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URA MAIL MAGAZINE

URA MAIL MAGAZINE vol.49

「よくよく考えると問いが生じる、3つの言葉」特集

2017年10月 発行

「メトリクス(測定すること)」や「研究の国際化」、「研究広報」は、いずれも大学界隈でよく使われる言葉であり、研究力強化のため、関連した業務に重点が置かれている大学が多いのではないでしょうか。

しかしそれらの意味するところを十分理解したり、関係者で共有することなく、言葉が独り歩きしている可能性も少なくないように感じられます。

今月号は、大阪大学URAによる学外のセミナーでの講演等から、これら3つの言葉について改めて考えます。

■INDEX
  1. 研究戦略を前進させるためのメトリクスとは
    -組織の中で誰がどのように指標と向き合うべきか-
  2. URAが「研究の国際化」に寄与するには、業務全体をどのようなフレームで捉えるべきか
  3. キャリア形成や情報社会の進展からひもとく「研究者の個人サイト」
  4. 広島大学ライティングセンター主催シンポジウム「研究者に対する英語アカデミックライティング支援―組織的運営の視点から―」(11月18日)
  5. 二頁だけの読書会vol.10(大阪大学・筑波大学コラボによる特別編)を東京にて開催します(12月8日)
  6. 大阪大学ホットトピック

    ○斯波義信名誉教授、松原謙一名誉教授が文化勲章を受章、村井眞二名誉教授、坂口志文特任教授(常勤)が文化功労者に!

    ○大阪大学ニューズレター2017秋号を発行しました

    ●「大阪大学の集い in 東京」 今年は"ライブ"♫♫(12月2日)

    ●第58回まちかね祭「阪大を、旅しよう」を開催します(11/3-5)

    ○ロイター社「イノベーティブな大学ランキング」で、阪大は世界第34位、国内第2位

    ○第19回大阪大学-上海交通大学学術交流セミナーを開催

    ○「大阪大学感謝の集い」を開催

    ○2017年度大阪大学北米同窓会講演会および年次総会が開催されました

    ○最新の研究の成果リリース
  7. 次号のお知らせ

【1】研究戦略を前進させるためのメトリクスとは-組織の中で誰がどのように指標と向き合うべきか-

(阪 彩香/大阪大学 経営企画オフィス URA部門)
RA協議会第3回年次大会特別企画講演としての企画主旨

2017年8月29日(火)~8月30日(水)にかけて、リサーチ・アドミニストレーター協議会(RA協議会)第3回年次大会が徳島県のあわぎんホールにて開催されました。

筆者は今回、RA協議会より依頼を受けて、特別企画講演の企画・運営・講演を行いました。この特別企画講演を依頼されるにあたり、「俯瞰的な視点を入れ、RA協議会メンバーが今知っておくと良いこと、考えておくべきこと」というところで設定できないかというお話があり、筆者のバックグラウンドや経験から、「研究戦略を前進させるためのメトリクスとは」というテーマで企画案を作成しました。また、現在筆者は大阪大学北米拠点にて業務を行っているため、RA協議会年次大会においての初の試みとして、スカイプを用いてサンフランシスコと徳島の会場をつなぎ、特別企画講演をオーガナイズし、講演を行うということを提案しました。

メトリクスとは、測定すること、測ることと訳すことができますが、動作の流れも考慮すると「何のために、何を、どのように、測り、表すか」という意味を持っていると筆者は捉えています。今改めてそのメトリクスの活用についてテーマに据えたのは、筆者もURAとして大学の中に身をおくようになって、日本の大学は、大学ランキングにみられるような大学外部からのメトリクスにより可視化される機会が本当に多いということを今まで以上に痛感しているためです。加えて、特に日本の国立大学においては、大学運営から大学経営への変革が今まで以上に社会から求められており、大学は外部からの可視化、そして外部に対しての説明というところでメトリクスと向き合う場面が急速に増加していると感じています。しかしながら、本当に大事なのは、外からの目に対応することではなく、 大学内部、組織体内部においてメトリクスを十分活用することではないのか、その結果として、外部からの可視化の結果が変わり、外部に対しての説明が変わっていくという流れが本来あるべきところだと考えています。「URAはどのようにメトリクスに向き合い、研究戦略を前進させていけば良いか」の議論を成熟させることなく、メトリクスの活用に踏み切らざるを得ない状況となっているのではないかと懸念しており、今一度立ち止まり、考えてみたかったのです。


様々な分析結果に基づくメトリクスの思考プロセス紹介と
大学におけるメトリクスとの向き合い方の考察からメトリクスを捉え直す

そこで、まず講演の前半では、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)科学技術・学術基盤調査研究室の伊神正貫室長に、実際の様々な分析結果を用いて、メトリクスから何を読み取り、そこから実行(Do)や改善(Action)といった実際の活動につなげる際に見るべき視点を、どのように抽出するかという思考プロセスについて講演していただきました。日頃多くの方は分析結果のみを見るという機会が多いと思いますので、「日本の科学研究の状況」、「機関レベルの状況把握」、「大学内部組織レベル分析」 、「研究開発費や研究者の状況」、「プロセスの理解に向けて」、の5項目について、それぞれの分析意図、分析アプローチ、分析結果、考察について順を追って紹介していただくことで、メトリクスの利点である「考える機会がもたらされる」ということに共感いただけたのではないかと思います。

これに対し、講演後半では筆者から、大学でメトリクスにどのように向き合うか、大学で本当に必要なメトリクスとは何かについての考察を提示しました。メトリクスにどのように向き合うかでは、研究IRを行うURAが一人頑張って分析をしてもなにも進まず、URAと大学執行部などが、メトリクスによって見えるものを基に、お互いの認識や疑問点を共有する努力が必要であること、そして、同じものを見ていても、立場により感じ方が異なることを配慮することで、コミュニケーションも円滑になることをポイントとして挙げました。また筆者は、本当に必要なメトリクスとは、期待値なのか達成目標値なのかを明確に共有し、周りの状況も踏まえて実現性を第1にするべきであると考えています。したがって、数値目標として上昇する値のみでなく、維持や一時下降についてもあり得るという認識を持つべきだと主張しました。


参加者の反応や手応え

参加者の方からは、前半の中身がぎっしり詰まった調査報告のポイントを押さえた話と、それをどう受け止めて活用していくかという後半の話の組み合わせにより、とても聞き応えがあったとの嬉しいご意見をいただきました。また、アメリカとつないで、という運営スタイル自体も、世界中から先端的な知恵を取り入れるという点で先進的で、こういうスタイルの会議運営にも、徐々に慣れていく必要があるとひしひしと感じたとのコメントが寄せられました。

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会場風景

今回のスカイプでつなげて行った講演は、テクニカルなところでの問題は全く発生せず進めることができました。これは事前調整を綿密に行い、運営してくださった方々のお陰であり、感謝しております。また、今回、自分自身の考えを改めて整理し、まとめあげる時間が持てたことに、機会をくださった依頼主にも感謝しております。

なお、本講演の資料については、下記サイトにて全て公開をしているので、ご覧いただければ幸いです。
http://www.rman.jp/meetings2017/doc.html


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【2】URAが「研究の国際化」に寄与するには、業務全体をどのようなフレームで捉えるべきか

(望月麻友美/大阪大学 経営企画オフィス URA部門)

8月末に徳島で開催されたリサーチ・アドミニストレーター(RA)協議会第3回年次大会にて、国際セッション「研究の国際展開と学内環境 -大学のグローバル化の中のURAの役割-」を、筆者、東京大学の西村薫URA、広島大学の礒部靖博URAの三者でオーガナイズしました。本稿ではセッションの様子とそこで筆者が得た気づきを報告します。


セッションの背景:研究の国際化のための学内基盤整備に関する問題意識

近年、機関としての研究力を高める目的で、海外の研究機関との連携や、研究者の送り出し・受け入れ等の「国際化」が推進され、それに伴い多くの学内対応業務が発生しています。URAは、研究者や他部署と連携しながらそれら個別案件への対応や学内の環境整備に携わっています。URAの導入により基盤整備は進んでいるものの、まだまだ対応しきれないほどの業務や解決しにくい課題があるように思います。この状況を改善するために、目の前にある業務や課題を一つ一つブレイクダウンして解決を目指すことはもちろん必要です。その一方で、リソースが限られる中でURA全体がこれまで国際化に向けて何をしてきたのかできる限り棚卸し、一度現状を見渡すことで、自分たちの業務を別の視点から捉え直し、これから何をすべきかを改めて考えるきっかけを持ちたいと考えました。


それぞれの階層におけるURAの活動と課題を俯瞰

セッションでは、まずオーガナイザーが「研究の国際化」に向けて発生しているURA業務を図1のようにまとめ、参加者とともに実際の活動を俯瞰的に見ていきました。外国人研究者受け入れ等に係る実務対応、効率化を目指した仕組み作り、海外資金対応、国際連携の助成金獲得支援、海外拠点運営、共同研究の立ち上げ支援といった、目的・対象・内容の幅が広い、実に多様な役割をURAが担っていることがわかります。さらに、角度を変えて見てみると、上記のような活動が全学、部局、プロジェクト、研究者と様々な階層に分かれて展開されており、URAはすべての階層で業務を担っていることもわかります(図2)。

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図1
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図2

こうした状況を踏まえ、研究の国際化を先進的にすすめるURAは実際どのように考えて業務に携わり、課題はどこにあるか等について、それぞれの階層にいるパネリスト(図2)からお話をいただきました。ここでは各パネリストのお話と議論の一部をご紹介します。


西村薫さん(東京大学 医科学研究所 国際学術連携室 学術支援専門職員(URA))
国際展開に向けた部局支援:分野によって研究の国際化に何が必要かは異なると思います。 東大の場合は、東京大学ビジョンをはじめとする、大学全体の大枠のもと、より具体的な国際戦略は、URAがどの程度国際業務を担当するかどうかも含め、各部局に任せられています。私はその戦略や研究者のニーズに対応して国際交流、共同研究の立ち上げや書類対応などを行なっています。URAは部局内国際チームと教員のつなぎ手として機能していると思います。課題はスタッフ全体の国際関連業務対応スキルの底上げと国際広報や海外の法律関係等の専門知識で、本部の国際関連部署や他大学との協力関係も築きたいと思っています。

高木昭彦さん(大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 企画室 特任准教授) 
部局の先進的な対応を全学に行き渡る環境基盤へ:海外研究者が約30%いる環境です。日本人研究者に必要なことは外国人研究者にも必要であり、国際的研究機関として研究者に必要なことを一様に提供することが、私たちにとっての国際業務の基盤であると考えています。全学展開したものは、例えば部局内で実施していた外国人研究者向け科研費説明会や法令で研究実施に必要とされる教育訓練等です。科研費説明会は全学組織に引き継がれ、現在は全学の教職員に提供されています。一方で、部局内で翻訳・作成した英文資料が多く蓄積されていますが、全学的な活用のためには、大学としての責任、承認プロセスなどに課題が残っています。

大澤由実さん(京都大学 学術研究支援室 特定専門業務職員(URA))
海外拠点運営と学内連携:京都大学のURA国際グループは国際共同研究の推進などのミッションがあります。そのミッションを遂行するためのツールの1つとして、全学の海外拠点の運営・活用があります。特に、タイにあるASEAN拠点に駐在をしながら国際共同プロジェクトの創発支援などに携わっています。現場の研究を肌で実感できるのが強みです。学内連携だけでなく、同窓会、ファンディングエージェンシー、他大学等とのネットワークを活用して動向調査や本学と現地関係者をつなぐ役割などを果たしています。

三代川典史さん(広島大学 研究企画室 シニアURA)
大学全体を見ながらの研究の国際化:全学に向けた国際研究活動の活性化を行う中、広島大学での課題は、言語や文化の壁を克服することに加え、学内の他の事務部署や部局との連携を機能させることにあります。「国際化」を、「目的」ではなく大学のミッション達成への「手段」と捉えて、いかに学内、学外、海外に連携を深化させ、「国際化」の横串としての機能を推進させていくかが大事になると考えています。また、国際化関連の多様な業務のどれがURAとして担当すべきところなのか、を考えながら試行錯誤している段階です。さらに、執行部とURAのすり合わせ(意識合わせや相互理解)も大事な業務のプロセスだと考えています。


セッションでは、「研究の国際化」とはどのような状態かという問いに対し、いくつかの指摘がありました。「研究の国際化」とは、「魅力ある研究が展開されていて、それを国際的に推進していける状態」、それは「単純な英語化」ではなく例えば「外国人研究者が日本人研究者と同じ条件で研究ができる環境」であろうという意見が複数あがりました。また、参加者アンケートでは、「国境を越えた研究(共有課題に対しての研究、研究成果のグローバルインパクト)が遂行できる状態」という指摘もありました。さらに上記のような状態を整備する私達URAを含めた実務者には「英語は前提であり、その先にある実務対応能力」が求められていることを共有しました。今回は残念ながら議論を深める時間を取ることができませんでしたが、筆者はこの議論の継続を希望しています。


URAの活動を俯瞰しての気づき

セッション参加者のおそらく誰もが、「研究の国際化」に関する業務は種類が多く、かつ新たな業務や課題が際限なく発生しうるという感覚を持っていたように思います。セッションではその状況を可視化し、課題をある程度明らかしたことで、様々な階層で多様な業務を担うURAの実態を確認することができました。またセッションを企画し、パネリストや参加者と意見交換をしてみると、「研究の国際化」に関してURAが担いうる業務が大体一通り実施されてきたこと、そして私達関与者が業務を寄せ集めたことにより全体像(フレーム)を感覚的につかめるようになってきたことを感じました。筆者は、それぞれの業務の解決・改善を図るのに加え、各々の機関の目指す「研究の国際化」、方向や規模に合わせて、URAの業務の全体像をリフレームすることを提案したいと思います。独自のフレームを検討する過程が業務整理や新たなニーズへの対応検討、今後の業務計画立案につながり、個々の業務やそもそもの部分、学内連携の深化につながるように思います。その一歩としてこのセッションで共有したパネリストの先進的な事例が業務のヒントに、議論が方向性の確認の機会になっていたのであればうれしいです。

今後も、セッションをオーガナイズした三者は、この整理作業を継続していきます。また、関連業務に携わるURAだけでなく、事務系スタッフや研究者とも情報交換や議論を継続していきたいと考えています。

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【3】キャリア形成や情報社会の進展からひもとく「研究者の個人サイト」

(岩崎琢哉/大阪大学経営企画オフィス URA部門)

さる6月20日に京阪神次世代グローバル研究リーダー育成コンソーシアム(K-CONNEX)が実施した広報セミナー「はじめての研究広報~研究活動に役立つ基礎知識~」において,大阪大学経営企画オフィスURAの岩崎(私)が,「ウェブサイトの作り方~ゼロから始める個人サイト」と題して講演を行いました.以下にその概要をお伝えします.

K-CONNEX とは京都大学・神戸大学・大阪大学の三大学が,関西圏の産業界や研究機関と協働し,若手研究者の育成ならびにキャリアアップを図る共同事業体です.今回の広報セミナーはK-CONNEXに所属する若手研究者に向けて企画されており,研究者が個人の立場から研究情報を発信する際にどのような目的・目標の設定を行いうるのか,またどのような手段でこれを実行できるのかについての基礎知識の共有を目的としています.これを受け私の講演では,数ページで構成された小規模な個人サイトの開設を想定し,これに活用できる情報を提供しました.

個人サイトを運用する目的・動機は人それぞれですが,すでに個人サイトを運営している研究者がやろうとすることは,経験を踏まえた分,はじめての人に比べて一歩も二歩も踏み込んだものになっています.ウェブサイトの新規開設に際して要件定義,つまり初期条件の確認と「誰に向けて何のために」を熟慮しましょうという助言は教科書的には正しいのですが,まだ始めていない人が想像できる範囲には限界があります.やってみないと分からないことも多いのですから,考え込まずにまず作ってしまうのも悪くはないでしょう.実際,低廉に利用できるサービスやオープンソースのソフトウェアなどを組み合わせることで,1時間もあれば個人サイトの基盤は出来てしまいます.今回のセミナーでは,要件定義の重要性には触れましたが,作ってから考えるのもまた良しとする立場で講演を行っています.

セミナーで紹介した,1時間で作れる半完成のウェブサイトとは,このサイトです.私はこれを「スタートサイト」と呼んでいます.スタートサイトには,公開されている面(おもて面)と対になる管理画面(裏面)が存在します.管理画面では,おもて面に並ぶ様々な要素を変更・削除・追加できます.

例えば,おもて面右上のメニュー(グローバルナビゲーション)にhome, What's New, Eventsといった7項目が並んでいます.初期状態では,Research Activitiesに社会貢献, Publicationsに論文, Eventsに学会等の活動を収める想定ですが,Research Activities を Activities に名称変更して社会貢献と学会活動を収め,Eventsメニューを廃止しても良いでしょう.あるいはPublications だけを残して他はカットする考えもあります.こうした改変は管理画面上で,1分もあれば完了しますし,元に戻すのも簡単です.実際に自分の情報を格納しながらメニューの区分をあれこれ変えてみることで,異なる見え方・印象につながることが実感できるはずです.「誰に向けて何のために」についての考察が,自分のこととして深まるのではないでしょうか.

コンテンツの階層構造も悩むところです.スタートサイトでは Research を開くと目次ページが現れ,もう一段深い階層に3ページが並びます.個々の研究テーマがどれだけ増えても耐えられる構造ですが,Research →目次→各ページという遷移はややまどろっこしいとも言えます.目次ページに変えてその時の主たる研究をひとつだけ提示して,Research →主力研究に作り変えることもできます.経歴を量で見せたいのか,あるいは今やっていることが最重要なのか,これも見え方を通して判断がつくでしょう.

ほかにも,変更・削除・追加可能な部分は多岐に及びます.一部を示します.
●トップページに写真やイラストを設置するかどうか.画像の差し替えやスライドショウ化
●研究(1)(2)とある部分のオンオフや追加.
●お知らせ機能のオンオフ.
●右そでに並ぶ項目それぞれのオンオフ,順序の入れ替え.

セミナーでは,このスタートサイト(ほぼ同じもの)を,レンタルサーバ上に構築する具体的な手順を紹介しました.時間の都合で授業形式のセミナーとしましたが,仮にハンズオン形式のセミナーをやるとしたら,インターネット接続環境が整った図書館のコモンズのような場所にノートパソコンを持参していただければ,正味1時間程度の作業でゴールできるだろうと考えています.

以上,今回のセミナーでは「ためしにやってみるだけだったら,そのハードルは,おそらくみなさんが考えているほど高くありません」と伝えたつもりです.講義に用いた資料やムービーはこちら(http://iwskd.com/doc/20170620kconnexcjzmns228/index.html)にあります.ご関心がありましたらご覧ください.意見や助言などをいただけると幸いです.



時間の制約から今回のセミナーでは一部を伝えるにとどまりましたが,次の点も話題になりました.補足としてお伝えします.

1. 大阪大学は研究支援の一環として「若手教員等ホームページ作成支援」を行っており,これをサポートしている経営企画オフィスには,個人サイトの開設・運営・更新に関する経験が徐々に蓄積している.今までのところ,はじめて個人サイトを開設する研究者からの相談は,論文や社会活動といった実績の見せ方の部分に集中している.具体的には,論文と社会貢献等の活動を1ページにまとめるか別のページに分けるか,論文一覧や研究内容を誰に向けてどのように見せるか,学術の用途に耐えるイラスト・グラフィック等の制作者をどこでどうやって探すか,日本語と英語をどのように書き分けるかといった点がしばしば問われる質問である.

2. 執筆論文のリストや経歴は所属機関の研究者総覧や国立情報学研究所の researchmap(http://researchmap.jp/)を使って公開できる.私見だが,正確な情報提供(だけ)を目的にするのであれば,あえて個人サイトを設置する必要性はさほど高くない.一方,上記の「若手教員等ホームページ作成支援」制度を利用して個人サイトを設置すべく行動する人には,研究者総覧等のフォーマットでは対応しきれない動機を持っていることがしばしばある.以下,一部の実例を示す.

  • テニュアトラックの審査段階に来ている.審査委員のひとり(米国の研究者)から「君はなぜ(自立した研究者なのに)自分のウェブサイトを持っていないのか?」と質問された.持っていて当たり前という勢いだったので焦った.
  • 私はこの×××という(自分で命名した)新しい研究分野を広く世に問いつつ仲間を増やす!
  • 自信の持てる研究成果が出てきたし,JSTの×××に採択された.今がチャンスだから,研究内容と成果をしっかり説明する.
  • いずれ自分の研究室を運営する.まずは個人サイトで練習しながらノウハウを蓄積する.
  • 自分の研究コミュニティに向けて,解析用の×××というオープンソースのソフトウェアを提供している.使い勝手の良いダウンロードサイトを設置して,コミュニティに貢献したい.
  • ×××に関するパラメータのデータベースを公開している(※同業者の中ではかなり有名).これを Wiki 形式に改めたい.
  • 科研の成果公開目的で設置したサイトがあるが,制作業者に任せたために思い通りに内容を更新できない.方法が分からないし,割ける予算もない.改めて自分の個人サイトを設置し,過去の成果を発展的に取り込みたい.

3. 個人用ウェブサイトを設置する人の中には,これを Facebook や ResearchGate, LinkedInなどのSNSと組み合わせる研究者もいる.分野によって流行っている SNS が異なる.研究コミュニティ(海外メイン)とのコミュニケーションは日英併記で,一般向け講演会などの案内は日本語で,いずれもFacebook上で行い,個人サイトはプロ向けのコンテンツに特化させるなど,全体に機動性の高い活動をしている.苦も無く自然体でこなすあたりは,さすがデジタルネイティブと言えるかもしれない.

4. 多言語展開については「日本語は日本の一般の方やメディアの方が読む可能性があるが,英語については同業者からのアクセスが主流になるだろう.だから日本語のサイトをベースに1:1で英語翻訳しても,労力に見合ったリターンが期待できない」という考え方がある.2016年秋にGoogle 翻訳の翻訳精度が飛躍的に向上したことを受けて,個人サイトを英語で制作し,日本語コンテンツをGoogle翻訳によって提供する例が出始めている.日本語サイトと英語サイトをスイッチする方法ではなく,日英併記の例もある.中国語・韓国語ほかの言語についてはGoogle 翻訳によって対応する例がある.


最後に私見を述べます.

1. 法人サイトの運営は通常,期間(終わり)を設定しない.個人サイトの運営も長期に及ぶだろう.コンテンツを延々と追加する運営もあれば,心境の変化に応じて断捨離しながら進める方法もある.運営スタイルが固まるまでは,メニューの作り替えが必要になることはよくあるし,所属や立場の変化によって構成や表現を見直す必要に迫られることは,年齢に関わらず起こりうる.今日的な基準でいえば,メニュー構成を「必要な時に・遅滞なく自力で」変更できないようなサイトを構築することがそもそも(制作段階の)失敗と言えるだろう.事業とは異なる位置づけの個人サイトはなおさら,ある程度内部を理解できていて,メニュー構成くらいは自分で変更できる方が望ましいだろう.

2. 個人サイトの場合,(自分が)恥ずかしくない言葉づかいで自分のやっていることを説明できるまで,つまり自分に合ったスタイルが見つかるまでにはある程度の時間がかかるかもしれない.何を書いて何を書かないかの見極めも重要であるが,ある程度の失敗を乗り越えての理解になるのではないだろうか.四六時中サイトのことを考えられるほど暇ではないはずだから,連休など,手が空いた時にすぐ取り組める事も大事だろう.

3. 大学においては,助教クラスがほぼデジタルネイティブに移行完了しているようだ.小学校で HTML を習い,実習でウェブページを作った経験を持つ世代であるが,もう10年すればインターネットと日常生活が不可分である一方,(デスクトップ)パソコンはさほど必要とせずに育った世代が助教になるだろう.研究者のコミュニケーションにおいて「個人サイト」と並ぶ,あるいはそれに置き換わるようなツールが登場するかもしれない.

4. 世間一般では,モバイルファーストなサイト制作が主流であるし,今回のテーマである「研究者の個人サイト」においては,モダンなテンプレートを使う限り(レスポンシブデザイン:画面サイズに応じて横幅が自動で伸縮するという意味で)読むだけなら特に意識しなくてもモバイル対応になる.しかしレスポンシブにしておけばモバイル OK という意味ではない.アカデミアにおけるデジタルネイティブ人口の比率を考えながら,利用の実態を踏まえ,コミュニケーションのための情報提示の主流を見極める必要があるだろう.次の時代の有力な知性たちが、類似の情報を提示するより便利なサービスに流れてしまったら,サイト運営の苦労に見合うほど利用されなくなってしまう.ウェブサイトの運営において,評価されていないこと(相手にされていないこと)は,アクセスログなどの解析を精緻化しても感知しづらく,感覚を研ぎ澄まして注意する以外にない.

5. これほど情報が世に溢れて,あらゆるメディアが個人の時間を奪い合っているように見える状況になるとは 2008年(iPhone 3 が日本で発売された年)にも想像ができなかった.しかしながら,広告分野のコミュニケーション・プランナーである佐藤尚之は,日本人のおよそ半分はまだ新聞とテレビで情報を得る人たちであるとした上で,ネットの情報で世の中全部が動いていると誤解してはいけないとクギを指している.これを踏まえ「研究者の個人サイト」を考えると,個人名でグーグル検索された時に「検索結果に対してある程度の主導権を取りに行く」役割を与えるのが現時点では妥当であろうと思われる.研究者は個人名で仕事をしている.仲間とのつながり,同業者からの評判といったものが仕事に無縁ではあるまい.「誰から検索される状況が自分にとって最も重要で」「そこに何を返すのか」を「個人サイトを作りながら」じっくり考えてみるのは無駄ではないだろう.なお,大学に所属する研究者の場合,機関の研究者総覧が個人名検索結果の上位に来る.検索者にすると,これは身元保証と実存確認を兼ねるから真っ先にチェックするだろう.個人サイト開設云々の前に,まず,研究者総覧の内容をしっかり更新する必要があるだろう.

参考図書
佐藤尚之(2015).明日のプランニング―伝わらない時代の「伝わる」方法.講談社


以上です.


京阪神次世代グローバル研究リーダー育成コンソーシアム The Keihanshin Consortium for Fostering the Next Generation of Global Leaders in Research(略称「K-CONNEX」)は、平成26年10月に、文部科学省・JST「科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業」の採択を受け、平成27年2月に設立されました。京都大学を代表機関として、大阪大学、神戸大学の三大学を中心に、京阪神の関連団体・企業(国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)、公益社団法人関西経済連合会(関経連)、産学協働イノベーション人材育成協議会)とも恊働するコンソーシアムです。
K-CONNEX 公式サイトより )


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【4】広島大学ライティングセンター主催シンポジウム「研究者に対する英語アカデミックライティング支援 ―組織的運営の視点から―」(広島大学学術室研究企画室より情報をいただきました)

全国の大学や研究機関に所属する「研究者に対する英語アカデミックライティング支援」の担当者が一堂に集まり、支援の先進的な事例や課題について情報交換や意見交換をすることを目的としています。


本シンポジウムは、アカデミックライティングに関する専門的な指導者の視点というよりも、研究者向け支援の取組みにおける事務的な運営者の視点に立って企画されました。したがって、個々の研究者に向けたライティングスキル向上の具体的ポイントを解説・議論することは中心に据えず、組織的な取り組みの有効性や可能性、問題点についての考察や分析を共有する機会の提供を主眼としています。
https://www.hiroshima-u.ac.jp/wrc/2017_sympo

■日時:2017年11月18日(土)10時~16時45分 ※終了後意見交換会(会費制)
■会場:広島大学 東広島キャンパス ライブラリーホール
■対象:大学や研究機関に所属する「研究者に対する英語アカデミックライティング支援」の担当者、あるいは関連事項に興味のある方
■言語:日本語、英語(通訳なし)
■参加申込方法:以下のフォームより
http://www.lib.hiroshima-u.ac.jp/?page_id=7219

■プログラム:
基調講演1「日本の研究発展を遅らせる個人的課題と制度的障壁の克服」
トム・ガリー(学術英語学会・会長理事/東京大学グローバルコミュニ
ケーション研究センター長・教授)
基調講演2 "Operations
and management of the Office of Scholarly Publications"
(英語)
キャロル・サージェント(米国・ジョージタウン大学 Director of
Office of Scholarly Publications)
事例報告
 ・大阪大学(英語)←★大阪大学経営企画オフィスURAのYAOが講演します。
 ・北海道大学
 ・筑波大学(英語)
 ・広島大学
グループディスカッション
 ①各基調講演および事例報告について
 ②人社系の英語論文執筆支援について
 ※参加者で小グループを作り、ディスカッションを行います。


■主催:広島大学ライティングセンター
■協力:一般社団法人 学術英語学会

■問合せ先:広島大学ライティングセンター
https://www.hiroshima-u.ac.jp/wrc
学術室 研究企画室(ライティングセンター担当)
E-mail: wrc-research★office.hiroshima-u.ac.jp(★を@に)


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【5】二頁だけの読書会vol.10(大阪大学・筑波大学コラボによる特別編)「『あなた』と『私』を結ぶもの-新たな人のつながりを生み出す〈経験の継承〉を考える」

本のとある見開き二頁をきっかけに、研究成果を参加者のみなさんと分かち合い、学び合うプログラムです。
今回は、大阪大学・筑波大学のコラボによる特別編として初の東京開催。筑波大学「人文社会系研究発信月間」行事にも位置づけられています。

■日時:2017年12月8日(金)14時45分〜16時45分(開場14時30分)
■場所:筑波大学東京キャンパス文京校舎 119講義室 (東京都文京区大塚3-29-1)
■ゲスト:木村 周平(筑波大学人文社会系 助教)
     林 葉子(大阪大学大学院文学研究科 招へい研究員)
■取り上げる本:
清水 展・木村周平 編著『新しい人間、新しい社会--復興の物語を再創造する』 京都大学学術出版会、2015年
林 葉子『性を管理する帝国-公娼制度下の「衛生」問題と廃娼運動』 大阪大学出版会、2017年

■概要:
ゲストは、トルコのコジャエリ地震について研究する文化人類学者の木村周平さんと、近代日本の公娼制度と廃娼運動について研究するジェンダー史学者の林葉子さんのお二人です。現代のトルコにおける地震の被災者と、近代日本の公娼制度下の娼妓が、それぞれに経験した苦しみはまったく異質なものですが、その「あなた」の受難に「私」はどのように向き合えば良いのかという問いは、共通しています。人は、苦しむ他者と、どのようにつながることができるのか--現代日本を生きる私たちの問いとして、〈経験の継承〉が一つのキーワードであるお二人の本それぞれの二頁を手がかりに、参加者の皆さんと一緒に考えます。

■定員・申込方法:先着順30名(要事前申込。11/8(水)21時より以下のウェブページから申込受付開始、定員になり次第受付〆切)
https://www.ura.osaka-u.ac.jp/ssh/2pages10.html

■参加費:無料

■主催:大阪大学経営企画オフィス URA部門、筑波大学人文社会国際比較研究機構(ICR) 、筑波大学URA研究戦略推進室
■共催:大阪大学出版会、株式会社りそな銀行
■協力:大阪大学クリエイティブユニット
■問合せ先:
  経営企画オフィスURA部門(担当:川人)
  info-ura★lserp.osaka-u.ac.jp(★を@に)

申込方法等、詳しくはこちらをご覧ください。

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【6】大阪大学ホットトピック

斯波義信名誉教授、松原謙一名誉教授が文化勲章を受章、村井眞二名誉教授、坂口志文特任教授(常勤)が文化功労者に!

大阪大学ニューズレター2017秋号を発行しました

「大阪大学の集い in 東京」 今年は"ライブ"♫♫(12月2日)

第58回まちかね祭「阪大を、旅しよう」を開催します(11/3-5)

ロイター社「イノベーティブな大学ランキング」で、阪大は世界第34位、国内第2位

第19回大阪大学-上海交通大学学術交流セミナーを開催

「大阪大学感謝の集い」を開催

2017年度大阪大学北米同窓会講演会および年次総会が開催されました


○最新の研究の成果リリース

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【7】次号のお知らせ(予告なく変更する可能性があります)

リサーチ・アドミニストレーター協議会 第3回年次大会セッション「URAの組織マネジメント」の講演録等をお届けします。

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川人

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2020年10月30日(金) 更新
ページ担当者:川人