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URA MAIL MAGAZINE

URA MAIL MAGAZINE vol.3

「文系研究で。若手職員で。研究の責任をめぐって。~"国際"な出来事」特集

2013年12月 発行

大学の流行語大賞というものがもしあったなら、今年も「国際化」「グローバル化」は上位に入ったことでしょう。(新語ではないので既に殿堂入りか??)今回は、大阪大学で最近生まれている国際化関連の動きの中からURAが選んだ注目事例を紹介します。

■INDEX
  1. "文系研究"の国際展開

    ~科研費基盤(B)「歴史的ヨーロッパにおける複合政体のダイナミズムに関する国際比較研究(研究代表:古谷大輔准教授/大阪大学)」を例に
  2. 大学職員のグローバル化ってなんだろう。

    ~若手職員・URAが海外の大学への調査研修出張を通じて考えたこと
  3. 責任ある研究・イノベーションのための国際シンポジウム開催報告
  4. 第3回URAシンポジウム・第5回RA研究会開催報告
  5. エッセイ「大学に於ける研究活動と大学院教育」 第2回
  6. URA関係イベント情報
  7. 大阪大学ホットトピック

    ●第10回 日本学術振興会賞に大阪大学から4名受賞

    ●最新の研究の成果リリース

    ●Facebookの公式アカウントを開設しました
  8. 次号予告

【1】"文系研究"の国際展開
~科研費基盤(B)「歴史的ヨーロッパにおける複合政体のダイナミズムに関する国際比較研究(研究代表:古谷大輔准教授/大阪大学)」を例に

URAの役割については、特に理系を中心とした大型の外部資金獲得というイメージが強いかもしれませんが、大阪大学 大型教育研究プロジェクト支援室URAチームは、人文学・社会科学分野においても、個別の研究活動の支援の他、国内外のグッドプラクティスや政策動向等について、学内での情報共有を進めています。

今回は、本学言語文化研究科の古谷大輔准教授が研究代表を務めるプロジェクトを、歴史学研究の国際展開の事例として取材しました。

(クリスチャン・ベーリン、川人よし恵/大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチーム)

科学研究費助成事業基盤研究(B)「歴史的ヨーロッパにおける複合政体のダイナミズムに関する国際比較研究」サイト

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古谷大輔准教授(大阪大学言語文化研究科 言語社会学専攻)


ローカルな知にとどまる歴史学の現状。日本人歴史学者だからこそ実現できる国際比較研究推進のための"メタナショナルな"プラットフォームとは

他の多くの人文学研究同様、歴史学も、文化的背景等の理解の問題から、まずはその国・地域の言語でないと研究を深められない側面が強く、ヨーロッパでさえグローバル化が唱えられながらも各国の研究はローカルな発信に留まる傾向にあります。それぞれの国や地域は複雑に影響しあいながら発展してきたにも関わらず、国や地域を超えた共通の議論がまだまだ進んでいないのです。私の専門は近世スウェーデン国制史ですが、ヨーロッパ各国の研究者とつき合う中で、一国・地域に留まった歴史の体系化を進めるだけではなく、より広域での統合的な研究協力の必要性を感じていました。そこで、自分が研究対象とする国や地域の言語、英語、日本語の少なくとも3か国語は使える日本人の西洋史学の研究者が、中立的な立場に立って、いまだローカルな知の域を脱することのできない各国の歴史学界をつなぐ橋渡し役となれば、共通のテーマで議論するプラットフォームを設けるという"メタナショナルな"枠組みをつくりあげ、ヨーロッパにおける歴史学の国際比較研究推進に貢献できるのではないかと考えました。第1回目のワークショップは、スウェーデン、デンマーク、ポーランド、イギリス等の歴史学者を招き、2014年9月にスウェーデンのルンド大学で開催する予定です。

このようなしくみを実現できるのは、日本人歴史学者が、英語だけではなく世界各地の言語で語られた世界に沈潜し、各国の歴史学界と真摯な対話を続けてきたためです。これは、戦前の西洋史学研究対象が西欧諸国に偏重してきたことへの反省から、戦後の日本の歴史学者達が、「西洋」を相対化しようと北欧・東欧・イスラム・アジアなど多様な国・地域からも学ぼうとしたこと、また、そうした世代の日本人研究者が築き上げた各国の歴史学界との信頼関係が後進に受け継がれたことなどの積重ねによります。


「複合政体」を共通テーマに設定

本プロジェクトで扱う共通テーマは「複合政体(複数のローカルな政治体制の上により広域的な政治秩序が存在するあり方)」です。これはヨーロッパ近世における国家形成に見られる特徴の一つで、古くから地域ごとでは研究が進められている分野ですが、お互いの地域での特殊な複合政体のあり方を知り合い、共通のパースペクティブを探るところまでは至っていません。

現在の欧州連合も、皇帝のような存在が語る普遍的な理念の下に、地域毎には独自の政治を行う社会がゆるやかに結び合っていたかつての「複合政体」のしくみに似通った性格がみられるという解釈も存在し、そういう意味では「複合政体」は今日的なテーマであるとも言えます。


本プロジェクトの歩み~日本歴史学界の「輪」からヨーロッパの歴史学界の「輪」へ

本プロジェクトで構想しているメタナショナルな議論のプラットフォームは、平成22〜24年度に、科研費基盤研究(B)の支援を受けて実施した「近世ヨーロッパ周縁世界における複合的国家編成の比較研究」プロジェクトでの試行段階を経ています。前プロジェクトでは、従来の国家形成史研究の中でも複合的国家編成という観点から研究蓄積があるイベリア半島、ブリテン諸島、中央ヨーロッパ、バルト海沿岸地域を対象とした日本人研究者が連携し、各地の政治体制に関する知を共通のテーブルに乗せて議論してきました。その結果、各国で個別に行われてきた複合政体の議論を統合することの有効性が確認されました。前プロジェクトに関わった日本人研究者が持つヨーロッパ各国の歴史学界との豊富な人脈を活用すれば、日本人研究者をハブとした歴史学の国際比較研究推進体制が組めるので、同様の議論のしくみがヨーロッパでも実現できます。

私は以前から、自分が専門とするスウェーデン以外の国・地域の歴史学の研究グループにも積極的に加わり、他の地域の研究者とも関心を共有しながらスウェーデンの歴史をヨーロッパの文脈のなかで理解しようと心がけてきました。多様な地域の研究者とのネットワークを広げてきたので、今回のようなプロジェクトのメンバー編成が実現できたと思います。

その他、メンバー編成で心がけていることとしては、専門とする国や地域のバランスの他、各国の歴史学界との研究交流に経験の豊かなベテラン研究者と、今後の歴史学界を担っていく中堅・若手の研究者という異世代を組み合わせることです。世代をまたぐ交流が、歴史学の継承だけでなく活性化という点で効果的だと考えています。


◎「歴史的ヨーロッパにおける複合政体のダイナミズムに関する国際比較研究」プロジェクトの研究体制
    ・イベリア半島における複合的国家編成の分析:中本香(大阪大学)・内村俊太(上智大学)
    ・ブリテン諸島における複合的国家編成の分析:近藤和彦(立正大学)・後藤はる美(東洋大学)
    ・中央ヨーロッパにおける複合的国家編成の分析:大津留厚(神戸大学)・中澤達哉(福井大学)
    ・バルト海地域における複合的国家編成の分析:小山哲(京都大学)・古谷大輔(大阪大学)


本プロジェクトwebサイトのトップに掲載されているイラストは、ポルトガルのイエスズ会士であったManuel de Nobregaが17世紀半ばのブラジルへ渡航する船の帆に掲げた Unus non sufficit orbis というラテン語の文言です。英訳は One World is not Enough と訳され、ヨーロッパの近世におけるイエスズ会の多大な影響が世に広がることを象徴していると共に、自己中心でありながらも、現地のローカルな文化と歴史を理解しようとする歴史的な構えの例に因んでいます。単独の「各国史」の部分を視るアプローチだけでは歴史学研究を深めていく上で限界があるという本共同研究の目指している複合的な研究の姿勢を表象するものとして、まさにぴったりだと思われます。(筆者私見)

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【2】大学職員のグローバル化ってなんだろう。
~若手職員・URAが海外の大学への調査研修出張を通じて考えたこと

大阪大学が研究型大学として世界水準の優れた研究活動を行っていくためには、教育・研究系職員だけでなく、事務系職員の国際感覚の養成や資質の向上といった人材育成が必要不可欠になります。そこで本学では、事務職員が海外の大学等を訪問し、参考情報を調査することで、本学の更なる国際化のための事務体制強化を目指す調査研修出張を、「研究大学強化促進事業」の一環として実施しています。

本研修出張のトライアルとして、本学本部事務機構の若手事務職員3名(国際交流オフィス学生交流推進課の安達大祐さん、研究推進部産学連携課の前田瑛美さん、学生部学務課の井上領子さん)と、大型教育研究プロジェクト支援室URAチームの望月麻友美URAが、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)とデンマークのオーフス大学を訪問し、調査研修を行いました。日程は11月2日(土)~10日(日)の7泊9日です。

本研修出張で着目すべきは、何と言っても、若手事務職員が"随行"という立場ではなく、自ら主体的に調査に参加すること。訪問先の大学2校は、国際性や研究支援体制の観点から望月URAが選定しましたが、訪問先での調査内容は、4名がお互いに希望を出し合って先方に予定を組んでもらいました。その他、事前準備としては、大阪大学や自分の部署の業務について各大学で英語でプレゼンテーションする資料作成を行いました。在職年数が浅く、日本語でもこれまでほとんど人前でプレゼンした経験がない若手職員にとって、国際的に見た大阪大学の特徴および自分たちの業務の再確認と、英語によるコミュニケーションという両面での、ひとつの大きな宿題を乗り越えて出張に臨みました。

●EPFL(11月4日~6日)

    ・担当者からの聞き取りおよびディスカッション:学長のリーダーシップによる大学改革や国際化、ブランディング、プレアワード支援に特化した研究支援業務、教育システム等について
    ・大学構内や学生寮の見学
    ・日本人留学生との面談 等


●オーフス大学(11月7日~8日)

    ・担当者からの聞き取りおよびディスカッション:教育研究および事務の両面での大学の発展の経緯、大学の国際化、国際的な学生の流動性、全学の研究支援を行う部署(Central Research Support)の体制や業務等について
    ・日本人研究者・大学教員との面談 等


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左:EPFLのGrant Support Office(プレアワード支援に特化した支援部署)でMieusset博士らにインタビュー
右:オーフス大学のInternational Strategy and Partnership(国際戦略・連携室)の責任者Warming氏とランチミーティング

それぞれ自身の業務の関係で「大学改革」「教育の取り組み」「交換留学」「国際担当業務」「研究推進業務」等の項目に沿った調査からの収穫があったことはもちろん、今回の研修出張で一番印象に残ったこととして若手職員が口をそろえて挙げたのは、「出会った大学職員の魅力」でした。学生・同僚といった立場や国籍を問わず人を大事にする姿勢や、自らの専門性が確立されたプロフェッショナルな働き方に、グローバル化の先進事例を見たようです。出張研修をふりかえるミーティングでは、「グローバル化とは、相手が誰かにかかわらず、当たり前のことを当たり前にやることから始まるのではないだろうか」という発言も。

自ら望んで研修に参加した3人の若手職員は、上司の後押しで得た貴重なチャンスを最大限に活かすべく、現在、望月URAと共に、出張研修での経験を学内で共有するためのレポート作成に勤しんでいます。部署の壁を超えて共に考え・行動し・話し合ったことを含め、彼らの今回の経験が、未来の大阪大学の更なるグローバル化につながるよう期待しています。


(川人よし恵/大阪大学 大型教育研究プロジェクト支援室 URAチーム)


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調査出張研修レポート作成のためのミーティング風景

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【3】責任ある研究・イノベーションのための国際シンポジウム開催報告

近年、iPS細胞の臨床応用やヒトゲノムにおける遺伝研究や臨床研究がさかんになるにつれ、研究の社会的責任が問われるようになってきました。また、東日本大震災においては、科学者、技術者とその集団の対応をめぐる課題が明るみになりました。こうした中、国際的に研究に関わる多様な関係者や市民や政策立案者等を巻き込んだ自由な対話や連携によって研究やイノベーションに対する未来志向のアプローチが試みられています。このような取り組みを推進するために、米国アリゾナ州立大学では責任あるイノベーションに関する国際的なネットワーク機関(VIRI)(注1)を設立し、Journal of Responsible Innovation という学術誌を新たに発刊することから、日本でも新たな研究者・関係者の協働や連携によって学際的な研究や実践が広がることを期待して、本学医学系研究科医の倫理と公共政策学研究室(加藤和人教授)がシンポジウムを開催しました。

シンポジウムでは、米国、ドイツと英国から気鋭の研究者による「責任ある研究・イノベーション」を題材とした講演が行われた後、駐日欧州連合代表部科学技術部長から欧州における研究倫理体制に関する話題提供と日本側の状況と課題について話題提供がなされました。本シンポジウムの報告書は後日主催者がまとめる予定ですので今回はポイントをご紹介します。

    ・責任ある研究・イノベーション(Responsible Research and Innovation:RRI)は複雑化する科学技術システム全体をガバナンスするという概念だけではなく、概念を実践するための方法論や社会に根づかせるための制度化も含んでいる。
    ・「責任」により規制するのではなく、未来志向による関与者との応答性を重要視している。
    ・責任ある研究・イノベーションに重要な視点として「予期すること」「多様な関与者をまきこむこと」「反省的であること」「順応すること」が挙げられる。これらのプロセスを実行する上で市民協議や市民対話など実践する場としての役割がある。
    ・責任ある研究・イノベーションが根づくには日本の歴史、政策などこれまでの文脈の中で位置づけを考える必要がある。
    ・アメリカでは人文社会科学者が自然科学の研究室に加わって研究の社会的影響をともに考え直す社会技術統合研究(STIR)と呼ばれる活動があり、科学的業績の向上にもつながっている。
    ・ドイツでは工業ナノ材料の社会的影響をめぐって政策立案者、利害関係者や市民など多様な階層での対話が行われ、さまざまなリスク研究・管理の可能性が探索されている。
    ・欧州では責任ある研究・イノベーションのための社会規範的フレームワークに向けたRES-AGorAという実践的なプロジェクトがあり、「良い」大学とは何かについての制度的議論が進められている。

日本では、第四期科学技術基本計画「Ⅴ.社会とともに創り進める政策の展開」の中に「科学技術イノベーション政策を「社会及び公共のための政策」の一環」として位置づけ科学技術政策を進めることが記載されており、「倫理的・法的・社会的課題(注2)への対応」についても取り組みを一層強化するとあります。本シンポジウムは上記の内容にまさに呼応する企画でした。日本においての取り組みはまだはじまったばかりではありますが、既に(独)科学技術振興機構社会技術研究開発センター(注3)の取り組みなどは先駆的な事例として本シンポジウムでも紹介されました。

俯瞰的な議論がなされていたため、実際に研究支援業務に携わる方々からすると少々遠い話しをしているようにも感じますが、「責任ある研究・イノベーション」を個々の研究者レベルに広げるためにはどのようにすればよいかというフロアからの質問への回答が、現場でまず取組む上での参考と受け止めました。チェックボックスにチェックするような静的で表層的な研修ではなく、参加者がグループワークを行いながら議論を積み重ねるタイプの研修を受けると研究者自身も「責任ある研究・イノベーション」を自らに関係することとして捉えることができるようになるとのことでした。なにより研修を行う側がたのしいと思える研修プログラムをつくることが必要であるというコメントがありました。小さなことかもしれませんが、現場で草の根的にはじめるには参考となる意見でした。

科学技術イノベーションが社会にもたらす影響を可視化するなど、客観的な根拠に基づき政策の立案を行うために「政策のための科学」推進事業が文部科学省で推進されています。この事業における基盤的研究・人材育成プログラム「公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)」(注4)という拠点も抱える大阪大学においては「責任ある研究・イノベーション」を実現する土壌を培っているといえるでしょう。本シンポジウムを契機に活動が展開されることが期待されます。なお、本シンポジウムは、大阪大学における研究大学強化促進事業の一環で開催されました。


(福島杏子/大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチーム)


注1:VIRI(The Virtual Institute for Responsible Innovation)
http://cns.asu.edu/viri

注2:倫理的・法的・社会的課題
英語標記はEthical, Legal and Social Issues。略してELSIと呼ばれる。

注3:(独)科学技術振興機構社会技術研究開発センター
http://www.ristex.jp/
参考資料:「科学技術と人間」研究開発領域最終報告書
http://www.ristex.jp/result/science/sh_report/_SWF_Window.html?mode=1062

注4:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
http://stips.jp/

責任ある研究・イノベーションのための国際シンポジウム(プログラム等詳細)
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/eth/Symposium20131216.html
*後日、シンポジウムの報告書が作成される予定です。

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【4】第3回URAシンポジウム・第5回RA研究会開催報告

文部科学省「リサーチ・アドミニストレーターを育成・確保するシステム整備」事業(以下:URAシステム整備事業)実施機関の主催で、2013年11月18日、19日の2日間、京都大学吉田キャンパスの京都大学百周年時計台記念館で第3回URAシンポジウムと第5回RA研究会の合同大会が開催されました。今回のURAシンポジウムは大阪大学が幹事校を務めました。

文部科学省のURAシステム整備事業の実施機関が成果を公表する"URAシンポジウム"と、全国の様々な機関に所属する研究支援者やリサーチ・アドミニストレーターが研究アドミニストレーションの体制や専門人材育成などについて議論を行なう"RA研究会"は、これまでそれぞれが別に開催されてきましたが、今回は初めて同時に開催されました。

第3回URAシンポジウムでは、文部科学省による基調講演に続いて平成23年度からURAシステム整備事業を実施している大学の成果と今後の展望についての講演7件を行い、全実施校の報告はポスターで行ないました。また初めての企画として、文部科学省の事業としてURAの研修・教育システム作成を行なっている早稲田大学から教材を提供していただき、URA業務を担う上で必要性の高い科目3つの講習を行ないました。

第5回RA研究会は京都大学が幹事校となり、9つの分科会、4つのセクションに別けたポスター発表でリサーチ・アドミニストレーション活動などについて議論を行いました。最後の全体セッションでは、リサーチ・アドミニストレーションに係わる制度、組織、人材そして経験が日本の研究開発・研究推進支援活動の強化につながる公共財となることを目指し、リサーチ・アドミニストレーターによる全国規模のネットワークを構築していくことが提案され、準備活動を始めることが呼びかけられました。

7月から大会企画を始め、準備、講演やポスター依頼、運営計画などを京都大学および全国の大学の関係者と進めました。10月に大会参加者の募集を始めたところ、予定をはるかに上回る応募をいただき、京都大学の担当の方と相談して急遽、会場を大きな部屋に変更していただくということも有りました。お陰でこれまでの実績を遥かに上回る、約100機関から474名のご参加をいただき、大会当日は、どの会場も殆ど満席状態で熱のこもった議論などが行なわれ、大変盛況でした。改めてリサーチ・アドミニストレーションの整備が全国の研究機関で活発に進んでいることが認識されました。

合同大会の資料は次のホームページに掲載されていますのでご参照ください。
http://www.3rdura-5thra.com/index.html


(宮田知幸/大阪大学 大型教育研究プロジェクト支援室 URAチーム)

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【5】エッセイ「大学に於ける研究活動と大学院教育」第2回

大阪大学 大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチームのシニアURA、高尾正敏による連続シリーズエッセイの第2回。今回は大学院教育を考えます。「大学」についてもっと勉強したい方におすすめの資料等もご紹介します。

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前回からの続き)そういう状況の下、大学の研究活動のあり方が問われています。ヨーロッパでは中世以来大学は、教員・学生共同体のなかで、自らの後継者を育てるということを行ってきました。この使命は今も健在ですが、現在、後継者として必要な分の数倍の博士課程修了者、さらにその数倍の修士課程修了者、そしてユニバーサル時代では膨大な学士課程卒業者を輩出しています。その中で、研究を通して後継者教育されるのは、博士課程の学生と修士課程の学生の一部であります。後継者定員外の高度教育を受ける学生をどうするかが最大の課題です。勿論大学院修了者が大学教員以外の職を得て活躍するのも目的ですが、博士人材でのその他の目的が顕在化したのは、つい最近のことです。ある学術分野で大学・公的研究機関以外での人材需要を越えて博士を乱造?したのがその原因のひとつです。

経済団体やシンクタンクでの大学院教育に対する提言レポート群では、特に産業界で活躍したい理工系修士課程の学生には、コースワークをキッチリとやり、リサーチワークはバランスを考えてくださいというのがあります***)。この意味は、筆者の解釈では、終身雇用制が継続しようが、崩壊しようが、個人として30年以上研究者・技術者あるいは技術マネージャーとして生きていくためには、「コースワークによる基礎的学力がないと生きていけないよ!」、「大学・修士課程でのリサーチワークは生きていくために必要なリテラシー(R&Dスキル)を得るためのものですよ!」、 というメッセージだと思っています。批判を恐れず別のことばで、リサーチワークを言い換えれば「研究ごっこ」でいいですよ!ということです。勿論、研究は遊びではなく、深遠なものです。研究ごっこでは一人前になるために、先生から研究の仕方・スキルを学び、盗むという観点が入っています。「師の背中を見て育つ」です。

同じレポート群***)には、博士課程についての言及もあります。博士課程の学生と修了生の確保が、経済大国、文化立国、あるいは科学技術立国を目指すためのリーダーの確保とほぼ同じ文脈であるとの認識にあります。明治・大正・昭和では学士課程(学部)修了者が日本を牽引してきましたが、平成では博士が牽引するという文脈に読み替えてもよいと思います。理工系博士の活躍の場は科学技術の研究開発です。最近では科学技術立国実現のための共通認識として、博士課程の充実施策が打ち出され、実施されてきました。それらの中でも、平成23年度から始まった博士課程教育リーディング大学院プログラムは学修年限5年制を標準とし、修士課程と一線を隔したものとなっています。5年制博士課程は以前からも一部実施されていますが、理念が明確ではありませんでした。「リーディング大学院」これこそまさに研究を通じて教育する「フンボルト理念」に沿ったものと言えます。

大学院を発明したのはアメリカです。アメリカでは一般的標準制度として、学士課程(学部)に専門教育課程は存在せずに、文理学部で一般(教養)教育課程として、自分の興味に沿ったコースを履修することになっています。ここで、いわば全人教育を目指し、民主主義を実践する良き市民となるための教育(リベラルアーツ)を受けて、さらに志のある人は大学院(博士:Ph.D.コース)で徹底した専門教育を受けることになっています。高度の職業人教育はMBAに代表される修士課程で行う仕掛けです。博士課程と修士課程は別ものとして設計されています。ところが日本では修士課程の先に博士課程を繋ぐという勘違いをして制度設計をしてしまいました。

大学院進学者が少なかった時は、博士となるべき教育の基礎課程を博士前期課程として、修士課程に委託することで、大きな齟齬は無かったのですが、理工系学士課程の修了者のほとんどが大学院へ進学することが普通になった現在、そのような「竹に木を接ぐ」「木に竹を接ぐ」制度の矛盾点が顕在化してしまったというのが筆者の見解です。修士課程は学士課程と繋がって一体化してしまったので、発足以来の博士(後期)課程への接続が曖昧になったということです。一体化により学士で社会へ出ていた層が修士課程に入り、課程修了後すぐに社会へ出るということになっています。学生目線では、すでに学士の延長である修士課程と、博士学位を取得するための課程は全く別のものと映っているのだと思います。言い換えれば、修士課程は高度職業人養成、すなわち就職への入口としての役割が主となっています。ほとんどの学生たちは元々研究者を目指していないので、修士課程は大学教員の思惑とは異なり、研究を通しての教育を行う「フンボルトの理念」実践本拠でないことが見えてしまったのです。気づいていないのは、あるいは気づいていてもそう思いたくないのが大学教員です。大学院を重点化して、博士人材の確保を目指したはずなのに、博士課程進学者が年々減少するという目論見とは異なった現実となってしまっています。今から考えて見れば、学生目線で考えず、大学の都合だけで制度設計をしてきた当然の結果です。

日本の次世代を牽引してくれる可能性を秘めたリーダー層の研究者・技術者の候補生が,修士課程の様変わりによって、減ってしまうのではないかという産業界・アカデミアの危惧が表面化してしまいました。次世代を担う研究者のたまごが正当に、継続的供給されないと、「研究大学」どころではありません。中国や韓国、新興国ではアメリカ方式の大学院制度を援用して、国力の要であるとの認識で博士人材の増強を図っていますし、伝統的なアカデミア体制が主流であったヨーロッパでもすでに、アメリカ方式へ転換を図っています。ヨーロッパでは、ボローニャプロセスとして、大学間連携と学生の質保証の取り組みが始まっています。日本の大学自ら、産業界と歩調を合わせて、ユニバーサル化時代の博士人材育成をどうするのかを、アメリカの良いところに倣って、実情にあった制度設計考えてみることが必要と考えます。経営学のことばで言うマーケティングの考え方を取り入れることにより、「竹に竹を・・」「木に木を接ぐ」正当な制度へ転換を図る必要があります。(第3回へつづく)


***)例えば: 財界・シンクタンクの提言など
COCN (産業競争力懇談会) より http://www.cocn.jp/report/
『イノベーション創出に向けた人材育成』 2012
『グローバルなリーダー人材の育成と活用研究会』 2011
『グローバル時代の工学系博士人材のあり方研究会』 2010
『産業基盤を支える人材の育成と技術者教育研究会 【グローバル大競争を勝ち抜くための高度技術系人材育成に向けて】』 2009
『大学・大学院教育プロジェクト 【2025年の日本と産業界が求める人材像】』 2007


(高尾正敏/大阪大学 大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチーム)

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【6】URA関係イベント情報

今月は、大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチームが主催するセミナーのご案内です。

●第5回科学技術政策セミナー

http://www.lserp.osaka-u.ac.jp/ura/pressrelease/20131220.html

本学の吉澤剛准教授(医学系研究科)と政策研究大学院大学の有本建男教授による、
政策の立案・決定および大学の役割に関する講演を予定しています。

2014年1月29日
大阪大学吹田キャンパス

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【7】大阪大学ホットトピック

第10回 日本学術振興会賞に大阪大学から4名受賞―2013年12月19日 (木)

●最新の研究の成果リリース