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URA MAIL MAGAZINE

URA MAIL MAGAZINE vol.16

「阪大総長になるずっと前。免疫学者・平野俊夫の選択」

2015年1月 発行

今月は、本学の平野俊夫総長に登場いただきました。
阪大総長になるずっと前、"医学部ヒラノ教授"よりも更に前のお話です。
免疫学者・平野俊夫の「キャリア形成」「研究活動マネジメント」とは?!

■INDEX
  1. 研究文化百景<免疫学編>〜阪大総長になるずっと前。免疫学者・平野俊夫の選択
  2. 【みなさまからの投票受付中!】ナレッジキャピタルのイノベーションアワードに大阪大学から2つのエントリー
  3. URA関係イベント情報

    ○【予告】大阪大学URA整備事業報告会

    ○二頁だけの読書会vol.4「現代スペインの劇作家 アントニオ・ブエロ・バリェホ―独裁政権下の劇作と抵抗」

    ○広島大学研究企画室主催シンポジウム「研究力強化を推進する広報戦略」

    ○SRA International 2015 Research Management Intensive

    ○【学内向け】大阪大学 平成28年度採用分日本学術振興会特別研究員説明会
  4. 大阪大学ホットトピック

    ●「マッサンと大阪大学」~~阪大NOW1月号から

    ○豊中キャンパスに国政/地方選挙の「期日前投票所」を設置します

    ○退職教授による記念講義(最終講義等)のご案内

    ○「福島大学うつくしまふくしま未来支援センター京都シンポジウム」開催

    ●最新の研究の成果リリース
  5. 次号のお知らせ

【1】研究文化百景<免疫学編>
〜阪大総長になるずっと前。免疫学者・平野俊夫の選択

 大阪大学の平野俊夫総長(→プロフィールはこちら)は、免疫反応を制御しているサイトカイン(註1)の一つ、インターロイキン6(以下IL-6)を発見する(註2)など、顕著な業績で知られる免疫学者です。総長としては様々な機会や媒体を通じて日ごろからメッセージを発信されているので、今回は、主に1970年代〜80年代の研究経験から、免疫学の一研究者としての「キャリア形成」や「研究活動マネジメント」に関するお考えを伺いました。

 URAメルマガの不定期シリーズ企画、研究文化百景の第3弾としてご紹介します(関連記事:第1弾<理論物理学編>(2014年5月発行vol.8)第2弾<臨床哲学とサステイナビリティ・サイエンス編>(2014年9月発行vol.13))。

(記事:川人よし恵/大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチーム、インタビュア:廣瀬まゆみ(註3)/同志社大学URA)

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インタビュー風景(左:平野総長、右、インタビュアの廣瀬さん)

時代背景:免疫学がダイナミックに展開した黎明期

 獲得免疫(註4)のメインプレイヤーとして知られるT細胞(註5)、B細胞(註6)が1960年代後半に発見され、1971年には国際免疫学会と日本免疫学会が設立されるなど、平野先生が大阪大学医学部を卒業し免疫学の道に進もうと決めた1972年は、免疫学がダイナミックに展開し始めたまさに黎明期に当たります。

 当時は、T細胞・B細胞の相互作用やT細胞を増殖させる因子の存在など、様々なことが現象としては発見されつつあり、それらが細胞実験や動物実験で盛んに再現されていましたが、実際に何がその現象を司っているのかは分かっていませんでした。1970年代、平野先生が研究対象に選んだIL-6のようなサイトカインやシグナル伝達に相当するものについても、その働きは予測されていたものの、実態はつかめていませんでした。

現象論を超えて本質を探るため、IL-6精製に明け暮れた8年間

 その一方で病気は存在し、人々を苦しめています。免疫学者として、華やかに現象論を繰り広げるだけでなく、その現象を司る物質的な根拠の解明から関連する免疫のメカニズムを明らかにしたいと考えた平野先生が選んだのは、シンプルな発想に基づく、しかし根気や工夫を要する「精製」という方法でした。精製は、現在も生命科学研究の重要かつ基本的な実験操作の一つですが、当時同じようなアプローチでサイトカインを研究していた研究者は世界でも数人だったそうです。2009年、日本人初のクラフォード賞受賞(註7)につながるIL-6の発見は、8年に渡る精製実験の末に到達したものです。

 ことの始まりは1978年、結核療養所の名残がある大阪府立羽曳野病院(現、大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター)に赴任したこと。結核性胸膜炎の治療のため、一人の患者から1リットル近い胸水を抜くことが多々ある中、平野先生は、その胸水にリンパ球(ほとんどがT細胞)が10億個ほど存在していることに着目しました。このT細胞が結核菌体成分により刺激を受けることでサイトカインを産出しているのではないかと、研究者の勘が働いたそうです。何が見つかるかという具体的な見通しはなかったものの、たくさんの患者さんの胸水を集められることに成功の可能性を感じ、診療の傍ら、サイトカインの精製に取り掛かりました。その後、熊本大学、大阪大学細胞工学センターと所属が変わっても地道に精製を続け、ついに1986年にIL-6を発見するに至ります。

 サイトカインの精製は、生理活性(註8)を指標に、混合物の中から目的とする物質だけを純化するという地道な作業です。分子の大きさや電気的な性質の違い等により分離していくのですが、正体が分からないものを単離・精製する作業は、想像するだけでも多大な困難が伴うことが予想されます。ちなみに、精製段階でサイトカインを含むと考えられるタンパク質溶液の生理活性を調べる際に使ったのは、初期の頃は平野先生自身の血液から分離したリンパ球にEBウイルスを感染させて作成したB細胞株だった等々、この時期は、当時ならではの非常に興味深いエピソードの宝庫でもあります。

 それはさておき、なかなか思うように進まなくても、そうしたアプローチに対して他の研究者から懐疑的なまなざしを向けられることがあっても、8年間精製を続けたのは、この方法が王道だと考えたからだそう。平野先生いわく、どんな分野でも一番キーになる課題、つまり本質的な課題はなかなか解決できないため、比較的論文になりやすいその周辺部分に取り組む人が多いけれど、それではブレークスルーは生まれないとのことです。「物事の本質を避けていると普通の人になってしまう」という言葉も印象的でした。

 その後、平野先生のIL-6の研究は、1988年、関節リウマチの患者の関節液中の多量のIL-6の存在を見出したことにより、自己免疫疾患を引き起こすメカニズムの解明にまで広がっていきます。

「目の前の山を登りきる」とは研究のマネジメントそのもの

 ここからは筆者の感じたことを書きますので、外れていましたらご寛容のほどを。

 インタビュー中、平野先生からは、「将来なりたいものを小学生の時から思い込みで決めている人も中にはいるが、私は"一般的な人"なのでそういうタイプではなかった」、「振り返ると、あまり深刻に悩んだことはないように思う。失敗も楽観的に受け止めてきた」、「迷っても答えは出ない。その時の思い、勢いで決めるしかない。いろいろ先々を計算すると結局何もできなくなってしまう」といったコメントが聞かれました。あれあれ?総長としていつも「戦略」「マネジメント」を語っておられるイメージとちょっと違うような...。そして、インタビューのテーマに設定した「キャリア形成」や「研究活動マネジメント」についてうまくお話を伺う力がもっと自分に備わっていれば(反省)...。などなど、筆者の心の声をよそにインタビューは進んでいきました。

 しかし終盤、IL-6の精製を例に免疫学研究者としての姿勢を伺った後で、平野先生の座右の銘「目の前の山を登りきる」を耳にした時、その意味するところが自分なりにストンと心に落ちてきたのです。研究を山登りに例えると、今自分が何合目にいるかわからないから苦しいと語る平野先生。何合目かわからないのは、研究が、今まで誰も到達したことのない頂(ゴール)を目指す営みだからなのでしょう。臨機応変にその時々の状況に対応しながら、目標に向かって新しい局面を切り開いていくことがマネジメントだとするなら、「目の前の山を登りきる(註9)」というのは研究活動のマネジメントそのものをあらわす言葉だと考えられるのではないか、と思い至りました。

常に最前線・王道に身を置くことによるキャリア形成

 また、平野先生が歩んで来られた免疫学研究の道を振り返ると、途中には数々の分かれ道があったようです。例えば医学部1回生(大学3回生)の時、近藤宗平教授(放射線基礎医学)の初回講義に魅せられてその日のうちに近藤研究室への出入りを始め、医学研究への一歩を踏み出したこと。山村雄一教授(大阪大学第11代総長)の免疫学講義がきっかけとなり、医学部卒業後は山村教授のいる第三内科に進んだこと。近藤教授の紹介で、当時免疫学をリードしていた米国国立衛生研究所(NIH)に、その頃としては異例の25歳という若さで留学したこと。これら一部を挙げただけでも、平野先生は、分かれ道を見逃さず、常に自分が"最前線"と感じたところに身を置くことを即断し、それがキャリア形成につながっていることがうかがえます。胸水リンパ球の培養上清からIL-6を精製するという、自らが王道と信じることを貫く選択についても、その動機は、上述の分かれ道での選択の時と共通している印象を受けました。

「流れ」と「瞬間」、2つの時間軸を生きる

 「人間は流れの中で生きているものだから」とは、今回のインタビューの冒頭、平野先生が何気なく口にされたフレーズです。その一方、昨日や10年前は夢まぼろし、これから先のことはわからない、存在するのは今この瞬間だけなのだから、今に集中することが大切なのだとも語っておられました。このように、時間を「流れ」と「瞬間」からとらえる2つの視点を両立させることが、時機を逃さず選択し、その選択により生まれた次の流れに集中する原動力となるのかもしれません。

 選択の意味や重要性、そのタイミング等について、改めて考えるきっかけをいただいたインタビューでした。

 最後に、多忙を極めるスケジュールにもかかわらずインタビューに快く応じてくださった平野総長、インタビュアとして力を尽くしてくださった同志社大学URAの廣瀬まゆみさんに心より感謝申し上げます。


【註】
1.種々の細胞から分泌される細胞間情報伝達を担う可溶性タンパク質。
2.詳しく知りたい方は、平野先生の個人ウェブサイトの「インターロイキン6ハンティング」のページ参照。
3.大学間のURA連携の一環として今回のインタビューに協力。博士(医学)(大阪大学)。
4.生まれた時には備わっていないが、病原菌への感染や予防接種などにより後天的に獲得される免疫機構。
5.リンパ球の一種。B細胞が抗体を作るのを手助けしたり(ヘルパーT細胞)、実際に病原体に感染した細胞を殺す働きを担う(キラーT細胞)など。
6.リンパ球の一種。病原体を攻撃する抗体を作る。
7.クラフォード財団がスポンサーとなり、ノーベル賞選考機関のスウェーデン王立科学アカデミーが1982年より毎年、世界的に優れた業績を1件ずつ表彰している賞。"インターロイキンの発見、それらの特性決定と炎症性疾患における役割の探求"という基礎的研究が関節リウマチなどの炎症性疾患に対する画期的な治療薬開発への道を開いた事が評価されての受賞で、アメリカコロラド大学デナレロ教授、生命機能研究科 岸本忠三寄附講座教授(元大阪大学総長)との共同受賞。(大阪大学医学系研究科・医学部ウェブページより)
8.化学物質が生体の特定の生理的調節機能に対して作用する性質。
9.2014年4月21日開催、大阪大学未来トーク09「目の前の山を登りきる」でコンセプトを語っておられます。免疫学研究の話題も出てきます。

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【2】【みなさまからの投票受付中!】
ナレッジキャピタルのイノベーションアワードに大阪大学から2つのエントリー

 大阪・梅田のあたらしい商業テナントと知られるグランフロント大阪。その中で大きな部分を占める「ナレッジキャピタル」は商業とビジネスの複合空間になっています。こうした新しい考え方の施設が大阪駅に直結して作られた背景には、企業人、研究者、クリエーター、生活者などが行き交う場で、それぞれの知を結び合わせて新しい価値を生み出す知的創造の場を育てる意図があるそうです。大阪大学との関わりも、個々の研究者の活動や大学としてのアウトリーチ活動などを通して、さまざまに広がっています。

 ナレッジキャピタルでは今の時期に「イノベーションアワード」の選定を行っています。ナレッジキャピタルにおける大阪大学の取り組みのうち2つがノミネートされていますのでご覧ください。また、どなたでも投票いただけますので、気に入った取り組みがあれば、一票をお願いいたします。(2/28まで開催)


(岩崎琢哉/大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチーム)


ナレッジイノベーションアワード

<モノ部門>FuSA2マルチタッチディスプレイによる情報との新たな触れ合い
VisLab Osaka/大阪大学 大学院情報科学研究科

<コト部門>研究ときめき*カフェ「考える」を考える学校
大阪大学学術研究機構会議

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【3】URA関係イベント情報

○【予告】大阪大学URA整備事業報告会

2015年3月24日午後 東京都港区 虎ノ門ツインビルディング
同3月26日午後 大阪府豊中市 千里ライフサイエンスセンター
詳細が決まり次第、大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチームウェブサイトでお知らせします。


○二頁だけの読書会vol.4「現代スペインの劇作家 アントニオ・ブエロ・バリェホ―独裁政権下の劇作と抵抗
『ラス・メニーナス』などにみる、観客を取り込む戦略的舞台演出と、隠された抵抗」

https://www.ura.osaka-u.ac.jp/2pages.html

2015年3月14日(土)13時~15時、大阪梅田
定員30名、要事前申込(2月中旬受付開始予定)、無料


○広島大学研究企画室主催シンポジウム「研究力強化を推進する広報戦略」

http://prc.hiroshima-u.ac.jp/20150202/

2015年2月2日(月)13:00~16:30
広島大学学工学部B3棟2F 220教室(東広島キャンパス)
要事前申込


○SRA International 2015 Research Management Intensive The International & Canadian Section Meeting

http://srainternational.org/meeting/section/2015-research-management-intensive

2015年3月1日(日)~3日(火)
米国・ハワイ
有料、要事前登録


○【学内向け】大阪大学 平成28年度採用分日本学術振興会特別研究員説明会

(豊中キャンパス)2015年2月24日(火)14:00~16:30、大阪大学会館 講堂
(吹田キャンパス)同3月4日(水)14:00~16:30、医学部 A講堂
事前申込不要

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【4】大阪大学ホットトピック

「マッサンと大阪大学」~~阪大NOW1月号から
 現在NHKが放映している朝の連続テレビ小説「マッサン」の主人公・竹鶴政孝は、大阪大学工学部の前身である大阪高等工業学校の醸造科出身なのです!

豊中キャンパスに国政/地方選挙の「期日前投票所」を設置します
 今年春の府・市選挙から各選挙前の2日間、豊中市在住の市民・阪大の学生・教職員(不在者投票も可能)を対象に実施する予定です。

退職教授による記念講義(最終講義等)のご案内

「福島大学うつくしまふくしま未来支援センター京都シンポジウム」開催

●最新の研究の成果リリース