大阪大学 経営企画オフィス URA×IR大阪大学 経営企画オフィス URA×IR

メールマガジン

URA MAIL MAGAZINE

URA MAIL MAGAZINE vol.22

「新しいリテラシーで変わる、学術研究や大学のあり方」特集

2015年7月 発行

今月は、大阪大学文学研究科「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築クラスター」の取り組みや、オープンアクセス、オープンサイエンスにおける動向についての話題などをお届けします。

■INDEX
  1. 研究文化百景<日本文学編>

    大阪大学文学研究科「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築クラスター」が構想する日本文学研究のこれから

    ―くずし字解読学習支援ソフトをきっかけとした国際的・学際的な共同研究活性化に向けた試み
  2. オープンアクセス,オープンサイエンスにおける動向:研究成果の可視化,共有化のためにわたしたちができること
  3. 第1回学術政策セミナー-大学のこれからを考える- 開催報告
  4. 高尾正敏URAによるエッセイ「企画職としての日本型URA」

    ― 先見性と危機管理 ―

    第3の職種の本質は?
  5. URA関連イベント情報

    ●RA協議会第1回年次大会(9月1日・2日、信州大学)

    ●UNITT アニュアル・カンファレンス2015

    ●大学行政管理学会 2015年度第19回 定期総会・研究集会概要

    ●研究・技術計画学会 第30回年次学術大会

    ●SRA International Annual Meeting 2015
  6. 大阪大学ホットトピック

    ●【7/31〆切】平成27年度人文・社会科学系研究成果の国際的発信支援プログラムの募集

    ○南部陽一郎 大阪大学特別栄誉教授のご逝去について

    ○平野俊夫総長の最終講義を開催(動画あり)

    ●夏季一斉休業の実施

    ○国立大学第1号!大阪大学からの出資金100億円が認可されました

    大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社が設立予定の投資ファンド、8月から投資業務開始予定

    ●大阪大学の主催で環太平洋大学協会(APRU)第19回年次学長会議を開催

    ●「七大学若手会講演会」大阪で初開催(講師:石黒浩特別教授)

    ○最新の研究の成果リリース
  7. 次号のお知らせ

【1】研究文化百景<日本文学編>
大阪大学文学研究科「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築クラスター」が構想する日本文学研究のこれから
―くずし字解読学習支援ソフトをきっかけとした国際的・学際的な共同研究活性化に向けた試み

大阪大学文学研究科は、世界に開かれた人文学研究を推進するために、従来の専門分野の枠にとらわれない研究組織として、平成26年度より「国際的社会連携型人文学研究教育クラスター(略称:人文学クラスター)」Global Linkage Clusters for Humanities (GLinCH)を創設しています 。

今回は、現在活動している5つのクラスターの1つ、「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築クラスター(以下、歴史的典籍クラスター)」の代表、飯倉洋一教授にお話を伺いました。

(川人よし恵、クリスチャン・ベーリン/大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチーム)

GLinCH_iikura.jpg 
飯倉洋一教授(大阪大学文学研究科 歴史的典籍クラスター代表)

歴史的典籍クラスターの活動内容・財源

日本語の歴史的典籍とは、1867年以前(江戸時代以前)に変体仮名などの古い日本語の字体で書かれた書籍のことです。

GLinCH02.JPGGLinCH03.jpg
GLinCH04.JPGGLinCH05.jpg
歴史的典籍の実物(版本、大阪大学附属図書館所蔵。上2枚は『南総里見八犬伝』、下2枚は『去来抄』。江戸時代の大衆的な書籍には読み仮名がふられているものが多い)

いきなりお金の話からになりますが、まずは私たちの当面の活動資金についてお話します。そもそも歴史的典籍クラスターは、国文学研究資料館が平成26年度から10年計画で推進する「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築」の研究拠点(20機関)のひとつとして大阪大学が選ばれたことがきっかけとなり、立ち上がりました。10年間の予算要求総額88億円であったこの大型プロジェクトは、『国書総目録』所載の約50万点の日本語の歴史的典籍のうち、約30万点の画像データベースを作成し、その画像データベースにかかわる国際共同研究ネットワークを構築することを目的としており、私たちのクラスターにもそのための予算が配分されています。それに加えて、科研費挑戦的萌芽研究(代表者:飯倉洋一、研究課題名:「日本の歴史的典籍に関する国際的教育プログラムの開発」)の資金配分と、文学研究科クラスターとしての活動費を原資としています。

具体的な活動に話を移しますと、私たちは、当初、「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築」の拠点大学のひとつとして、歴史的典籍画像のデータベース構築と、それを活用した国際共同研究実施を中心に進めていく計画を立てていました。画像データベースは異分野融合的であることが望ましいとされているので、大阪大学の懐徳堂文庫および適塾記念センターが所蔵する理学・医学の歴史的典籍を中心に、データベース化や学問史的評価の検討を進める予定でした。しかし残念ながら「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築」自体の予算が大幅に減額されてしまったため、コストがかかる歴史的典籍画像データ作成を進めるのが難しい状態になりました。そこで現在は、科研費挑戦的萌芽研究のプロジェクトをベースに、海外の日本研究者等がくずし字解読能力を身につけるための学習支援ソフトの開発に活動の重点を移しています。

歴史的典籍クラスターのメンバーとしては、教員8人、リサーチアシスタント3名という体制を取っています(平成27年7月現在)。

GLinCH01.JPG
飯倉洋一教授(写真右から二人目)と、同じく歴史的典籍クラスターメンバーの岡島昭浩教授(写真右)、康盛国特任助教(左から二人目)、有澤知世さん(写真左、リサーチ・アシスタント)

海外や異分野でくずし字解読能力への関心が高まっている時機を捉えての取り組み

このくずし字学習支援ソフト開発の着想は、歴史的典籍のくずし字の解読能力向上を求める機運が国内外で高まっていると感じる機会が重なったことから生まれたものです。例えば、先ごろ講師として招かれた京都大学の古地震研究会では、理学研究科の研究者等が古地震や自然災害に関する史料を解読されていて、自分たちでくずし字を読むスキルを身に付けたいと思っておられると知り感銘を受けました。また、ケンブリッジ大学やハイデルベルク大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)といった海外の著名な大学でも、くずし字教育やくずし字学習アプリへの関心が高まっているという情報が立て続けに飛び込んできました。こうした時機を逃さずにくずし字解読学習支援ソフトの開発を進めることで、学際的あるいは国際的な歴史的典籍研究推進に貢献したいと考えています。

現在は、海外の日本研究に関わる人々および、日本文学の枠を超えた異分野領域の人々が、歴史的典籍および資料の利用をどれだけ望んでいるか、またどのように利用したいと考えているかについてのアンケート調査と、江戸時代の版本(板木による木版で印刷された和綴じ本)を標準としたくずし字解読学習支援ソフトの開発を同時並行で進めています。ソフトの主な対象は外国人研究者・学生で、変体仮名を50音順に表示する「辞書的機能」と、実際の文字を読む訓練ができる「問題集機能」を持たせる予定です。ソフトが試作できたら、くずし字解読を含めた歴史的典籍を扱うための基礎知識習得のためのワークショップを行う他、平成28年2月には、国内外からゲストを招いてのくずし字教育に関する国際シンポジウムの開催も決まっています。

"くずし字リテラシー"向上をきっかけとした国際・異分野融合的な共同研究活性化~日本文学研究を新たな地平へ

日本における古典文学研究は、原文献資料を用いた文献学的アプローチが主流です。一方、海外に目を向けると、原文献資料を入手しやすい環境が整っていないため、活字化された資料に頼ってほとんどの研究が行われていることに加え、学問として理論的方法が重視される傾向も相まって、一般に文献学的アプローチでの日本の古典文学研究を根付かせづらいと言えます。日本の研究者と海外の研究者が議論を共有しづらいこうした状況には危機感を感じてきました。

私たちの試みにより、海外の研究者の "くずし字リテラシー"が高まり、日本人と同じ土俵で研究できる人が増えることで、これまでになかった様々な国際共同研究が生まれることを期待しています。また、理系研究者等との異分野融合的な共同研究につながる可能性もあります。どちらの場合も、日本の古典文学研究者自身の意識にも変化をもたらすでしょう。歴史的典籍クラスターの活動を進めながら、こうした日本文学研究の新たな地平を思い描いています。

最後に、より大きな話になりますが、日本文学研究そのものがスクラップアンドビルドされることを余儀なくされる時期が近づいていることは否定できません。海外では「日本文学」ではなく、「東洋文学」または「アジア言語文化」などとくくられ、中国文学、日本文学など対象地域が異なる研究者間での交流が当たり前に行われています。しかし戦後日本では、専門性の追究が重視された結果、学問分野の細分化が進み、分野間の交流はほとんど無く、お互いの研究内容や論点がわからない状況に陥ってしまいました。研究者人口が減少している今、このままでは、当該分野の専門家が2〜3人しかいないという分野も出てくるでしょう。こうした学問の状況は、今後変っていかざるをえません。そういう将来を見据えた時に、歴史的典籍を共有して学際的な交流を図ることをひとつの目的とする本クラスターの活動は、意義をもってくると考えています。

INDEXに戻る


【2】オープンアクセス,オープンサイエンスにおける動向:
研究成果の可視化,共有化のためにわたしたちができること

2015年3月,内閣府より「国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会」の6回にわたる会議を総括する報告書が発刊されました(注1)。
本報告書によると,オープンサイエンスとは「公的研究資金を用いた研究成果(論文,生成された研究データ等)について,科学界はもとより産業界及び社会一般から広く容易なアクセス・利用を可能にし(中略),イノベーションの創出につなげることを目指した新しいサイエンスの進め方」(注2)とされています。
公的助成機関が研究成果のオープンアクセスを助成の条件にするという流れは,数年前から世界的な潮流となっています。例えば,アメリカでは2008年から,国立衛生研究所(National Institute of Health,以下NIH)の助成を受けた研究論文はその最終稿をPubMed Centralというプラットフォームで公開することが義務付けられています。ヨーロッパでは,EU内の研究・技術開発枠組み(Framework Programme)が2013年まで7次に亘り計画実施されてきましたが,最終のFP7(2007-2013)の助成を受けた研究論文については一部の領域でオープンアクセスが求められ,論文として発表された成果は現在も順次オープンアクセスになっています。
また,個々の機関がオープンアクセスをポリシーとして宣言する例も世界中で見られます(注3)。日本では例が少ないのですが,最近,京都大学が全学のオープンアクセス方針を打ち立て(注4),新聞記事にも取り上げられるなど大きな話題になりました。
2000年代にはオープンアクセスの対象は論文が中心でしたが,研究の過程で生成されるオリジナルデータについても言及されつつあります。最近は助成機関のポリシーとして,データ管理計画書を出すこと(注5)や,そのデータのオープンアクセスを求める例(注6)もあり、これらをもとに,研究者,研究機関,助成機関,成果物といった研究に関連する様々な情報をリンクさせながらオープンにし,全体の可視性を持たせ,さらなるイノベーション等につなげていく動きが顕著になっています。この学術研究に関する情報の全体的なオープン化は,国や地域全体のイノベーション促進,可視化による研究資金の効率的な配分という観点から行われていますが,その根底にあるのは,オープンアクセスによる学術成果の共有化だといえます。

オープンアクセスとは,学術研究の成果物に対して,誰もが,即時に,無料で利用または再利用可能な状態であることをいいます。経済的や身分的な障壁なくこれらの成果を利用できることで,新たな研究につながり,様々な知見の共有が容易になります。
研究者が自分の研究論文をオープンアクセスにする方法は大きく分けて2つあります。ひとつは,オープンアクセス誌への投稿です。これは従来の購読モデルと異なり,著者の側が論文加工料(Article Processing Charge,以下APC)を支払うため,読者は無料で本文にアクセスできます。APCはジャーナルや出版者,分野によって異なります。オープンアクセス誌のタイトルは増え続けており,阪大の研究者も多く投稿があるようです。
もうひとつの方法はセルフアーカイブといい,機関等サーバや著者のウェブサイト等で自らが論文等を公開するやりかたです。多くの大学は機関リポジトリという論文保存・公開用のサーバを持っています。大阪大学では「OUKA」(注7)という名称をもち,阪大の研究者個々人の論文やプレゼンテーション,学内刊行の学術雑誌をホストしています。この機関リポジトリは大学図書館が運用を担当しているケースが多いです。実は大学図書館界では,学術成果の収集と利用だけでなく,著者の発信部分のサポートも行っていくという動きが10年ほど前から始まっており,機関リポジトリもインフラとして定着しつつあります。
オープンアクセス誌への投稿は,研究者にとっては従来の投稿の手順と変わらず論文をオープンアクセスにすることができ,簡便な方法といえます。但し注意すべきは,購読誌は依然として残り続け,ともすると学術情報の発信と利用の両面で費用がかかりかつ値上がりする可能性があるということです。
オープンアクセスの実現にかかるコストは利潤第一であってはならず,また,著者や研究に携わる者が自由に利用,再利用できることが前提です。基本的には著者自身が論文をはじめとする成果物の権利をもち,コントロールできるという状況にあって初めてオープンアクセスが実現できると筆者は考えています。

ここまで述べたことは自然科学系に寄った内容ですが,従来紙で流通していた資料のデジタル化とインターネット上での共有は,人文科学系の研究行動にも大きな転換をもたらしていると言えます。すなわち,これまで紙でしか存在せず一般にはアクセスの難しかった一次資料をデジタル化して共有し,テキストをウェブ上で検索可能にし,翻刻,翻案等を共同で行うプロジェクトが世界的に複数立ち上がっています。デジタルヒューマニティーズと呼ばれる活動の多くがこのような形態を取っているように見られます。ここでは個々人の研究のユニーク性はそれほど問われず,プロジェクトに関わる構成員(コミュニティ)全体での知の増加,向上を図り,なおかつその成果を一般に向けて発信し,様々に活用される基盤を作るという作業が行われています。オープンアクセスを前提にした研究活動の範囲が広がったと解釈できるのではないでしょうか。いずれにしても,大学(や研究機関)の研究によって生成される成果に対し,共有を前提としてデジタルでどのように管理し,保存していくか,またそのための費用をどのように確保していくかは個々の機関と学術研究に関わるすべてのコミュニティで当面の課題となるでしょう。

最後に,機関リポジトリに搭載可能な研究成果は論文中心でしたが,研究情報のオープン化の流れを受けて,研究データの搭載についても検討が始まっています。欧米では既に,大学図書館でどのように研究データの管理とオープンアクセスを扱うか,10年以上の経験があります。イギリスにあるDigital Curation Centre(注8)はその筆頭に挙げられますし,アメリカのパデュー大学の機関リポジトリでは,画像,テキストデータ,ソフトウェアソースコードなどが搭載できるようになっています(注9)。日本でも,冒頭に挙げた内閣府の報告書で,大学・公的研究機関の図書館,機関リポジトリがオープンサイエンス実現のためのインフラとして位置づけられています。国内の機関リポジトリもデータの搭載を始めており,OUKAでも画像データの実績があります。
図書館自体が学内共通のプラットフォームになる位置にいますので,研究成果の発信についても,研究者や教員の方々,研究支援業務の方々と,様々な研究の成果物をどのように管理し公開していくか,まずは研究のスタイルやどんな形の成果物があるのか,などを含め,幅広い議論を始められればと考えています。

profile_tsuchide.jpg

(土出郁子/大阪大学附属図書館 総合図書館資料管理主担当)


<注>
1 内閣府「国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会 」
 報告書PDFファイルへのリンクがある。
 http://www8.cao.go.jp/cstp/sonota/openscience/(accessed 2015-06-22)
2 現段階ではOpen Scienceという語自体は様々な意味に用いられており,明確な定義はまだ定まっていないと言える。以前にはデータの共有などに基づき,職業研究者だけではなく在野の研究者が研究プロジェクトのある部分を担うこと(Citizen Science)を示す文脈もあった。また,ECのHorizon2020のページは「Open Science(Open Access)という見出しをつけており,Open Access をより広くとらえた概念と位置付けている。一方,公的助成を受けた研究成果の公開は一般の人への説明責任という文脈からPublic Accessと称されることもある。
3 ROARMAP:オープンアクセスポリシーを宣言している世界の大学・研究機関,研究助成団体を見ることができる。自己申告制で登録する。
 http://roarmap.eprints.org/ (accessed 2015-06-22)
4 「「京都大学オープンアクセス方針」を採択しました。(2015年4月28日)」
 http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/events_news/department/library/news/2015/150428_1.html (accessed 2015-06-22)
5 たとえば米国科学財団(NSF)の研究助成事業。
 http://www.nsf.gov/news/news_summ.jsp?cntn_id=116928 (accessed 2015-06-22)
6 欧州ではFP7の後継として研究とイノベーション促進のための助成プログラム(Horizon2020)が2014年から実施されており,この助成を受けた研究については,論文と,その研究過程に生成されたデータについてもなるべくオープンアクセスで公表するよう義務付けられた。
7 大阪大学学術情報庫「OUKA」
 http://ir.library.osaka-u.ac.jp/ (accessed 2015-06-22)
8 http://www.dcc.ac.uk/digital-curation (accessed 2015-06-22)
9 Purdue University Research Repository
 https://purr.purdue.edu/ (accessed 2015-06-22)

INDEXに戻る


【3】第1回学術政策セミナー-大学のこれからを考える- 開催報告

gakujutsuseisaku_seminar_01.jpg

大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室では、昨年度まで、科学技術政策に関連するテーマについて広く学内外からの参加者と共に考える「科学技術政策セミナー」を開催して参りました。今年度からは、これまで以上に多くの事務系職員の方々に参加していただきやすいよう、大阪大学事務職員研修の一環として開催することとなりました。また、人文・社会科学系研究も視野に入っていることをより明確に示すために、セミナー名称を「学術政策セミナー」と変更しました。

平成25年に文部科学省が出した「国立大学改革プラン」以降、国立大学における資金配分の仕組みそのものを根本的に見直そうとする動きが出ています。特に、産業競争力会議等でも大学政策・学術政策・科学技術政策・イノベーション政策が一体となった総合的な政策について議論がなされており、大学は配分された資金をもとに人財を含む知的資産をどのようにマネジメントしていくかを真剣に考えなければならない時期にきています。

このような問題意識の下、「リサーチ・アドミニストレーターを育成・確保するシステムの整備」(リサーチ・アドミニストレーションシステムの整備)事業を所管されている文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課 大学技術移転推進室長の山下洋氏との意見交換を通じ、「研究経営人財育成にむけて」というテーマで、第1回学術政策セミナーを開催することとなりました。

開催日の7月10日(金)は梅雨の合間のよく晴れた暑い日にもかかわらず、学内外から46名(職員研修15名/学内URA13名/学外URA9名/その他9名)の参加がありました。



プログラム

14:30 開会挨拶 相本三郎(理事・副学長/大型教育研究プロジェクト支援室長)

14:35 講演:
    「法人化を迎えた時に考えたこと、今、大学の職員の皆さんに期待すること」
                 /藤吉尚之(文部科学省官房人事課人事企画官)

平成6年科学技術庁入庁。平成12年より文部省生涯学習局にて教育の情報化を担当。平成14年度から3年間、九州大学事務局総務課長として、法人化、大学統合、キャンパス移転等に取り組む。平成17年から内閣府総合科学技術会議事務局、文部科学省研究開発局を経て、在仏日本大使館勤務。帰国後、量子放射線研究推進室長を経て、平成23年9月より大臣秘書官。その後、子ども安全対策室、原子力損害賠償対策室を経て、平成26年4月より現職。

15:05 事例紹介1:
    「大学の事務職員から第3の職種へ・・なぜ、そうしたのか」
          /岡田朗裕(名古屋大学法務室学術主任専門職)

平成11年名古屋大学採用。主に人事業務、他大学へ出向時は会計業務に従事。平成19年名古屋大学法科大学院修了。司法修習を経て平成20年弁護士登録(愛知県弁護士会)。平成21年株式会社豊田自動織機法務部出向。平成22年日本司法支援センター愛知地方事務所(法テラス愛知)出向。平成23年より現職。  

    事例紹介2:
    「文部科学省の研修生として学んだこと、考えたこと(研修報告)」
       /小林加奈(大阪大学研究推進部産学連携課産業連携企画係)

大阪大学外国語学部卒業。2009年大阪大学採用後、国際部学生交流推進課、人間科学研究科庶務係、工学研究科総務課人事係を経て、2014年度文部科学省行政実務研修生として、科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課 大学技術移転推進室へ配属。リサーチ・アドミニストレーター(URA)を育成・確保するシステムの整備に係る事業、産学官連携コーディネーター活動ネットワークに係る事業等に従事。2015年4月より現職。

    事例紹介3:
    「お二人の事例紹介の補足として...私が考えていたこと、考えていること」
        /山下洋(文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課
             大学技術移転推進室長) 

平成6年 文部省入省。平成10年より内閣内政審議室で、国旗・国歌法の制定、教育改革国民会議等を担当。平成13年より文部科学省生涯学習政策局にて教育改革や理科離れ対策等を担当。平成15年より名古屋大学総務課長、企画課長として、法人化、組織運営、計画評価、法務、業務改善等を担当。平成18年より内閣府総合科学技術会議事務局、文部科学省ナノテクノロジー・材料開発推進室長、地域・学校支援推進室長、内閣府行政刷新会議事務局、内閣官房行革事務局企画官等を経て、平成26年9月より現職。

15:55 休憩

16:05 全体討論
    登壇者:藤吉尚之、岡田朗裕、山下洋、小林加奈、
        花岡宏亮(大阪大学研究推進部研究推進課 専門職員)
    進行:池田雅夫(副学長/大型教育研究プロジェクト支援室 統括マネージャー)

16:55 閉会挨拶



前半は、それぞれ文部科学省から大学への出向経験や大学から文部科学省への出向経験をされた方や大学を休職して専門性を身につけまた大学に戻られた方など、雇用された組織に軸足を置きながらもご自身のキャリアや専門性を磨かれている方からのお話でした。

みなさんのお話を受けた後半の全体討論の中では、国立大学法人化が話題の一つとして挙がりました。国立大学法人化後に大学で働きはじめた方からの「国立大学の法人化とはそもそもなんだったのか?当初の意図は実現できたのでしょうか?」という質問に対して、藤吉氏からは「法人化の意図は、大学への期待を実現するための仕組みをつくることだったと思います。いま、いろいろな場所で大学への期待や批判があるということは、当時の目的が達成されていないからだと思います。」とコメントがありました。更にフロアからは「なぜ、そのような過去のことばかり話題にしているのか?」というコメントもあり、国立大学法人化を含めた大学政策について改めて学ぶ場の必要性を感じました。また、相本三郎理事・副学長(基盤研究/リスク管理担当)からは、ご自身の経験に基づき、「法人化を受けての教員系の意識の変化が充分でなかった」点が課題のひとつであるという指摘をいただきました。

写真のようにオープンな印象で比較的議論しやすい会場だったため、大学で働く様々な構成員がひとつのフロアで意見を交わすことができました。事務職員研修の一環で参加された方からは「日頃、自分が感じていたモヤッとした違和感の正体が、問題点として意識できたように思う」「文部科学省が求めるこれからの大学と、大学職員が理想とするこれからの大学という2つの視点から今後の大学のあるべき姿を示唆いただき、勉強になりました」「部局で仕事をしていると理事の方と今回のような物理的にも発言的にも近い距離に身を置くことがなかなかないため、その意味でもこのような貴重な場に参加できて良かった」といったご意見などが多数寄せられました。幅広い方を参加対象者として設定しているセミナーを研修に位置づけたことの手ごたえと同時に、大学組織が21世紀においてどのような役割を果たすのかを俯瞰的に議論をするためにも様々な大学の構成員と議論をすることの必要性を改めて感じました。

引き続き、学術政策を中心に据えながらも、多くの人が参加し「大学のこれから」を考えられるテーマでセミナーを企画していきたいと思います。


(福島杏子/大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室 URAチーム)

INDEXに戻る


【4】高尾正敏URAによるエッセイ「企画職としての日本型URA」
― 先見性と危機管理 ―
第3の職種の本質は?

【要旨】

研究大学のURA機能のひとつとして、経営企画を担当すべきかどうかについて私見を述べた。経営企画職をジェネラリストと定義すると、URAが本質的にスペシャリストであることと矛盾する。今後必要度が高まる学長のリーダーシップによる新規学術分野・領域の開拓には、ジェネラリストとスペシャリストの協働が必要であり、協働作業場所として「第3の職場」の設置を考えるべきである。また企画職、URAについては職能化が難しいので、人材育成については今後さらなる検討が必要である。

Summary:

The author's opinion for the URA extra jobs for responsible to corporate management in the research university was proposed. Staffs of corporate planning are to be generalists, but research administrators essentially are to be specialists. The university president is expected to lead whole organization in educational and research activities. Especially, he should exploring novel academic field and promoting the university research projects. Both planning staff and URA collaborate in the same office just under the president, in order to support president projects.

本文はPDF形式でお読みいただけます。

OU-URA-mailmag-201507-essay.pdf


(高尾正敏/大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチーム、同未来戦略機構 次世代研究型総合大学研究室)

INDEXに戻る


【5】URA関連イベント情報

●RA協議会第1回年次大会

http://www.rman.jp/meetings2015/

2015年9月1日・2日
信州大学長野(工学)キャンパス
要事前申込、有料
大阪大学が担当するセッション
-「人文社会系の研究力ってどうはかるの?」、
-「これからの大学運営-URAはなにができるのか-」


●UNITT アニュアル・カンファレンス2015

http://unitt.jp/

2015年9月4日(金)・5日(土)
東京理科大学 葛飾キャンパス
要事前申込、有料(会員優待などあり)


●大学行政管理学会 2015年度第19回 定期総会・研究集会概要

http://juam.jp/f/entry/about

2015年9月5日(土)・6日(日)
関西大学 千里山キャンパス
要事前申込、有料


●研究・技術計画学会 第30回年次学術大会

http://jssprm.jp/wp/

2015年10月10日(土)・11日(日)
早稲田大学・西早稲田キャンパス
詳細が決まり次第学会ウェブサイトで公開


●SRA International Annual Meeting 2015

http://www.sraannualmeeting.org/events/2015-sra-international-annual-meeting/event-summary-f3189ad393a043cca343e41570505f1b.aspx

2015年10月17日~21日
ラスベガス(米国)
要事前申込、有料

INDEXに戻る


【6】大阪大学ホットトピック

【7/31〆切】平成27年度人文・社会科学系研究成果の国際的発信支援プログラムの募集

南部陽一郎 大阪大学特別栄誉教授のご逝去について

平野俊夫総長の最終講義を開催(動画あり)

夏季一斉休業の実施

国立大学第1号!大阪大学からの出資金100億円が認可されました大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社が設立予定の投資ファンド、8月から投資業務開始予定

大阪大学の主催で環太平洋大学協会(APRU)第19回年次学長会議を開

「七大学若手会講演会」大阪で初開催(講師:石黒浩特別教授)(8月8日)

○最新の研究の成果リリース

INDEXに戻る


【7】次号のお知らせ(予告なく変更する可能性があります)

今年は少し早めに科研費について特集します。
新たに始まった制度枠組みや、大阪大学の学内支援制度などを紹介する予定です。


INDEXに戻る

メールマガジンのバックナンバー一覧はこちら

【企画・編集・配信】
大阪大学経営企画オフィスURA部門(旧 大型教育研究プロジェクト支援室)
川人・岩崎

◎配信停止やご意見・ご感想はこちらまで


info-ura@lserp.osaka-u.ac.jp

〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-1 大阪大学産連本部B棟(2階)
https://www.ura.osaka-u.ac.jp/
地図はこちら

2020年10月30日(金) 更新
ページ担当者:川人