol74_ambai02.jpeg

各講演者からの話題提供の後は、企画メンバーである経営企画オフィスの川人URAを進行役にパネルディスカッションを行い、参加者からの質問やコメントを交えながら、研究者支援の塩梅について議論を行いました。たとえば、若手研究者が組織(大学)の中の一人としてどのような制限を意識しなくてはいけないか、という質問をもとにした議論では、教員は研究だけやっていればいいという発想だけだと最終的にテニュアをとるのは難しいのではないか、若手教員(研究者)への支援の仕方によって大学への帰属意識が変わるのではないか、大学として若手を応援していますという姿勢をしっかり伝えていくことも研究者の意識を変える上で重要ではないか、などの意見がありました。ディスカッションの最後では、誰がどう研究者支援の塩梅を整えられるのか、について考えました。池田さんからは、優れた研究者が研究を続けられる研究費を意識して、国と研究現場でコミュニケーションをとっていくのが良いのではないか、という意見をいただきました。遠山さんからは、シニア、大学の組織というシステムとしてのサポート、カルチャーのようなものが一番重要で、そのためにもサポート体制を大学側から大々的に外に向かって明示することが良いのでは、という意見をいただきました。城野さんからは、教員に支援人材の存在を知ってもらい、支援の手が行き届くよう、学内に対して積極的にアピールしなくてはならないと感じている、研究者と近い距離でどうノウハウを蓄積すれば良いか模索している、というコメントをいただきました。筆者からは、塩梅を整えるためには「味見」が大事ではないか、国・大学・研究者それぞれの状況を把握してそれらをつなぐことが重要で、それがURAの仕事ではないかという意見を出しました。企画メンバーであり全体の進行役である谷URAからは、人による支援をコアとして、国、大学の制度などの塩梅を見ながら個別に適した支援を作っていくことが、良い塩梅につながるのでは、というコメントがありました。

本セッションの企画や研究者支援アンケートの内容は、7月から具体的な検討を始め、週に一度のペースでミーティングを行うことで議論を深めました。セッション一か月前の8月中旬には、登壇者全員と企画メンバーによる顔合わせを行い、各人からの発表内容やパネルディスカッションの内容について、意見を交わしました。当日は、約80名もの参加者の皆さんと一緒に、若手研究者支援の塩梅について考えることができました。RA協議会が行ったセッション後の参加者アンケートでは、セッションの内容に対する評価として10点満点中8.9点と高評価をいただき、関心や期待の高さを感じます。今後は、本学理学研究科で実施した研究者支援アンケートの結果や本セッションでの議論をもとに、さらに調査や議論を行いながら、若手研究者の支援に関する施策の提案や、支援の改善につなげていきたいと思います。最後になりましたが、本セッションの実施にあたりご協力いただいた皆様に感謝申し上げます。


講演録全文PDFはこちら(約4MB)からお読みいただけます。

2022年4月 1日(金) 更新
ページ担当者:川人