大阪大学 経営企画オフィス URA部門

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URA MAIL MAGAZINE

vol.25「備えの秋。科学技術政策/英語論文執筆/人社系研究倫理」特集(2015年10月発行)

2015年10月 発行

おかげさまで阪大URAメルマガは、今月号で創刊3年目に入りました。
ご愛読いただきありがとうございます。
今後もみなさまの"備え"に使っていただけるような媒体をめざしますので、
引き続きよろしくお願いいたします!


■INDEX
┣【0】大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URA公募中です
┣【1】日本の科学技術政策ってどうなってるの? ~経済の好循環との関わり~
┣【2】若手研究者のための英語論文執筆スキルアップセミナー:これからの研究成果の国際的発信支援を考える
┣【3】人文・社会科学のための研究倫理シンポジウム「研究公正と研究倫理を問い直す―理念・制度・教育―」参加報告
┣【4】URA関連イベント情報
┃   ●大阪大学/第2回学術政策セミナー「なんのために研究をするのか-社会・学術への貢献」(11月5日開催)
┃   ●大阪大学/Technology Assessment In the Netherlandsを開催します。(11月10日開催)
┣【5】大阪大学ホットトピック
┃   ●国際シンポジウム「南部陽一郎の物理学」(11月16日開催)
┃   ●大阪大学の集い(東京)のご案内(12月5日開催)
┃   ●大阪大学シンポジウム2015「成熟する社会の生態系 クリエイティブアイランド中之島の共創に向けて」(12月20日開催)
┃   ○「環境報告書2015」を公表しました。
┃   ○最新の研究の成果リリース
┗【6】次号のお知らせ





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【0】大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室
チーフ・リサーチ・アドミニストレーター(特任講師(常勤)または特任研究員(常勤)の公募
締切:平成27年11月25日(水)午後5時まで(必着)
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http://www.ura.osaka-u.ac.jp/news/201510.html

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【1】 日本の科学技術政策ってどうなってるの?
~経済の好循環との関わり~
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日本の科学技術政策って全体的にはどうなってるの?もっと大きな意味で出口を考えてみよう。経済社会の発展、国民の福祉の向上といってもわからない。未来の日本は?今ある大企業は?どうなっているか。科学技術だけじゃ何も始まらない。社会制度とパッケージで考えてみる。

科学技術イノベーション総合戦略2015に込められた狙いと政府内部のもがき。2020年東京オリンピック・パラリンピック大会に科学技術がどう関わっていくのか。そして科学技術の社会実装の成果をもって経済の好循環とともに研究開発投資の好循環を目指したい。

(田中宏/大阪大学産学連携本部 副本部長・教授)
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○日本の科学技術政策って一体どうなっているの?大学改革とどう絡んでいるの?

日本のバブル(作れば何でも売れた時代)が弾け、20年前に「我が国における科学技術の水準の向上を図り、もって我が国の経済社会の発展と国民の福祉の向上に寄与するとともに世界の科学技術の進歩と人類社会の持続的な発展に貢献することを目的」として科学技術基本法が制定されました。なんだか随分お堅い文章ですが、今考えるとターニングポイントを捉まえた書きぶりだなと思えます。この法律を根拠に5年ごとに科学技術基本計画が策定されてきていますが、第1期の研究予算拡充とポスドク1万人計画から始まり、その後、特定分野への戦略的重点化や競争的資金の拡充、最近は課題達成型アプローチに変化してきています。この基本計画を踏まえて、確かに、今は伸び悩んではいるものの国の研究開発投資は社会保障費の伸びを凌駕してきました。また、2000年以降日本人のノーベル賞受賞者は毎年期待できるような状態になりつつあります。しかし一方、出口指向を求めすぎるが故に特定分野への研究資金の偏在や評価疲れに至り、特に大学では基礎研究力の低下が危惧されています。

これからの10年、20年後に現在の研究開発投資がどのような成果になって戻ってくるでしょうか。科学技術基本法の目的にあるように、最終目的は「我が国の経済社会の発展と国民の福祉向上」が一丁目一番地です。しかしながら、経済社会活動はグローバルになっていること、国民の価値観は多様になっていることから、これらの成果を計測すること自体難しくなっていると言わざるを得ません。また、「日本再興戦略」は大学改革を成長戦略の施策の一環として位置付けており、大学の持続的な競争力の確保、高い付加価値の創出が求められています。大学改革の全てとは言いませんが、おおよそ科学技術で括られているものについては、やはり「経済社会の発展と国民の福祉向上」につながっていくものを意識する必要があると思います。特に、激しさを増す国際競争の中、産業界は基礎研究を行う体力が失われつつあり、大学に大きな期待をもっています(それなら産業界は応分の寄与をしてもらいたいという声も多くありますが)。ただし、これまでの科学技術基本計画では、このつながりをどのようにデザインしていくのかという深掘りが不足しており、産学連携、拠点作りという言葉でしか表現できていなかったと思います。


○求められている科学技術の出口は何か?

まず、先程述べた国の経済社会的な発展とはどういうことでしょうか。国民総生産(GDP)はその国の中で生み出された付加価値の総和になりますが、中国の急激な伸びは別として、一般的には暫時増加することが経済が回っている証拠になります。先進国はみなそのようになっていますが、日本だけは20年前からGDPが500兆円のまま停滞しています。先般、安倍総理が600兆円を目指すといったのもこのことを意識しています。GDPが伸びなければ経済成長していないことと同じになります。

図1:日本の産業構造と取り組むべき政策課題
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では、何をもってGDPを増加させていくことができるのでしょうか(図1)。一つは貿易収支の改善です。原発停止により化石燃料の輸入が急激に拡大しています。付加価値をつけるどころか富の流出をし続けると共に地球温暖化を助長しています。一方で再生可能エネルギーの活用が叫ばれていますが、一番の問題は自然由来なので安定電力供給のためのベース電源にならないということです。蓄電池で蓄えるという手段も考えられますが、これでは巨大な蓄電池が必要になり、最も留意しなければいけないエネルギー製造単価が高くなってしまいます。そこで科学技術の力で、再生可能エネルギーを使って効率よく水素を取り出し、これを水素原子を多く含むアンモニアや有機ハイドライドのような液体に変換して貯蓄することができれば、取り扱いも楽ですし、既存のガソリンスタンドの施設を使って活用できる道が拓けます。これにより今までエネルギーの輸入大国だった産業構造が変化し、貿易収支の改善と地球環境保護をセットで行うことができます。また、生産人口の減少や海外へ生産現場が出ていったことにより国内で生み出される付加価値が下がっていることに対して、ロボット活用も含め革新的な設計・生産で持ち直すか、情報科学を駆使したサービス産業の新興に活路を見出す必要があります。

一方、付加価値の総和に対応する富の配分である消費・投資・政府支出に視点を移せば、超高齢化社会により益々増大する社会保障費や老朽化インフラを維持管理していくための公共投資の抑制が欠かせません。後者については既に新しいインフラ整備は激減し、ほとんどがメンテナンス工事に移っています。これら2つについて、人口ピラミッドと道路インフラの使用年数ピラミッドを比較することを想像してみてください。驚くほど同じ形をしていることが想像できますでしょうか(図2)。確かに日本は高度医療の技術が発達してきましたが、これを全て保険診療で行ったらどうなるでしょうか。並行して、高度医療、高度メンテナンス工事にならないための工夫が持続可能な社会を作るのです。このためには未病状態を長く続けること、多少の病気を抱えても地域で見守れる地域包括ケアが必要になります。このとき省電力なウエアラブル機器とビックデ―タ解析等が必要な技術となります。一方、インフラについても中央高速道路の天井版崩落事故以来5年に1度の目視点検が必要になりました。例えばトンネルでこれを実施し、道路を封鎖して足場を組んで点検をするとなると、夜間工事もしくは迂回対策など大きな社会コストを伴ってきます。そこで道路を運用したままドローンなどロボット技術による点検が活用されてくることになります。

図2:社会保障人公共事業費の類似性 どちらもメンテナンス
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以上のことはほんの一例ですが、全て科学技術の導入によって儲ける主体が変わり、すなわち既存の業種が市場から退場して新たな業種が立ち上がり、産業構造が大きく変わることが予想できると思います。ついでに言うのなら、ゲームチェンジには既存大企業が抵抗勢力であり、カーブアウトができる大企業、ベンチャー企業が鍵となってきます。


○科学技術をどうやって社会実装につなげるか?

科学技術を社会実装すれば、経済社会の発展、GDPの向上が見込め、富の配分も政府支出(すなわち国民の税金)の伸びではなく、投資だったり消費につながることにより、経済成長の好循環が図れる社会になると考えられますが、では、どうすることにより科学技術を社会実装していくのでしょうか。

最近の例を見てみましょう。再生可能エネルギーを促進するため電力買い取り制度を導入しましたが、買い取り価格が高く固定されたため、投機のような現象が起きました。さらに太陽光発電のパネルを安く中国が供給しだしたので、結局儲けたのは中国でした。お金を払わされたのは電力利用者、つまり国民です。そして太陽光発電の効率の良い新しい方式が開発されても、それを社会実装するための出口がない状態でした。いくら素晴らしい発明・発見が生まれてもこれではどうしようもありません。日本の科学技術が持続的に発展していくためには、買い取り価格に年数に応じて低減率をかけ、効率の良い製品が導入される余地をつくるという、制度とのパッケージ化が必要なのです。さらに、これまで日本は単体(技術)として優秀なものを生み出してきましたがこれらを組み合わせたサービス(ビジネス)としては後塵を拝してきています。技術貿易収支を見てみるとそこそこの線をいっています(つまり輸出が輸入を凌駕している)が、各々のボリュームを見てみると米国、ドイツと比較して圧倒的に少ないことがわかります(図3)。これは自前主義で技術開発していることを示しており、他国は技術を輸出もしているが輸入も多くしているということです。世界から技術を集めてシステムとしてサービスを組み上げる、その頂点をハンドリングできるからこそ、付加価値が自国にたまっていくのです。したがって、単に科学技術を振興するだけでなく、システムとして全体をみて、そのシステム全体でバリューをどこに求め、そしてその構成要素の中のうちどこで稼ぐのかということを考えた上で科学技術の振興を進めないといけないと考えます。

図3:主要国におけるミディアムハイテクノロジー産業の貿易額の推移
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○科学技術イノベーション総合戦略とは?

そこで今年度策定した「科学技術イノベーション総合戦略2015」はシステム化ということにフォーカスして各府省の予算要求を誘導することとしました。この総合戦略とは一体どういう位置づけのものなのでしょうか。

科学技術基本法においては5年ごとの計画を定めることとなっており、これが「第○期科学技術基本計画」と呼ばれています。この計画に基づくものは研究開発投資予算であったり制度であったりするわけですが、かつてはこの5年計画に基づき各府省が各々毎年予算を要求したり制度整備を行ったりした結果、PDCAを5年に1回しか回せないという問題がありました。結果としてバラバラの予算が計上され、施策の重複やポテンヒットが生まれてしまいます。これまでも総合科学技術・イノベーション会議(事務局は内閣府)はいろいろな方法で毎年の各府省の予算等をとりまとめてきましたが、9月に概算要求として各府省から出てきたものを審査していたこと、また、年末に向けての財務省の査定や行革会議の事業レビュー(民主党時代に「仕分け」とも言われていたもの)とも重複することから、なかなか司令塔機能を発揮できなかった歴史があります。各府省は自分で要求できる枠をギリギリ使って概算要求してくるので、査定官庁以外から要求後に何を言われても引っ込むことはありません。そこで、安倍内閣からは、次年度予算要求に向けて政府方針を策定する、経済財政諮問会議による「経済財政運営と改革の基本的指針(いわゆる骨太方針)」、産業競争力会議による「日本再興戦略」を策定する6月にあわせて、これら2つの方針・戦略の技術的根拠となる「科学技術イノベーション総合戦略」を閣議決定し、それに基づいて各府省は9月の概算要求を行うように仕組みを変えました。総合科学技術・イノベーション会議の司令塔機能の発揮につなげることを意図した変更です。当然ながら、閣議決定ということは全閣僚の合意が必要ですから総合戦略策定に当たっては春先から各府省と議論を深め、各府省の役割分担まで書き込んで閣議決定しています。

今般の総合戦略2015はこれまでの各府省との対話に加えて、システムとして全体をみて、そのシステム全体でバリューをどこに求め、そしてその構成要素のうちどこで稼ぐのかということを意識して議論の結果を書き込んでいます。さらに、総合戦略2015策定後、各府省が概算要求する前の夏場の暑い時期に、システムごとに関与する府省を全員呼んで有識者議員等の方々と共に一堂に会してどのような予算要求をするのか、どのように各府省の役割分担をし、施策の連携を構成するのか、社会実装に向けた制度改革をどのように組み合わせるのか等について、システムごとに半日~1日みっちり議論しています。夏場は各府省の幹部人事異動とも重なり(国会閉会直後に通常人事が行われるが、今般は国会延長が重なったので異例である)、また8月末の省議(もしくは与党各委員会)での内部調整まで各府省はカードをなかなか表に出せないことから、この時期の議論は結構難しい問題を孕んではいます。一方、概算要求の時期が近づくと新聞紙上で○○省はこんな要求を目玉にするといった記事が出るのは、ようやく内部調整が整ってきたことから各省幹部がリークしているからです。このような議論の積み重ねによって各府省の概算要求がなされていますが、内閣府(総合科学技術・イノベーション会議事務局)では夏場の議論から予算の重点化をとりまとめ、行革事務局にその結果を連絡し重複審査がなされないよう、また、財務省の各府省担当主査には査定にあたって科学技術については内閣府の予算重点化を尊重するよう説明を行い、司令塔機能を果たしているというのが最近の動きです。

さて、総合戦略についての仕組みがあらかたわかったところで、具体的な施策の例についてみてみましょう。ここでは「高度道路交通システム」について説明します。総合戦略の記載内容を要約すれば、このシステムの共通のバリューと儲ける方法については「自動走行技術を活用し、地図にリアルタイムで人車情報を統合し、次世代都市交通システム(ART)や地域コミュニティ移動手段を提供」ということに集約できます。決して、自動走行自身が目的にはなっていません。自動走行のコアの部分は地図にリアルタイムに人車情報を統合することであって、これをダイナミックマップと呼んでいます。このダイナミックマップからあらゆるバリューが生まれてくるという考えです。例えば、地域の公共交通機関の維持がだんだんと財政的に難しい状況になっています。障がい者はもとより高齢者、ベビーカーの親子を含む交通弱者にとっては非常に重要な問題です。外出が減れば自らの心身の健康にも悪いばかりか地域の経済の循環にも問題が生じてきます。一方、最近の鉄道も怪しくなりつつありますが、バスについては定時運行を維持することは信頼ある交通機関としては必須のこととなっています。そこで、まず東京オリンピック・パラリンピックの時に、臨海部の会場への輸送にはオリンピック専用道路を新たに建設するのではなく、ダイナミックマップの状況を踏まえてバス通過のために信号を優先的に青に変えたり、バス停への停車においては歩道との間隔を3cm未満に制動し、交通弱者が人(特に運転手)の手を借りずに自ら乗車できるようにしていきます。また、乗客が多い場合には(可能であれば)無人バスを隊列走行させることも目標にしています。この社会実装を先鞭として、地域の信頼される公共交通機関として適用したり、ドライバーの即時の判断としては危険性が大きくなる高齢者の運転を見守り、状況によっては遠隔から操作をしたり、その最終的なゴールとしては地域コミュニティとしての無人タクシーというものも視野に入れています。すべてダイナミックマップがコアとなっています。また、若者が自動車を保有しなくなりつつある現状に対して自動車産業界としても新たな市場を作っていく狙いがあります。これはほんの一例でしかありませんが、2020年東京オリンピック・パラリンピックを科学技術の社会実装の第一弾としてその後の持続可能な科学技術の社会実装につなげていく狙いがあります。

ここで脇道にそれますが、1964年の東京大会での科学技術の活躍がどうだったのかおさらいしておきましょう。この年の10月、東京大会に合わせる(開会式を体育の日と指定)ように東海道新幹線が開業しています。また、衛星生中継が開会式直前に実現し全世界にリアルタイムで配信されるようになりました。どちらのこともその後の日本の経済社会を一変するとともに世界にも大きなインパクトを与えています。衛星生中継については、当時はまだ楕円軌道であったのですが、当時の郵政省がNASAに依頼して静止軌道位置に衛星を投入するように要請(NASAは衛星アポジモーターを改良)をするとともに、国内のキャリア、メーカとともに狭帯域無線通信路でも画像を圧縮してテレビ映像が送れるようにしました。この組み合わせにより世界初の衛星生中継が出来るようになったわけであり、その後の衛星の活用も格段に広がったのです。日本においては、画像圧縮技術については今でも世界をリードする技術的な強みとなっています。このようにオリンピック・パラリンピックの機会は大きなブレークスルーを引き起こすものになるので、今後の経済社会に大きなインパクトを与えることが期待されています。

また、28年度概算要求において文科省、経産省、総務省が人工知能関連予算を計上していますが、これについても根っ子は総合戦略2015にあり、IoT(Internet of Things)やビックデータ解析技術を導入して2020年大会を安全におもてなしを実現する大会とすることをまず第一の社会実装と位置づけ、公共の場における人の流れや認証を行うことにより、トラブル防止、犯罪の早期発見、迷子探しなど警備の高度化を図ることを目的としています。
http://www8.cao.go.jp/cstp/siryo/haihui010/siryo2-1.pdf
(科学技術イノベーション総合戦略2015の概要)
http://www8.cao.go.jp/cstp/siryo/haihui010/siryo2-2.pdf
(閣議決定された科学技術イノベーション総合戦略2015の本体)


○総合戦略によって科学技術関係予算はどうなっている?

これら総合戦略2015に基づく各府省の予算の重点化を踏まえた具体化はこれからですが、科学技術関係予算全体の規模はどうなっているのか、マクロで見てみましょう。27年度における科学技術関係経費は総額で3.6兆円という規模ですが、うち、大学への運営費交付金が1.3兆円、国立研究開発法人(いわゆる研究独法)への運営費交付金が1兆円、各府省の政策経費が1.3兆円(この中に科研費3000億円が含まれている)という内訳となっています。国全体の予算は100兆円未満、社会保障費がうち4割弱ということから考えれば科学技術関係経費は3%です。かつては科学技術関係経費、とりわけ科学技術振興費というカテゴリーは聖域でしたが、毎年膨張する社会保障費のために、聖域ではなくなっています。限られた予算の中、総合戦略2015を踏まえて内閣府で重点化した科学技術関係の28年度概算要求は約5000億円(大学への交付金は除かれています)で、まさにこの5000億円の研究開発投資を梃に社会経済の発展のための直接的な社会実装を行っていくということになります。当然ながら、別に計上されている大学運営費交付金による基礎研究の成果もこれに重畳していかなければなりません。もしも、これらの研究開発投資により社会保障費が1兆円軽減されるということが証明されたのなら、1兆円の何割かはさらに研究開発投資につぎこむことを自信をもって主張できることになります。もしくは税収の元となる国民総生産GDPがこれらの研究開発投資によって10兆円増えるというエビデンスが示されたのなら、これに相当する税収の何割かはさらに研究開発投資につぎこむことを主張できるでしょう。しかし、このエビデンスを示すことがかなり難しい問題だと思います。エビデンスを求める試行錯誤は今後も継続するとともに、仮説としてもそれを信じて、システムとして全体をみて、そのシステム全体でバリューをどこに求め、そしてその構成要素うちどこで稼ぐのかということを考えないといけないと思うわけです。
http://www8.cao.go.jp/cstp/siryo/haihui011/siryo1-1.pdf
(総合戦略2015を踏まえて内閣府で重点化した28年度概算要求は約5000億円)
https://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/gakushu/hatten/page06.htm
(政府歳出に占める社会保障費等)

以上、筆者がこれまで総務省、内閣府に勤務した経験を元に記載させていただきましたが、物の見方はいろいろです。読者自身で取捨選択されることで、なにかの参考になればと考え、行き過ぎた記載ぶりについてはご容赦いただきたい。


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【2】若手研究者のための英語論文執筆スキルアップセミナー:
これからの研究成果の国際的発信支援を考える
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2015年10月7日、大阪大学コンベンションセンターMOホールにて、大型教育研究プロジェクト支援室及び附属図書館共同主催のもと、「若手研究者のための英語論文執筆スキルアップセミナー」を開催しました。当初、申込者数を70~80名と想定していましたが、それを大きく超えて、33の部局等から事前申込382名、当日飛び入り参加52名の多数となりました。

また、附属図書館のオリジナル企画で、セミナー開催日の前後に本学の附属図書館4館すべてで、英語論文の書き方関連本(リストはこちら)の展示を行い、当日は会場においても特設の展示コーナーを設けました。

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写真左から:会場の様子、小野義正講師による講演、附属図書館での関連展示

当支援室では、2014年度より、文部科学省研究大学強化促進事業の一環として、「研究成果の国際的発信支援プログラム:英語論文の投稿支援」を実施してきました。支援を受けた研究者から、「英文論文執筆時に間違えがちなポイント」、「わかりやすい文章の組み立て方」等を知りたいという声が少なからず寄せられました。これらの要望は、我々が当セミナーを企画した1つのきっかけとなりました。

セミナーを企画したもう1つの理由は、上記支援プログラムの採択者の論文を読んでいるうちに、分野はそれぞれ異なっているにも関わらず、共通の間違えがちなポイントが確かに存在することに気付き、これらの対策をぜひ若手研究者(大学院生も含めて)に知ってほしいという思いでした。

英語を母国語としない研究者にとって、昨年度附属図書館と当支援室が共同主催した「若手研究者のための Author Workshop―これから国際誌に投稿する人のために―」のような、英語ネイティブの専門家による、海外の雑誌に投稿する際の一般的な知識といった話も重要なのですが、長年日本人向けに英語論文の添削、指導をしてきた日本人講師の実践的経験談も役に立つではないかと考えました。

今回招いた小野義正講師(理化学研究所創発物性科学研究センター客員主管研究員)は、1982年より多くの研究機関にて科学・技術英語教育を担当し、英語論文書き方の專門書も出版している先生であり、2時間の講演では、日本人英語の欠点と改善策、英語論文の構造や論理、伝えたい内容をうまく英語で表現する方法、査読者対策等、日本人研究者にとって効果的な英語論文執筆のポイントを分かりやすく伝授してくれました。

参加者からも、「非常に具体的かつ実践的であった」、「これまで感じていた問題点、疑問点を的確に示して説明して頂けたので、改めて自分の欠点を見直す良い機会になった」、「具体的なアドバイスや方法が多く学べた」等の反響がありました。

本学の国際的プレゼンスを向上させるためには、英語による研究情報、研究成果の積極的発信は不可欠だと思われます。分野によって一概には言えませんが、多くの若手研究者は、英語で論文を書く、投稿するという挑戦に向き合わなければなりません。

理想を言えば、図書館による文献やデータベース、機関リポジトリ等のリソース面での支援、学生のためのacademic writing program及びwriting center等の支援体制、教職員のためのwriting across the curriculum program、研究者の論文投稿に特化した支援などが揃った研究環境が望ましいと考えます(参照:「日米の大学にみるアカデミック・ライティング支援の役割」)。実際本学でも各部局によりこれらの支援環境が整備されつつあるので*、大型教育研究プロジェクト支援室も、引き続き関係部局と情報共有・連携しながら、研究者のニーズに対応した、より利用しやすい支援の取組みを考えていきたいと思っています。

(姚馨、大屋知子/大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチーム)

* 本学での取組み:
①全学教育推進機構及び一部の研究科が実施しているアカデミック・ライティング講義等
②マルチリンガル・エキスパート養成プログラムのAcademic English Support Desk、工学部・工学研究科のWriting Help Desk
③教育学習支援センターが実施しているアカデミック英語のFDプログラム等
④当支援室が実施している英語論文の投稿支援等


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【3】人文・社会科学のための研究倫理シンポジウム
「研究公正と研究倫理を問い直す―理念・制度・教育―」参加報告
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筆者は大阪大学の本部URAとして、人文・社会科学系(以下、人社系)研究に対するURA業務も担当しています。本稿では、筆者が業務上の参考情報収集のために参加した、人文・社会科学のための研究倫理シンポジウム「研究公正と研究倫理を問い直す―理念・制度・教育―」(2015年10月10日、於 上智大学四谷キャンパス)について報告します。

"研究公正と研究倫理を問い直す"というタイトルからも分かるとおり、「捏造」「改ざん」「盗用」に代表される「研究不正行為(research misconduct)」やグレーゾーンとされる「好ましくない研究活動(questionable research practice)」といった"べからず集"に焦点を当てたものではなく、どうしたら「責任ある研究活動(responsible conduct of research)」を実現できるか、人社系の問題として自ら考えていこうというメッセージが、全体を通じて感じられたシンポジウムでした。
※「研究」「倫理」「研究倫理」の定義例については、下方の【参考1】をご覧ください。


●本シンポジウムの概要

本シンポジウムは、科研費基盤研究(B)「『新しい』専門職の職業倫理:理論と実践の架橋を目指す領域横断型研究」(課題番号25284001)の主催によるもので、研究成果の一つである『人文・社会科学のための研究倫理ガイドブック』の出版報告を兼ねていたようです(ガイドブックについては後ほど改めて紹介します)。参加者は約50名(筆者目測)、詳しい属性まではわかりませんが、フロアからの発言などから想像するに、人社系の研究者だけでなく、大学の研究支援担当職員の方、これまで産学連携や医療における倫理問題に関わってきた経験豊富な方など、多様な人が参加している印象を受けました。


●当日の流れ

冒頭、研究代表者の眞嶋俊造氏(北海道大学大学院文学研究科応用倫理教育研究センター 准教授)より、研究倫理にどう向き合うかを、研究者にとってだけでなく社会にとっての問題として等、多様な角度から考える場にしたいという本シンポジウムの趣旨説明がなされました。

前半は、研究者としてあるいは実務担当者として研究倫理や研究公正の問題に携わっている3人からの講演がありました。ここでは講演者と講演タイトルのみご紹介します。
 -伊勢田哲治氏(京都大学大学院文学研究科 准教授)「Research Integrityから研究公正へ」
 -笹川光氏(日本学術振興会 参事 兼 研究倫理推進室長)「研究不正防止の課題と取り組み」
 -奥田太郎氏(南山大学社会倫理研究所 准教授)「『人文・社会科学のための研究倫理ガイドブック』の使い方」

休憩を挟んでの後半は、上述の4名に、栃内文彦氏(金沢工業大学基礎教育部 准教授)、中原聖乃氏(中京大学社会科学研究所 特任研究員)、村上祐子氏(東北大学大学院文学研究科 准教授)の3名を加えた7名で、ラウンドテーブル方式のディスカッションが行われました。時間も約2時間とたっぷり取られており、登壇者はもちろん、フロアからも活発に質問や意見が出されていました。

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写真1:後半のラウンドテーブル風景


●人社系ならではの研究倫理とは?

後日職場で、隣の席の同僚(理工系出身)にこのシンポジウムの話をしたところ、「そもそも人社系という括りでの研究倫理の論点って、どんなものがあるんだろう」というつぶやきが。例えば、研究データの改ざんの可能性がある分野は限られているし、「データ」と言ってもそれが何を指すのか、何のために保存するのか、保存にかかる時間的・物的コストよりも保存の必要性はまさっているのか、などなど、人社系をひと括りにして議論するのは無理があるのではないかと言うのです。いちいち的を射た指摘の数々、す、するどい。

実はラウンドテーブルの最後にも、「結局のところ、このシンポジウムが謳っている"人社系ならでは"って何ですか?」という同じ趣旨の質問が出されていました(あまりにタイミングが良かったので、一瞬仕込みかと思ってしまいました)。対する登壇者の答えはそれぞれでしたが、概ね「"人社系ならでは"の研究倫理というものは特に無い」ということで一致していました。それはつまり、「分野や思考方法などに由来する倫理面での特性はそれぞれにある」ように思われるものの、研究倫理自体は「人社系を含む全ての分野に関係する問題」であるとのこと。

こうして文字にすると当たり前のこと過ぎて、今回のシンポジウムでは何ら有益な議論がなされなかったと誤解されそうですが、そんなことは全く無く、研究倫理を考える枠組み、倫理教育のあり方、個人としての対応と組織としての対応、分野によるカルチャーの違い、研究不正防止のための体制構築や研究評価のあり方等、幅広いトピックについて実感を元にした当事者同士の意見交換がなされていました。筆者の印象ですが、こうした議論が、日本の人社系ならではの現状―全分野に共通するものとして、これまで大綱のような形で示されてきた規範とは別に、分野特有の論点が存在するのかしないのか、また、存在するとしたらどのようなものなのかを、ボトムアップで整理していく段階にあること―を浮かび上がらせていたように感じました。分野や国境、アカデミック・コミュニティとノンアカデミック・コミュニティなど、様々な境界をまたいでの研究活動がますます活発になっていることを考えると、思ってもみない場面で研究倫理の問題を突きつけられる人社系研究者も増えてくるのではと想像します。このシンポジウムや下で紹介するガイドブックは、各方面でそうした議論をより一層活性化していこうと改めて呼びかけるものと理解しました。


●『人文・社会科学のための研究倫理ガイドブック』の紹介

最後に、上述の通り、科研費プロジェクトの成果の一つとして、今月(2015年10月)発行されたばかりの『人文・社会科学のための研究倫理ガイドブック』を簡単にご紹介します。詳しい目次が気になる方は、版元の慶応義塾大学出版会ウェブサイトをご覧ください。

編著者の一人である奥田氏の「研究者の現状や内在的なものに着目した内容」というコメントの通り、研究方法別・分野別のコラムを始めとするリアルな事例など、自分の研究に照らして考えたり、周りの人たちとディスカッションしたりする材料がふんだんに盛り込まれています。「指導教員・研究機関の責任(第4章)」や「行政・社会のあり方と研究者の倫理(第6章)」といった章もあり、研究者以外の立場・視点にも配慮がされています。フロアからは「研究倫理に関する先行研究や多様な見解を示すほうが"ガイドブック"と称するにふさわしいのでは?」との指摘もありましたが、そうした情報は他で補うとして、人社系の研究倫理の論点を整理していく上での伴走役になってくれそうな一冊です。

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写真2:『人文・社会科学のための研究倫理ガイドブック』。通称"オレンジブック"だそうです。

(川人よし恵/大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室URAチーム)


【参考1】言葉の定義例(眞嶋俊造・奥田太郎・河野哲也(2015)『人文・社会科学のための研究倫理ガイドブック』慶應義塾大学出版会、pp.3-4 より)
・研究「物事を学問的に深く考え、詳しく調べ、真理・理論・事実などを明らかにすること」
・倫理「個人や集団の間、または社会で共有されている、生きていく上で従う(べき)規範、規則、取り決め、約束事」
・研究倫理「研究にあたり研究者が身につけておかねばならない規範、研究者が従わなければならない規則、研究者に要請される基準」

【参考2】研究不正に関する文部科学省の新ガイドラインと、それに関連した動き
度重なる公的研究費の不正使用や論文不正行為等を受けて、昨年、文部科学省のガイドライン2つが見直されました(「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」/2014年2月改正、「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」/2014年8月文部科学大臣決定・2015年4月適用)。これらのガイドラインでは、不正行為に対し、研究者、科学コミュニティ等の自立・自己規律を大前提とした上で、大学等の研究機関が組織としての対応を強化することや、機関と国双方が不正行為の事前防止に向けた継続的な取組みを進めることなどが求められています。
関連した新しい動きの一つとして挙げられるのは、科学研究費助成事業や戦略的創造研究推進事業等の競争的資金の交付を研究者が受けるに当たり、事前に研究倫理教育プログラムを受講することが義務付けられるようになったことです。大阪大学では、各部局において研究倫理教育を実施することとしています(参考:大阪大学研究公正委員会ウェブページ)。日本学術振興会および日本学術会議は、連携・協力して、研究倫理向上のための研修プログラム開発を進めており、現在、テキスト「科学の健全な発展のために―誠実な科学者の心得―」(日本語版/英語版)が書籍として、また、ウェブ上のコンテンツとして公開されています。同テキストに基づくe-learningコンテンツも、来年度の提供を目指して開発中とのことです。

【参考3】
北海道大学大学院文学研究科応用倫理研究教育センターで、2015年11月7日に、研究倫理教育をテーマにした国際ワークショップが開催されます。
International Workshop on Research Ethics:'Teaching research Ethics'


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【4】URA関連イベント情報
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大阪大学/第2回学術政策セミナー「なんのために研究をするのか-社会・学術への貢献」
日時:2015年11月5日(木)10:00~12:00
会場:大阪大学吹田キャンパス 吹田キャンパステクノアライアンス棟 1F 交流サロン
対象:研究者・事務系職員・URA業務に関心のある方
主催:大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室
要事前申込

大阪大学/Technology Assessment In the Netherlands
日時:2015年11月10日(火)16:20~17:50
会場:大阪大学吹田キャンパス 吹田キャンパステクノアライアンス棟 1F 交流サロン
主 催:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
共 催:大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室、大阪大学未来戦略機構科学技術政策研究室
言 語:英語
問合せ:stips-staff@cscd.osaka-u.ac.jp
備考:申込み不要。当日会場にお越しください。




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【5】大阪大学ホットトピック
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国際シンポジウム「南部陽一郎の物理学」(11月16日開催)

大阪大学の集い(東京)のご案内(12月5日開催)

大阪大学シンポジウム2015「成熟する社会の生態系 クリエイティブアイランド中之島の共創に向けて」(12月20日開催)

「環境報告書2015」を公表しました。

○最新の研究の成果リリース




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【6】次号のお知らせ(予告なく変更する可能性があります)
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大阪大学北米センターの取組みなどについて紹介します。



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2017年2月 4日(土) 更新(担当:URA 川人 )