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URA MAIL MAGAZINE

URA MAIL MAGAGINE vol.4

「若手育成の試み。その先に見えるもの」特集

2014年1月 発行

本年もどうぞよろしくお願いいたします。今回は、新しい年の始まりにちなみ(早くも1か月経とうとしていますが)、明るい話題として、フレッシュな若手育成の試みをいくつか紹介します。

■INDEX
┣【1】「博士課程教育リーディングプログラムフォーラム2013」参加報告
┃   ~抜本的大学院改革の象徴的イベントを、公式かつ非公式にレポートします。
┣【2】第3回NIFウィンタースクール実施報告
┃   ~IFReCが世界選抜若手研究者48名らと紡ぎだす次世代免疫学研究ネットワーク
┣【3】テニュアトラック制度を定着させるための未来志向型設計
┃   ~大阪大学工学研究科「グローバル若手研究者フロンティア研究拠点」の事例から
┣【4】エッセイ「大学に於ける研究活動と大学院教育」 第3回
┣【5】URA関係イベント情報
┃   ●【明日1/29開催!】第5回科学技術政策セミナー
┃   ●FIRST審良プロジェクト公開シンポジウム「免疫研究が拓く未来医療」
┣【6】大阪大学ホットトピック
┃   ●平野総長 2014年新年のあいさつ
┃   ●理学研究科・小林研介教授が第10回日本学士院学術奨励賞を受賞
┃   ●研究ポータルサイトResOU(リソウ)を開設しました
┃   ●大阪大学未来戦略機構シンポジウム「Opt Osaka 2014 in Tokyo-大阪大学の光科学100-」
┃   ●最新の研究の成果リリース
┗【7】次号予告





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【1】「博士課程教育リーディングプログラムフォーラム2013」参加報告
~抜本的大学院改革の象徴的イベントを、公式かつ非公式にレポートします。
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URAは、University Research Administratorの略称ですから、一般的には研究支援を担う職種ですが、大型の教育プロジェクト支援を担当する場合もあります。その一例としては「博士課程教育リーディングプログラム」が挙げられるでしょう。ちなみに大阪大学でもURAが本プログラムの申請支援等を行いました。


文部科学省「博士課程教育リーディングプログラム」は、大学院教育の抜本的改革を支援し、最高学府に相応しい大学院の形成を推進する事業です。産・学・官の連携により、専門分野の枠を超えて、博士課程前期・後期一貫で世界に通用する質の保証された学位プログラムを構築・展開し、優秀な学生を俯瞰力と独創力を備え広く産業界、学界、行政などのフィールドを問わずグローバルに活躍するリーダーへと導くことを目的としています。2011~2013年度に公募され、全国の国公私立30大学で62のプログラムが採択されました。
◇文部科学省「博士課程教育リーディングプログラム」ウェブページはこちら
◇日本学術振興会「博士課程教育リーディングプログラム」ウェブページはこちら




1月10日(金)、11日(土)、大阪大学が主催校となり、リーディングプログラムでどのような人材が育ちつつあるのかを社会に大きく発信するため、「博士課程教育リーディングプログラム」の全国フォーラムを開催しました。会場はJR大阪駅横のグランフロント大阪で、全国からプログラム履修生、関係教職員、企業関係者等、2日間で延べ900名近い参加がありました。
◇「博士課程教育リーディングプログラムフォーラム2013」ウェブサイトはこちら



全国の採択プログラム履修生の中からエントリーした48チーム・189名が5つのテーマ=社会的課題(「未知のデバイス」、「Sustainability of Resource or Infrastructure」、「社会的格差・対立-Health issues-」、「社会的格差・対立-社会環境格差の克服-」、「Japan and/or Global, Now and Future」)に分かれ、その課題を解決するための事業案をアイデアコンペ形式で競い合った学生フォーラム「ネクストビジョナリー」や、教職員同士の情報交換の場としてリーディングスタッフワークショップ等、並行して複数の企画が行われ、盛況のうちに閉幕となりました。



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大阪大学 平野俊夫総長による開会挨拶

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初日に行われた学生フォーラム「ネクストビジョナリー」の第一次選考の様子。5テーマに分かれて、各チームが交代でプレゼンを行っています。2日目には、敗者復活戦を経て、第二次選考と最終選考が行われ、総合優勝チーム(食料問題解決策を提案した東京農工大学チーム)が決まりました。42名の企業関係者・行政関係者が審査員を務め、本プログラムの特徴である産・学・官連携を象徴する企画でもありました。




オフィシャルな報告はここまで。ここからは、筆者がフォーラム当日に感じた個人的な感想です。

本プログラムに関わっていない一参加者として、2日間のフォーラムは非常に楽しめましたし、大阪大学主催だからというひいき目を差し引いても、実りあるユニークな企画だったと思います。全国の採択大学・文部科学省・日本学術振興会・企業等の関係者が一堂に会したことで、履修生同士、教職員同士、産・学・官の間などで、普段できない交流や意識の共有が生まれ、今後も博士課程教育リーディングプログラムを推進していこうという機運が高まっていたように感じました。

また、今回のフォーラムは、学生フォーラムやパネルディスカッションなど、プログラム履修生が主体的に関わる部分を多々設けたことにより、彼らの持つエネルギーの大きさやポテンシャルの高さが際立って印象に残りました。筆者は社会的には中堅どころの年齢ですが、時代の主役は彼らなんだと見せつけられたような気がして、一抹の寂しさを覚えたほどです。その一方、そうした彼らのキラキラした姿が、プログラムにまつわるデコボコや温度差をくっきりと映し出していたようにも思います。その意味では、非常に刺激的な場だと感じました。このプログラムを5年間履修したからといって、未来に確かな保証があるわけではないとおそらく自覚しながらも、自らの成長の一つの機会として活かそうと奮闘する履修生たちから、彼らを支え・導き・受け入れる"大人たち"の果たすべき役割や本気度が問いかけられていたようでもありました(もちろん、これは既に、採択大学教職員を始めとする方々が、現場での試行錯誤の中で受け止めておられることですが)。

筆者も、"大人"側の人間として、自分の価値観や思考パターンから自由になることの難しさを感じています。昨日と同じ今日や明日にどっぷり浸かってしまいがちな大人たちを挑発しながら、優秀かつ元気な若手が新しい社会を切り拓いていく、そんな未来に期待がふくらんだ2日間でした。

(川人よし恵/大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチーム)




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【2】第3回NIFウィンタースクール実施報告
~IFReCが世界選抜若手研究者48名らと紡ぎだす次世代免疫学研究ネットワーク
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免疫学は、日本がリードしてきた領域の一つであり、その研究成果の多くを山村雄一元総長や岸本忠三元総長をはじめとする大阪大学の研究者が成し遂げてきました。2007年10月、文部科学省の世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラムの1つに採択されたことを受けて、本学は免疫学フロンティアセンター(IFReC)を設立しました。IFReCでは、免疫学研究の第一人者・審良静男センター長を始めとする、20名以上の世界トップレベルの主任研究者を中心に、所属研究者数約200名・外国人研究者が30%以上という研究体制を構築し、本学が培ってきた免疫学研究をより発展させるために、免疫学とイメージング(画像化)技術、さらにバイオインフォマティクス(生体情報学)との融合研究を通して、動物生体内(in vivo)における免疫反応可視化、あるいは予測による免疫系の動的な全貌解明を目指しています。
◇大阪大学免疫学フロンティアセンター(IFReC)ウェブサイトはこちら



こうした世界最高水準の研究成果の追究に加えて、それを担うべき若手研究者の育成もミッションとするIFReCは、2年前から毎年1回、シンガポール免疫ネットワーク(SIgN、シンガポール科学技術研究庁Agency for Science, Technology and Research=A*STARの一組織)と共に、世界中から博士課程学生または博士号取得後3年以内の研究者を公募して、5日間の合宿形式の若手研究者育成プログラム「NIF(Network of Immunology Frontier)ウィンタースクール」に取り組んでいます。この連携の背景にあるのは、IFReCとSIgNの連携によって、アジアを中心として世界の免疫学研究を更に発展させていこうという思いです。



1月19日から23日、3回目を迎えるNIFウィンタースクールが、兵庫県淡路市の夢舞台国際会議場で開催されました。運営委員会のメンバーは、IFReCから委員長の黒崎知博主任研究者ら6名の研究者、SIgNから前回委員長のPaola Castagnoli主任研究者ら5名で構成され、日本、シンガポール、米国、オーストラリア、スイス、ドイツ、イスラエルで活躍する第一線の免疫学研究者15名が講師陣として若手研究者を迎えました。
◇第3回NIFウィンタースクール実施概要はこちら



今回参加したのは、研究成果、参加動機、および推薦状により応募者217名から選抜された若手研究者48名です。5日間のプログラムでは、講師による講義や参加者による口頭およびポスター発表のほか、特に小グループによる討論やフリーディスカッションの時間を確保するなど、参加者同士、また講師と参加者のコミュニケーションを図れるような配慮がなされました。免疫学の様々な分野における広い見識に基づきつつ最新の研究成果を網羅した講義、および参加者によるレベルの高い研究内容発表をきっかけとして、多くの活発な議論がなされ、参加者の多くから、今後の研究を発展させる上での良い刺激となったと高く評価されました。また、多くのコミュニケーションを通じて、同世代の免疫学研究者として個人的な強い繋がりをもつことができたという意見も多数寄せられ、免疫学を担う次世代の世界トップクラスの若手研究者ネットワーク構築に寄与することができました。世界各国からの参加者は、それぞれの研究環境や国際的なキャリアパス等についての情報交換も活発に行っており、キャリア形成を日本の研究機関で行うことも考慮しているようでしたが、そのための日本での研究環境、雇用や待遇についての情報が不足しているという声が多く聞かれました。5日間のプログラムの後、参加者の多くは吹田キャンパスのIFReCを見学しました。



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左から、講義風景、小グループでの討論風景、集合写真


WPI としてグローバルに活動を展開するIFReCにおいても、講師や参加者が世界中から集うウィンタースクールは目玉イベントの一つで、準備から開催まで丸一年かかるという意味でも大がかりなもの。その企画・実施全体を支えているのは、IFReC企画室に所属するURAや事務職員です。主担当者であるURAの高木昭彦特任准教授は、日本で研究拠点の国際化を推進する上で、外国人研究者にとっての「日本での生活」が壁になっている側面が強いと感じており、本プログラムを、まずは若手外国人研究者に来日してもらい、日本がどのようなところなのか肌で感じる機会にしたいと語りました。講師の研究者が担保する科学的内容面での満足度に加えて、URAや事務職員は、自身の海外での研究経験や語学力を活かしながら、5日間の合宿における食事、宿泊、交流という滞在面での満足度を高めることに努めているそうです。



NIFウィンタースクールで築かれた優秀な若手免疫学研究者ネットワークが、未来の日本の、また世界の免疫学を動かす原動力の一つとなることが期待されます。



(川人よし恵/大阪大学 大型教育研究プロジェクト支援室 URAチーム)





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【3】テニュアトラック制度を定着させるための未来志向型設計
~大阪大学工学研究科「グローバル若手研究者フロンティア研究拠点」の事例から
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本学は「大阪大学未来戦略 2012-2015」において、大学全体が取り組むべき戦略的課題の一つとして若手研究者の育成を取り上げ、テニュアトラック制度の充実等の柔軟な人事制度の構築による優秀な若手教員の確保を目指しています。また、本学はテニュアトラック制度の導入に早くから取り組み、科学技術振興調整費「若手研究者の自立的研究環境整備促進」事業に、「グローバル若手研究者フロンティア研究拠点(2006年度)」、「生命科学研究独立アプレンティスプログラム(2008年度)」が採択されました。さらに、2011年度からは科学技術人材育成費補助金「テニュアトラック普及・定着事業」に採択されるなど、本部に設置された「若手研究者育成ステーション」を中心として、テニュアトラック制度の普及を全学的に推進しています。
テニュアトラック制とは?(科学技術人材育成費補助金「テニュアトラック普及・定着事業」ウェブサイト)



今回は、大阪大学工学研究科附属フロンティア研究センターが支援するテニュアトラック制度、「グローバル若手研究者フロンティア研究拠点」の事業を紹介します。



フロンティア研究センターの前身であるフロンティア研究機構は、2001年、文部科学省科学技術振興調整費 戦略的研究拠点育成プログラムにおいて、本学工学研究科の「フロンティア研究拠点構想」が採択されたことを機に、大学組織改革をミッションとして設立されました。5年間を通じて、当機構が中心となり、マッチングファンド方式の企業提案研究や、ベンチャー起業を目指すビジネススタートアッププロジェクト等の推進、研究科の意思決定システムの改革、大専攻制導入、教職員や学生の意識改革等、様々な取り組みが推進されました。



科学技術振興調整費充当期間終了後、現フロンティア研究センターが後継組織として設立された2006年、当センターは、機構から引き継いだ事業に加えて、工学研究科のテニュアトラック制度「グローバル若手研究者フロンティア研究拠点」の機能も担うことになり、今に至ります。
◇大阪大学工学研究科附属フロンティア研究センターウェブサイトはこちら



グローバル若手研究者フロンティア研究拠点では、毎年1回、その年に中間評価されるテニュアトラック教員を中心に全員参加で開催する国際シンポジウムの他、年に数回の懇親会等、分野を超えて若手教員が交われる機会を積極的に作っています。実際にテニュアトラック教員同士の共同研究も生まれているとのこと。10専攻・500名近い教員が所属し、本学でも随一の規模を誇る工学研究科にあって、こうした交流の場は貴重な機会だと言えるでしょう。



そして忘れてはならないのが、テニュアトラック制度を支える"人"の存在です。学内外の有識者等からなるグローバル若手研究者フロンティア研究拠点運営委員会が、若手教員の採用面接や中間評価準備等で、厳しくも愛のある指導を行う他、フロンティア研究センターの専従教職員が当拠点事業運営の実務面を担いながら、交流の場創出や若手教員の個別相談対応等のバックアップを行っています。



工学研究科のテニュアトラック制度は、文部科学省からの支援が終了しても、研究科の採用システムとして定着することをめざし、2008年度以降は、毎年5名程度の若手教員を、自主経費で雇用しています。5年間のテニュアトラック期間を終了した若手教員はこれまでに15名、終了後の審査を経て、大半は本学工学研究科のテニュアポスト(准教授・講師)を獲得しています。



テニュアトラック教員に支給する研究費をインセンティブとして制度を運用する必要がなくなった時が、本当の採用システムの改革達成の時だと、フロンティア研究センターの高橋亮一特任教授は語りました。高橋特任教授には、10年後・20年後に、教授となったテニュアトラック出身教員たちが連携して工学研究科をひっぱっている未来が見えているのかもしれません。本学のテニュアトラック制度の先行事例としての工学研究科の取り組みは、これからも続きます。


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工学研究科附属フロンティア研究センターで「グローバル若手研究者フロンティア研究拠点」事業を担当する、高橋亮一特任教授と3名の女性スタッフ。背景には賞状等、当センターが支援する若手教員や学生たちの数々の活躍の証が。


(川人よし恵/大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチーム)



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【4】エッセイ「大学に於ける研究活動と大学院教育」第3回
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大阪大学 大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチームのシニアURA、高尾正敏による連続シリーズエッセイの第3回。今回は博士課程教育を考えます。


          *    *    *    *    *

前回からの続き)URA(大学におけるリサーチアドミニストレ-ター)の一般的な活動目標にはあまり教育というキーワードがないのに、敢えてなぜこの話題を取り上げたかというと、アクティブで、新鮮な研究活動を支えるのは、博士課程の学生と博士課程修了者(ポスドク)であるというのが事実だからです。筆者が学生だったころは、助手と助教授層がその任にありました。その後大学院が拡充されて、競争力維持のため研究のスピード化が要請され、さらに大学に個人研究のほかプロジェクト型の研究が入りこんできて、全ての教員にプレーイングマネージャの任務が付加されてきたからです。そこで、見習い研究者としての博士課程学生が研究力として組み入れられ、彼らのアクティビティが研究活動の帰趨を決めるまでになっています。博士課程の制度設計は、大学および国家の、研究の国際競争力を決めるということになります。URAは研究支援をその第一の任としますが、博士課程教育が研究活動の先端性の確保に大きく影響することを鑑みて、教育システムに対して応分の見識を持つ必要があるということです。

残念ながら、大学の教育組織のみならず、行政も、その入れ子である大学事務・管理部門も、一昔前の縦割りの儘で大学院を重視しない体制を抜本的変革してきていません。主要大学では、大学の都合による大学院重点化が実施されました。しかし、博士課程の制度設計に研究をどう取り込むかについての統一理念が見えません。その一方で、様々な理念?のもとで国の施策群が発せられますが、研究の本質・教育の本質を見通し、人材育成のあるべき姿に基づく制度設計と実施策になっていないように思います。大学院制度改革の失敗(筆者はそう思っています)から目をそらして、毎年制度施策が猫の目のように変更になるという学生たちに取っては甚だ迷惑なことになってしまっています。一過性の施策にならないように、社会的に教育理念の理解が得られるような努力が必要です。そのためには理念は簡明・スマートあることが第一義です。関連して、最近施策的に発せられている研究科、専攻の「ミッション再定義」は、研究内容・体制、および大学院制度の「あるべき姿」、「ありたい姿」と無縁のところでなされることがあってはいけません。



筆者は、10年以上も前から、「研究と教育を分けるべし」という分離論者です。すくなくとも、修士課程と博士学位修得コース(いわゆるPh.D.コース)のミッションをそれぞれ厳密に定義することが必要だということです、修士の基本は学修中心コース、博士課程は関連専門分野でリーダーとなるべき研究中心コースであると言い換えてもよいことになります。 研究テーマが複雑になり、全ての研究者がグローバル競争可能な研究テーマを持って活動できることは不可能であるという認識を筆者は持っています。当然研究を通じての教育も同じ状況にあると思っています。研究大学を目指すのであれば、競争優位な地位を獲得するために、研究リソースを集中した体制を構築しなければなりません。一方で、学生が、十分な知識基盤を学ばないで、いきなり最先端の研究(リサーチワーク)に携わることは、カッコ良さはあるものの、大学での学修が中途半端なまま社会へ出てしまうのではないかという危惧をもっていました。筆者が企業での経験で実際そういう状況を経験していました。基礎学力の無さが最近顕在化して重大問題化しているというのが、筆者を含め大方の見方です。



カリキュラム的にも、特に理工系では、筆者の学生時代に比べると、学生さんが履修すべき内容は、この間の学術の発展に比例して格段に増加しています。増加分をすべて学生さんが理解していくことは不可能になっています。同時代を企業で過ごしてきた筆者でも、時系列的について行くのは不可能でした。増加分の体系化(ディシプリン化)が不十分の状況で、学修すべきカリキュラムが増加していくと、学生さんは大学で学ぶことを永久に続けて、卒業できくななるという笑い話ですまされないことにも成りかねません。そういうことなっては困りますので、コースワークのカリキュラムを学生が本当に学ばなければならないもの中心になるように、抜本的に見直さなければならないのですが、見直さないまま推移すると、学生さんは中途半端な学修のまま卒業していくことになります。



大学教員がリサーチワーク重視しておられる根拠にひとつに、「フンボルトの理念」の視点で、修士課程の学生に研究を通じて教育できるとはずだということがあるようです。学生もそのように教育されています。しかし、大学教員はある意味無責任で、学生が大学院を修了してしまうとアフターケアをする必要がありません。「フンボルトの理念」が結実して、卒業生が広く社会で活躍しているかどうかを検証することはできていません。その昔、筆者自身企業に在籍していましたが、その時、同僚、そして会社も、入社後は大学のアフターケアを期待していませんでした。それは、当時は大学進学率が20%以下であったために、それなりに選別がなされており、大学も、企業も暗黙の「質保証」があると認識していたからです。ところが、最近では、進学率が50%を超え(ユニバーサル)、選抜が緩くなった状況で、暗黙さは否定され、大学に「質保証」即ち「製造物責任?と見極め責任」が生じてしまいました。ほとんどの教員は本音では面倒くさい見極め責任は取りたくないと思っておられるはずです。本来は卒業生を引き取るセクターでの感覚を大切にする必要があり、そのためには大学と引き取り先の間で、コミュニケーションが必須です。



昭和の高度成長時代には、企業はとにかく大学から人が来てくれれば満足でした。大学から見ても学生が卒業してしまえば「後は知らない」というのが、本音だったと思います。在学中の辻褄があっていればそれでよいのです。ところがバブル崩壊後、平成時代では、学生の「質保証」するのが大学の責任であるという声が大きくなってきました。その辺りが先述の経済団体からの要望の根幹にあるのです。大学側では、「質保証」といわれてもどうすればよいかわからないというのが本当のところだと思います。結果として、大学は学生の「質保証」は、最先端の学問を経験させることだと勝手に解釈して、リサーチワークを強化したのではないでしょうか。学生もリサーチワークの格好良さが、自分自信をトレーニングしていると信じています。その判断は、学生の基礎学力があってはじめて成立することです。



筆者の企業在籍時代の経験として、学生時代(昔は学士課程、最近は修士課程)の一過性の成功体験があるために、却って企業内進化せず人生を棒に振ったひと達を少なからず見てきました。筆者の在籍した企業以外でも同様だと思います。大学時代の成功体験は、入社間もなくは時代の先端を行くので「ちやほや」されますが、大学での経験の余韻が継続するのは高々5年です。企業人生30数年間、研究者・技術者あるいは技術マネージャーとして生活していくため、即ち「使い捨てにならない」ためには、基礎学力があることが必要条件です。定年まで全うしたいと思うなら尚更です。基礎学力が様々な環境変化に対応できるロバスト性を担保できます。少なくとも修士課程までは基礎学力を保証できる基本コースワークを充実したカリキュラムとすべきだと考えます。コースワークとリサーチワークの比率は、輩出させたい学生のあるべき姿との関連で調整されるべきです。学生の学力のあるべき姿は、今となっては、大学が勝手に決めてしまうことはできなくなっていると認識すべきで、社会的合意が必要です。基礎学力がないまま大学院をでると、専門家としての持続性・長持ち性を放棄していることになります。



筆者は、上に述べた理由から、修士課程でのリサーチワークの成功体験が企業では、プラスには働かない場合が多いと思っています。今後、基礎学力がない社員は、益々厳しくなる国際競争のなかで、落伍せざるを得ません。セーフティネットすら用意されない可能性もあります。



では、博士課程の学生はどうあるべきかと言えば。今後、大学の重要な経営方針のひとつとして、上記の少数人材として期待されて、産学官で活躍するリーダーの卵として、良くトレーニングされ、「質保証」された5年制博士課程修了者を養成し、産官学連携強化のためにも、アカデミア以外のセクターに供給していくことです。理系・文系を問わず修士課程と切り離され、リーダー(の卵)として学生を処遇・トレーニングする博士課程が、研究を通じて教育するという「フンボルト理念」を実践制度として再構築されるべきです。修士課程だけでは、この理念達成は不可能です。特に、企業ではアカデミアと互角に先端研究に従事できるひとはごく少数ですのでそのための人材を供給するのが博士課程です。



上記が筆者の描いている研究大学における教育システムのあるべき姿であります。例として、学士課程と大学院の接続に関するシナリオを図にしたものを示しておきます。感覚的に理解していただけると思いますので、詳細は割愛します。文科省が推進している博士課程教育リーディング大学院プログラムは、筆者の考えに近い形になっていると思います。実際筆者は前職場で文科省へのプログラム応募について、質保証の仕組みを含むコンセプトづくりから始めて、調書の作成と、採択後の立ち上げを担当の先生方と一緒にさせていただきました。リーディング大学院の成果として、質保証された博士人材が社会の至る所で活躍しているのを期待しています。
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ここまで、博士課程の再構築を検討しましたが、ここからはグローバルな競争下での研究大学としてトップグループに入って存在し、特にグローバルに戦える博士人材の養成を行うかについての持論と例示提案をします。グローバルにトップグループに入るためには、何よりも現在競争優位なテーマを持っている活動している教員・研究者には心置きなくその任務を果たしてもらうことです。そのための一見特権的な研究開発職場環境を用意することが無ければなりません。勿論、未来永劫つづく特権ではなく、ある一定期間、大学内競争環境のなかで、大学の経営陣ほか大多数の構成員の納得できるものでなければなりません。例えば、研究開発リソースを彼・彼女に選別・集中することが必要ですし、学士課程、修士課程での教員(彼・彼女)の教育デューティの免除なども取り入れることです。その教員・研究者のもとには砂糖の山に蟻があつまるように、優秀な博士課程の学生が集まるように設計すべきです。そこでは自律的に大学としての後継者・あるいは社会を牽引するリーダーが育つことになります。



では、直近にグローバル優位なテーマを不幸にして持ち合わせていない教員・研究者はどうすればよいか? 大学は彼らに、優位なテーマを探索実行して貰うことを最優先とし、競争的且つ、徹底的にリソース配分し、その努力を支援する。あるいは優秀な博士課程学生・ポスドクを付けるなどの施策が考えらえます。それでもなおグローバル競争に参加できない、または参加できそうにない教員・研究者をどうするかについては、残念ながら博士課程の学生を配当・指導しないなどの、措置が必要です。それは、少なくとも博士課程の学生がグローバル競争に参加した経験がないと、将来役に立たなくなってしまう可能性があるからです。あくまで「教育的見地」からの考え方です。 厳しいですが、大学にはそれくらいの責任があります。



博士課程の学生を配当されない教員・研究者は地道に研究テーマの発掘に努めてもらうことで、捲土重来を図っていただきたいと思います。また、別のルートとして、グローバル競争に直接参加しなくても、世の中に夢を与え、あるいは現実生活に役に立つ、立そうな研究開発テーマは山ほどありますので、そういうローカル・ドメスティックな研究テーマに従事してもらうこともありえます。そこで鋭気を養ってもらって、グローバル競争への参入を狙っていただくこともよいと思います。(第4回 最終回 へつづく)



(高尾正敏/大阪大学 大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチーム)




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【5】URA関係イベント情報
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今月は、大阪大学 大型教育研究プロジェクト支援室等のURAが関わっているイベントを紹介します。

第5回科学技術政策セミナー
本学の吉澤剛准教授(医学系研究科)と政策研究大学院大学の有本建男教授が、政策の立案・決定および大学の役割等に関して講演します。
2014年1月29日(水)15:30-17:30、大阪大学吹田キャンパス
事前申込不要



公開シンポジウム「免疫研究が拓く未来医療」
FIRST審良プロジェクトの4年余に渡る研究成果の中から、特に次世代への革新的な治療へ繋がる萌芽としての成果を紹介するとともに中外製薬株式会社から抗体医薬の実用化例や創薬開発の今後の展望について講演します。
2014年2月1日 (土) 13:00-16:00、日本科学未来館
一般市民及び医療従事者等の方が対象
参加費無料、事前参加登録が必要



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【6】大阪大学ホットトピック
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平野俊夫総長 2014年新年のあいさつ


理学研究科・小林研介教授が第10回日本学士院学術奨励賞を受賞


大阪大学の研究ポータルサイトResOU(リソウ)を開設しました


大阪大学未来戦略機構シンポジウム「Opt Osaka 2014 in Tokyo-大阪大学の光科学100-」2014年3月6日


●最新の研究の成果リリース
世界初! p型およびn型半導体ナノ粒子からなる金属酸化物メソ結晶の合成に成功―光触媒や太陽電池など高効率なエネルギー変換デバイスへの応用に期待 2014年1月22日(水)
アルマ望遠鏡が見つけた巨大惑星系形成の現場―宇宙における惑星系の多様性の起源に迫る 2014年1月17日(金)
金ナノ粒子の光散乱効果が飽和することを発見―超高解像度のレーザー顕微鏡の開発に応用 2014年1月9日(木)
世界初!金属板だけで光の偏光を自在に制御―テラヘルツ光による物質分析や非破壊検査装置の高性能化に期待 2013年12月26日(木)



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【7】次号予告(予告なく変更する可能性があります)
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「URAって、何してくれるの?」と思われている方、まだまだたくさんいらっしゃいます。日ごろの説明不足を少しでも補うべく、強みの分析や国際共同研究プロジェクト立ち上げ支援、アウトリーチ活動支援など、大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチームの実績を例に、URA活用法の一例をご紹介します。



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【企画・編集・配信】
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大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチーム(川人・岩崎)
◎配信停止やご意見・ご感想はこちらまで
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〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-1 大阪大学産連本部B棟(2階)
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2017年4月 5日(水) 更新(担当:URA 川人 )